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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
150/167

第150話

「うげっ、ホッピングバッグじゃねぇか」


 地面からもそもそと出て来た蛙を見て、レンツィオがげんなりとうめいた。


「ホッピングバッグ?」


「蛙の魔物だ。爪もねぇし牙もねぇからあんまり恐れることはねぇんだが、打撃が効かねぇんだよ。どんなに強く殴っても威力を吸収されちまう。脚力が強くて飛んできて圧し潰そうとしてくるが、まぁ避けられねぇことはねぇよ。ただ、面倒なことがあってな……」


「面倒なこと?」


 小首をかしげるユーリ。


「あぁ。舌がめっちゃくちゃなげぇんだ。しかも結構早い。気を抜いたらパックリ食べられるぞ。……そんな風にな」


 レンツィオがユーリの腰を指さす。そこにはピンク色の長いものが巻かれていた。

 顔を横に向けそのピンク色の物体の出所を確認するユーリ。

 ホッピングバッグが大きな口を開けていた。そう、これがホッピングバッグの舌である。


「へ? ……あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 腰からグンと引っ張られるユーリ。

 なすすべもなく、パクリ。ホッピングバッグの大きな口の中にユーリの体がすっぽりと収まってしまった。


「ーーーー! ーーーー!」


 口の中でユーリが大暴れするも、気にした様子も無いホッピングバッグ。そのままごくりと飲み込んだ。

 あまりの出来事にオリヴィアとフィオレ、ナターシャが呆然とする。


「内側からも打撃が効かねぇから一度飲み込まれると面倒なんだよ。やっぱり刃物の一つくらいは持っておくべき……」


「なに悠長に解説してんのよ!! さっさと助けるわよ!!」


 シャランと細剣を抜き放ち、ホッピングバッグに向けて走り出すオリヴィア。

 しかし、そんなオリヴィアにレンツィオが声をかける。


「やめとけ。中にいるユーリまで切っちまうぞ」


「だ、だったらどうしたら……っ!」


「わ、私の火魔法で丸焼きにしますか!?」


「それだとユーリまで丸焼きになるだろうが」


 オロオロするオリヴィアとフィオレ。そんな二人の前で、ホッピングバッグが急にえづいた。

 ヴォエッっという声と共に吐き出されるユーリ。


「まぁ、こいつら服までは消化できねぇから、人間を丸呑みしてもその内吐き出すんだよ」


「そ、それを早く言いなさいよ!」


 叫びつつもほっと胸をなでおろすオリヴィア。

 全力で暴れたであろうユーリが荒い息をしながらふらふらと立ち上がる。


「んで、こいつ頭悪いからよ。食べられないこと忘れてまた食べようとしてくるんだわ」


 息を整えている間に、またしてもユーリの腰に舌を伸ばし、パクリと飲み込むホッピングバッグ。


「あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


「まぁこんな感じで、刃物を持ってないと延々と飲まれては吐かれ、飲まれては吐かれを繰り返されるから気を付けろよ」


「言ってる場合か! ティア! 次ユーリを吐いたタイミングで切りかかるわよ!」


「ミスリルの剣、汚れるから、嫌」


「何のための剣なのよそれぇっ!!」


 命の危険が少ないと言っても、あまりにも緊張感のなさすぎる面々である。

 しかしこのままお手玉され続けるのは流石にかわいそうだ。

 オリヴィアが次にユーリを吐いた時に切りかかろうとタイミングを計り、フィオレは魔法を唱え氷の槍を準備する。

 いまかいまかと待っていると……


 ドッパァン!!


「キャアアァァァァァァ!!」

「ギャアアァァァァァァ!!」


 ホッピングバッグの体がいきなり爆発四散した。

 撒き散らされる蛙の肉片に叫び声をあげるフィオレとオリヴィア。幸い、肉片は彼女たちとは反対方向に飛び散ったため大惨事はまぬかれた。

 息あらく出てきたユーリ。


「はぁ、はぁ。あー、びっくりしたー。そのまま消化されるかと思った」


「びっくりしたのはこっちよ! もう、ヒトコト言ってからやりなさいよね……」


 目の前でいきなり蛙が爆発したのだ。心臓に悪いことこの上ない。

 しかし、オリヴィアとフィオレ以上に驚いている人が一人。レンツィオである。


「おいおい嘘だろ……。今のどうやったんだ? 殴る蹴るじゃ、ホッピングバッグはぜってぇ倒せねぇはずだぞ」


「あ、それは……」


「待って。まだ、来る」


 説明しようとしたユーリを止めるセレスティア。周りを見ると、先ほどと同じように土がモゾリモゾリと盛り上がっている。それもいくつも。パッと見ただけで、30は越えている。

 大量のホッピングバッグの出現である。


「おし。それじゃ後は頼んだ。土の精霊、強固な壁となり我を囲い守れ」


 早々にに分が悪いと思い諦めたレンツィオが、土魔法でドーム型の土壁を作る。


「私も入れなさいよ」


 ナターシャがそこにヒョイと飛び込んだ。

 彼女も蛙に対抗する手段は持たないのだ。


「あんたたち! 覚えてなさいよ! くっ!」


 悪態を吐きながらも伸びて来た舌を細剣で断ち切る。文句言っていても状況は良くならない。諦めて戦闘開始である。

 どこそこから舌が伸びてくるため、フィオレは避けるのに精いっぱいでなかなか魔法が放てない。


「水の精霊、氷槍となりて大蛙を穿て!」


 それでも避けなら、着実に一体ずつ串刺しにしていく。


「ほいっ!!」


 ドッパァン!


 ユーリは触媒を使い、蛙を爆発四散させる。


「ユーリ! それこっちに向けてやったら許さないからね!」


「はーい。……それっ!」


 タイミングを計り、着実に倒していく。

 触媒を用いて相手を内部から破壊する『ふうせん術』だが、まだまだ流れるようにとはいかない。

タイミングを計り、掛け声をかけねば発動をミスする。

 ……現に時々暴発し、飲み込まれている。

 ちなみにセレスティアは風魔法で空中に逃げて傍観中だ。


「ちょっとティア! あんたも手伝いなさいよ!」


「無理、気持ち悪い」


「戦ってるの仲良し組の初期メンバーだけじゃない!! 何のための新メンバーなのよーー!?」


 使えない新メンバー達に悪態を吐きながら、オリヴィアが蛙を切りまくる。ホッピングバッグと一番相性のいいのはオリヴィアである。……セレスティアもであるが。

 ユーリとオリヴィアは蛙の粘液まみれに、フィオレは泥だらけになりながら、何とかすべてのホッピングバッグを倒したのであった。

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