第144話
「よし、出来た!」
刃を研ぎ、柄に革を巻いて、遂にミスリルのショートソードが完成した。
磨き上げられたそれは、ミスリルのナイフと同じように青銀の虹彩を放つ。
鍔の部分だけは剛性を重視してオリハルコンで作られており、それもまたかっこよい。
満足気な顔でユーリがムフーと鼻息を吐く。
「どう? 完璧じゃない!?」
「完璧を超えておるわド阿呆」
「ティア、いいなぁ」
呆れるラウラと羨ましがるオリヴィア。なお、オリヴィアは前回のように、ユーリとセリィが倒れるのでは無いかと心配して鍛冶場まで来ていた。
残りの工程は仕上げだけなので心配は杞憂に終わったが。
満足気にショートソードを眺めているユーリにラウラが声をかける。
「オリハルコン、ミスリルと来たら、次はヒヒイロカネじゃな」
幻の三大金属。その最後の一つがヒヒイロカネだ。これが作れれば、もはやユーリは鍛冶界隈を掌握したと言っても過言ではないだろう。
しかし、
「ヒヒイロカネはいらないかな」
「ふぇ?」
ユーリから出て来たのは全く想定外の答えだった。
「ヒヒイロカネってミスリルよりも柔らかいんでしょ? 調べてみた感じだと武器には向いて無さそうだったし。金属鎧にするといろんな攻撃防げるらしいけど、僕たちは皆軽装備だし、必要ないかなって」
「い、いや、しかしじゃな! ヒヒイロカネは三大金属でも一番のレア金属じゃ! 今後何かに役に立つかもしれんぞ!?」
「必要になったらでいいかな。そもそも金を探すのに骨が折れそうだし、買うと高いし。次はオリヴィアが使うミスリルの細剣を作る予定だし」
「んな……」
ラウラが絶句する。ヒヒイロカネには鍛冶師の悲願が、ロマンがこれでもかと詰まっているのだ。なのにユーリは現実的に判断していらないと言う。
「ユーリ! お主も鍛冶師ならヒヒイロカネにロマンを感じるじゃろうが!」
「あはは。ラウラ、僕は錬金術師だよ?」
「……そうじゃった」
時々忘れそうになるが、ユーリは鍛冶師ではない。鍛冶師はあくまでも夢の為の寄り道でしかない。メインは錬金術師なのだ。
いや、正確に言うと錬金術師すら魔法を使うための手段でしかないのだが。
「それにミスリルでさえあれだけ疲れたんだから、それよりもすごいヒヒイロカネはもっと大変に決まってるよ。だから今は良いかな」
まったく揺らぎもしないユーリの意思に、ラウラががっくりと肩を落とした。
「まぁ、オリハルコンとミスリルが精製できるところを見られただけでも大層なことじゃからな……。しかし、ヒヒイロカネ……」
しょんぼりするラウラを見て、流石のユーリも申し訳ない気持ちが湧いて来た。
「じゃあさ、僕の夢が叶ったら、今度はヒヒイロカネの精製を試してみるよ。その時は一緒にやろう?」
「ほ、本当か!? 嘘じゃないな!?」
「うん、本当」
「約束じゃぞ! 覚えておくからな!」
ヒヒイロカネはまたいずれ挑戦するとして、とりあえず目的であるミスリルのショートソード、セレスティアの武器の作成は完了した。
さっそくお披露目といこう。
◇
「……すごい」
ユーリからミスリルのショートソードを受け取ったセレスティアは、鞘から抜き放つなり、一言漏らした。
言葉少なではあるが、最大の賛辞が込められていることが分かる。
屋敷の庭の枯れ木から舞い落ちる枯葉に向けて、二閃。枯葉は砕けることなく、綺麗に四分割された。
「軽い。鋭い。扱いやすい」
セレスティアがショートソードをいろいろな角度から眺め、鞘に納めては抜き放ち、素振りをしたり、指ではじいてみたり。
「……何より、かっこいい」
どうやら相当気に入っているようだ。
「私史上、最高の剣」
セレスティアが何歳なのかは分からないが、500年前の錬金術師であるグレゴリアと一緒にいたのだ。500歳以上であることは確かである。
そのセレスティアが今まで使用してきたどの剣よりも優れているという。流石はミスリルである。
「本当に作れるとは、思わなかった」
ユーリはセレスティアを誘ったときのことを思い出す。確かにあの時、ミスリルの剣を作ると言ってもセレスティアは信じていなかった。
そのセレスティアの鼻を明かせたのだ。ユーリとて鼻が高い。
「それじゃあ、これで『仲良し組』に入ってくれる?」
「ん。約束、守る」
「やった! ありがとう、セレスティア!」
「ん、こちらこそ」
仲良し組にセレスティアが加入した。
これでメンバーはユーリ、オリヴィア、フィオレ、ナターシャ、セレスティアの5人パーティだ。接近戦のユーリ、オールラウンダーのオリヴィアとセレスティア。魔法使いのフィオレと回復のナターシャ。バランスの良いパーティーである。
「んー、五人パーティになったけど、バランスがわるいなー」
しかし、ユーリはそうは思っていないようだ。
「そう? 私は良いと思うわよ? 魔法だって火、水、風、木、光で幅広いし。何が不満なのよ」
「男が僕だけだなって思って」
「いいじゃない。アンタだって男かどうか疑わしいんだから」
「僕はちゃんと男の子だよ!」
オリヴィアの言う通り、はたから見れば美少女ぞろいのパーティである。
正統派のフィオレ、クールなオリヴィア、見た目は美人エルフのセレスティアに、元お姫様のナターシャ。最後に天真爛漫なユーリ。
まぁ、実態はブラコンのフィオレ、不憫枠のオリヴィア、怠惰エルフのセレスティアに、毒舌我儘なナターシャと狂人のユーリであるが。
「やっぱりレンツィオが欲しいな。土魔法も使えるし。何かいい方法無いかなぁ」
「そうねぇ。それこそもので釣ったらいいんじゃない? あいつの戦闘スタイルからして、オリハルコンの籠手とか垂涎ものだと思うわよ?」
「それもそっか。あと、レンツィオの石火でもへっちゃらな強化ブーツとかいいかも。うーん、せっかくだから裁縫も覚えて強い革とか作ってみようかな」
「どんだけ手広くやるつもりなのよあんたは……」
フットワークの軽すぎるユーリにオリヴィアが呆れる。
やると言ったらやるのだろう、この少年は。
「……そしたら、私の胸当ても作ってくれる?」
そしてちゃっかり乗っかろうとするオリヴィアであった。
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