第148話
「それでは改めて、『銀鉱石おすそ分け作戦』の概要を説明しますっ!」
「作戦名変わってんじゃねぇか」
早速オリハルコンのブーツと籠手を装着しているレンツィオからツッコミが入るが、そのツッコミに勢いはない。
少しニヤけている。新しい装備がよほど嬉しいのだろう。
「まず目的地は、ベルベット領都の南西に位置するミネ湿原。湿原の西側に鉱山があるけど、領都の管理地だから立ち入りは禁止されてる。その鉱山の成分が雨によって湿原に流されて、ジュエルトータスの栄養になってるみたい。馬車で行くと、一番近い村まで7日、そこから歩いてさらに1日かかっちゃう。だけど、その工程を3日に縮めようと思う」
「どうするの?」
当然のフィオレの疑問。ユーリはオリヴィアに視線を向けと、彼女が大きくうなずいて口を開いた。
「早馬で駆けるわ」
早馬。それは馬車と異なり、背に直接人を乗せて走るための馬である。
乗れるのは一頭につき最大でも二人まで。荷物もあまり多くは持てないが、その代わりにとても早い。
もちろん馬も生き物なので休憩する必要はあるが、それでも馬車に比べれば倍以上の速度で移動できるし、荷物が軽いので一度の移動時間も長い。
ただ、大きな欠点が二つ。
「誰がそんな高けぇ金払うんだよ」
「私、馬になんて乗れないわよ?」
レンツィオとナターシャがその欠点を口にする。
そうなのだ。欠点は馬を借りる金額が高いことと、乗り手に技術が必要なこと。
「お金なら私が払うわ! ミスリルの剣に比べれば安すぎる出費よ!」
「そりゃミスリルの剣に比べれば安いだろうけどよ」
基本的に無駄遣いをしないオリヴィアだ。冒険者活動で溜めた資金はそこそこある。こういう時に使わないでいつ使うと言うのだ。
お金の方は良いとして、問題はもう一つ。
「早馬には最大で二人のれるわ。ティアとレンツィオも乗れるわよね?」
「ん、乗れる」
「まぁ乗れねぇことはねぇよ」
「私とティア、レンツィオの三人が、ユーリとフィオレ、ナターシャを一緒に乗せて駆ける。それで問題ないわ」
早馬の件については問題なさそうだ。
ちなみに戦闘能力の無いセリィはお留守番である。
「僕は馬に直接乗って移動したことが無いから分からないけど、多分お尻とかいたくなるし馬も人も消耗しちゃうと思う。そこでナターシャの出番」
「光魔法で癒せばいいのね。まかせない」
「うん。夜はレンツィオとお姉ちゃんがいるから、お風呂を作ってゆっくり体を癒そう。食料や馬の餌はあまり多く持っていけないけど、近くの村で買ったり動物を狩ったりして現地調達でなんとかするつもり。ティアの木魔法もあるから、よっぽどのことが無い限りは何とかなると思う。調理はオリヴィアにお願いするね。旅路はそれでいいとして、次は肝心のどうやって銀鉱石を分けてもらうかだけど」
一呼吸おいて続ける。
「準伝説級と呼ばれるジュエルトータスだけど、生き物だから当然寝なくちゃいけない。ミネ湿原に体をうずめて寝るらしいんだけど、体長20メートル、体高が15メートルはあるから、その巨体を全てをうずめることはできないらしいんだ。だから、寝ているジュエルトータスの背中を狙う。残念ながら魔法は効かないから、まずはお姉ちゃんの水魔法で氷の足場を作って近づく。近づいたらレンツィオの土魔法で階段状に土を固めて高さを稼ぐ。そしてセレスティアの風魔法の援助で背中に飛び乗る。これは僕、オリヴィア、レンツィオの3人だね。セレスティアはフィオレとナターシャのそばにいて。準備が出来たら、銀鉱石の鉱床を思いっきり叩き割る!」
「亀、起きない?」
当然の危惧をセレスティアが口にする。
「当然起きると思う。だけど相手は巨大亀。そこまで動きは早くないと思うんだ。だから銀鉱石を叩いたら一目散に逃げよう。逃げるときは少しでも時間を稼げるようにナターシャの光魔法を使う」
「魔法って効かないんじゃなかったかしら」
「うん。だけどそれは体に攻撃されたときの話。魔法をはじけると言っても、目が見えているってことは目から光を取り込むことは防げないはず。ジュエルトータスの眼前に光の珠をはじけさせて、目くらましにしよう。確か魔法実技大会でやってたよね」
「えぇ、可能よ」
「『おすそ分け』とか穏やかな作戦名からは考えられないほど強引な作戦だなおい。どっちかっつーと強盗じゃねぇか」
「背中から鉱床が生えてるとか邪魔そうだから、多分亀さんにとっても悪いことじゃないよ。多分」
なんとも自分勝手な想像である。
「出発は明後日! 荷物は最小限にして、朝からここに集合しよう。もし何か必要な物があったらこの後僕に教えて。可能なら錬金術で作ってくるから。それじゃ、いったん解散!」
ジュエルトータスにとってハタ迷惑な作戦が、始まろうとしていた。




