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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
133/167

第133話

「それじゃ、紹介するね。こっちの綺麗なエルフさんが銀級冒険者のセレスティアで、青い髪のかっこいい人が銅級冒険者でパーティメンバーのオリヴィア。お姉ちゃんのことは知ってるよね」


「私、綺麗なエルフの、セレスティア。よろしく」


「普通自分で言う? オリヴィアよ。よろしくねナターシャ」


「……私の自己紹介はいらないよね。改めてよろしく、ナターシャさん」


 セレスティアはいつも通りに、オリヴィアはそんなセレスティアに突っ込みながら、そしてフィオレはどこか警戒するようにナターシャに挨拶をする。

 場所はセレスティアの屋敷。ユーリはそこにナターシャを連れてきていた。目的はもちろん、『仲良し組』への加入の為である。


「セレスティアに、オリヴィアね。よろしく。ナターシャよ。知ってるかもしれないけれど、少し前まではナターシャ・ベルベットだったわ。だけど今はもうただのナターシャ。よろしく」


 セレスティアとオリヴィアに挨拶を返した後、フィオレの方を見る。


「フィオレもよろしくお願いするわ。それとも……おねえさんと言ったほうがいいかしら?」


「どういう意味かなっ!?」


「そのままの意味よ。私の命はユーリの物になった。ならフィオレは私の姉も当然だわ」


「全然当然じゃないよっ!」


 ガルルル! と今にもナターシャに噛みつきそうなフィオレだが、ナターシャはどこ吹く風だ。死の淵を見てきた彼女は強くなっていた。

 いつもは良い子で大人しいフィオレのそんな姿にオリヴィアが目を丸くする。


「フィオレのこんな姿初めて見たわね。……いや、初めて会ったときはいきなり魔法ぶっぱなそうとしてきたっけ?」


「フィオレ、ユーリのことになると、見境無くなる」


 懐かしい記憶を思い出してしみじみとするオリヴィアとセレスティア。

 そんな二人をよそに下手をすると取っ組み合いを始めそうな二人を、ユーリがなだめる。


「二人とも、仲良くしないとだめだよ。『仲良し組』なんだから」


「いや元凶はアンタなんだけど……」


「そうなの? お姉ちゃん、ナターシャ。僕のせいならごめん。でも、仲良くしてほしいな」


 ユーリが言うと、途端に二人は言い争いを止めた。


「分かった。お姉ちゃん仲良くするね」


「ユーリがそう言うなら努力するわ」


 ガシリと握手する二人。目は笑っていない。

 あまりいい雰囲気とは言えない、形だけの和解。しかし、無視してユーリが話を続ける。


「ナターシャは元々は火、水、木、そして光のクアドラプルだったんだけど、僕のせいで今は光魔法の単一属性シングル。でも、すごく魔法が上手だよ。四級ポーション程度の回復魔法が使えるんだっけ?」


「そうね。少なくともそのくらいは出来るわ。あとユーリのせいではないわよ」


「いろいろあって身体は弱いから、最後衛で援護してもらう形になるけど、パーティの戦略の幅は広がると思う。それで、今後の目標なんだけど」


 一呼吸置いてユーリが口を開く。


「明確な目標は一級もしくは二級キュアポーションの作成、そのために世界樹ユグドラシルの若葉を手にいれなくちゃいけない。これは僕とエレノア、ナターシャの精霊化と、ナターシャの身体を蝕んでいる呪いの治療になるかもしれないんだ」


 ユーリがペコリと頭を下げる。


「お姉ちゃんとオリヴィアには負担をかけちゃうけど、手を貸して欲しいんだ。お願いします」


 改まったユーリの態度にオリヴィアとフィオレが一度顔を見合わせる。


「何言ってるの。私はユーリのお姉ちゃんなんだから、協力するに決まってるよ!」


「私だって協力するわよ。ユーリもだけどエレノアだって私の大切な友人なんだもの。ユーリがやらないなら、私一人でもやるわ」


 力強い二人の言葉。良い仲間を持った。


「セレスティア。僕たちだけじゃ力も経験も足りてない。セレスティアにも力を貸して欲しい」


「ティア。あんたも手伝ってくれるわよね? 世界樹の管理ってエルフがやってるんでしょ?」


 ユーリとオリヴィアの言葉にセレスティアが微妙な顔になる。


「あそこ、あまり、行きたくない」


「弟子二人が頼んでるっていうのにアンタは……」


 何か事情があるのだろう。セレスティアはあまり乗り気ではない。

 ユーリはオリヴィアの腰に佩かれたショートソードをちらりと見る。ジャイアントスパイダーを切って以来、ぞんざいに扱われているショートソード。


「セレスティア。そのショートソード、玉鋼で出来てるやつだよね」


 ユーリの突然の言葉に、セレスティアが自慢げに鼻をならす。


「ん。高級品」


「純ミスリルの剣、欲しくない?」


 セレスティアの目の色が変わる。

 ミスリルの含まれた装備はほとんど見かけることが無い。純ミスリルともなると、セレスティアでさえ見たことは無いし、あったとしたならそれは目が飛び出るような値段であろう。

 ミスリルは鋭く、強く、そして軽い。速さを武器とするセレスティアは喉から手が出るほど欲しい。そしてなにより、かっこいい。


「持ってるの?」


「今は持ってない。けど、手に入れられるかもしれない」


 すっとセレスティアの目から興味が消えた。期待は薄いと思ったのだろう。


「分かった。純ミスリルの剣くれるなら、私も仲良し組、入る。世界樹も、一緒に行く」


 セレスティアの言葉を聞いて、ユーリは内心でガッツポーズした。セレスティアが積極的に協力してくれるのであれば、活動の幅が大きく広がる。


「うん。ありがとう、セレスティア」


「ミスリルの剣、待ってる」


 さて、方針は決まった。しかし、世界樹ユグドラシルに行くにあたり問題が一点。


「うーん、いつ行こうかな、ユグドラシル。行くとしたら学園をかなり休んじゃうことになるよね」


 そうなのだ。ユーリには学園の授業がある。流石に何か月も留守にしてしまうと、進学が怪しいし下手をしたら退学だ。


「高等部になったら単位制よね? どうせすぐに行くわけじゃないんだし、ユーリが高等部になってからでいいんじゃないかしら。私が在学していた頃の話だから、制度が変わっていなければだけど」


 オリヴィアの言葉にフィオレが頷く。彼女は今年から高等部一学年だ。


「はい。変わってないですね。頑張る必要はありますが、半年で進級に必要な単位を取得することも可能だと聞いています」


「ほんと!? だったら出発は二年と半年後にしよう。それまでにミスリルの剣を作ろう」


 セレスティアのパーティ加入の為に、ミスリルの剣を作ることに意気込むユーリ。


「私ももっと強くなるわ。せてめてティアから一本くらいとれるくらいにはなっておきたいわね」


 自分の力不足を補おうとするオリヴィア。


「私ももっと魔法を学びます!」


 少しでもユーリの役に立とうと、長所を伸ばすことにしたフィオレ。


「私は……ついて行けるくらいの体力が必要ね」


 呪いのせいで一歩遅れているナターシャは、せめて足手まといにならないようにと決意する。


 大きな方針は定まった。

 飛躍に向けての下積みを始めよう。


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