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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第128話

 エレノアと共に二級キュアポーションのレシピの解読と、代替素材の検証をすること早一ヶ月。

 ユーリとエレノアは疲れ切った顔で話し合う。


「……ダメです。やはりこの二つの素材は代替がききません」


「だねー。木のエレメントのおかげで大分応用は効きそうだけど……」


 考案したレシピは軽く百を超える。あの手この手で考えてみたものの、どうしても代替ができない素材が二つ。


・世界樹ユグドラシルの若葉

・悪魔落としの実


 ユグドラシルは知っている。エルドラード王国の北にある国、そのさらに北にある森にそびえ立つ巨大樹である。

 噂ではエルフにより護られており、いくら金を積んでも、その葉を売って貰うことはできないらしい。

 それでも存在していることは確かである。

 問題はもう一つ。

 悪魔落としの実については何も情報がない。

 悪魔が落とした実なのか、悪魔を落とす実なのか。

 一体どういう効果があるものなのか……


「あ」


 ユーリが唐突に声をあげた。


「どうかしましたか?」


「僕知ってるかも。悪魔落としの実」


「本当ですか!?」


 ユーリは思い出す。以前、絵物語を読み漁ったときのことを。ユーリが読んだ絵物語の中の一冊。たしかそのタイトルは。


『眠り姫と悪魔落としの果実』


「ちょっと図書室で借りてくるよ!」


 思い立ったらすぐ行動。ユーリは研究室を走って出てくると、五分程度ですぐに帰ってきた。


「これこれ!」


「行動が早すぎませんか……?」


 フットワークの軽すぎるユーリに感心するエレノアであった。

 ユーリは絵物語を開いて目を通す。

 本の内容は以下の通り。

 

 昔々ある王国に一人の麗しいお姫様がおりました。お姫様はその見目麗しさと心の美しさから、たちまち皆の人気者になりました。

 それに嫉妬した第2王妃様は、嵐の夜に悪魔と契約してしまいます。


『闇より産まれし邪悪な悪魔よ、あの生意気な娘を永遠の眠りに落としておくれ』


 悪魔はお姫様に取り憑いてしまいました。

 深い深い眠りについてしまったお姫様。あらゆる薬や治療を試しても目覚める様子はありません。

 どうすることも出来ないと皆が諦めかけたとき、第一王子がとある噂話を耳にしました。

 取り憑いた悪魔を祓う効果のある植物が、砂漠の中心に生えているというのです。その名を『アグラオフォティス』。通称、悪魔落としの果実。

 その果実を絞って得た赤い液体を飲むと、身体から悪魔を追い払う事ができると言います。

 王子は仲間とともに砂漠へ行き、その実を探して持って帰りました。

 赤い果汁を飲んだお姫様は無事に目を冷まし、幸せに暮らしました。


「アグラオフォティス、ですか」


「この本だと、サボテンの実みたいに見えるね。お婆ちゃんが教えてくれた話には出てこなかったな」


 絵物語の挿絵には、砂地にぽつんと生える平たいサボテンのような植物に、プックリと実がなっているように見える。

 白黒なので色はわからないが、絵物語の文中にあるとおり赤いのだろう。


「砂漠と言えば、エルドラード領の東、南北に伸びる山脈の更に東に砂漠がありますね」


「うん。確かグランドワーム山脈と、グランドワーム砂漠」


 嘘か真かは分からぬが、地中奥深くに住み、溶岩を食べると言われる巨大ミミズ、グランドワームが、たまたま地中付近を通った時に隆起して出来たと言われる山脈、それがグランドワーム山脈である。

 西から吹く風は山脈で遮られ雨を降らせたあと、カラカラに乾いて吹き降りる。そうして出来たのがグランドワーム砂漠である。

 動物も植物も少なく、滅多に人は足を踏み入れない。未開の砂漠である。


「うーん、行って帰るだけでも半年くらいかかっちゃいそう」


「やっぱり行く気だったんですね……学園に通っている内はさすがに無理だと思いますよ」


 そもそも、アグラオフォティスの生息地がグランドワーム砂漠であるとは限らない。どこか違う大陸、それこそ南の海を渡った先にある、グレゴリアのいた砂漠の可能性だってあるのだ。


「うーん、何処かに種とか売ってないかなぁ」


「おとぎ話に出てくる植物の種子ですから、そんな簡単に手にいることは出来ないですよ。もし実在するとしたら、持ち主は誰にも開けられない金庫に大切に閉まって置くと思いますよ」


「そうだよねー……自分だけしかあけられない、大切な金庫に……」


「はい。それこそ魔力箱のような……」


 言いながらユーリとエレノアは戸棚を見る。

 大小様々な、開封済みの魔力箱が置かれている棚。

 そこにはニコラが売れないと判断したものがそのまま放置してある。

 たしか、その中に種子があったはずだ。赤くて小さい種子が……


「エレノア! 木の魔法使えるよね!?」


「はい! やってみましょう!」


 ユーリとエレノアは大急ぎで教官室へと走り、ハーブティーを飲んでいたペネロープを捕まえ、そのまま温室へと急ぐ。


「ペネロープ。どこらへんなら使っていい?」


「そうですね。ここらへんの角が良いと思いますよ。もし本物だとすれば、乾いた空気と土を好むと思いますので、水場から離れた方が良いと思いますよ。それにしても、アグラオフォティスね。私も昔、名前だけは聞いたことがありますよ。実在するとは思っていませんでしたが」


「エレノア! ここで良いって! はやくはやく!」


「は、はい!」


 ペネロープの話を聞き流しながら5つある種子を植えるユーリ。

 ユーリが置いた種子の近くにエレノアが手を添えて詠唱する。


「木の精霊様、かの種子のかてとなり、生育をお助けください」


 ズズズ


 エレノアが魔力を込めるも、中々発芽しない。

 ポタリと汗が落ちる。

 魔力箱に入れられてかなりの時が経っているのだ。種子が死んでいてもおかしくないだろう。

 何とか発芽させようと魔力を込め続ける。しばらく続けると、1つの種子から可愛らしい芽が出てきた。


「来たっ!」


 歓喜の声をあげるユーリ。エレノアはその一つの種子に魔力を集中する。


「……くっ」


 どんどんと魔力が吸われていく。普通の植物であれば、既に成木となっていてもおかしくない量の魔力を込めているというのに、まだ芽が数センチ伸びた程度だ。


(あり得ないくらい魔力を持っていかれる……っ)


 エレノアが焦る。芽が出たのは嬉しいが、このままでは魔力が足りないかもしれない。最悪なパターンは、中途半端に成長したところで魔力切れになり、種をつける前に枯れてしまうことだ。

 例え魔力の枯渇で倒れたとしても、実がなるまでは頑張ろうと決意し魔力を注ぎ込む。

 出てきた目が厚みを増し、平たく肉厚の茎となり更に伸びる。ウチワのような平たい茎から、さらに二つのウチワのような茎が生え、所々に棘が突出している。とても滑稽な形の植物だ。

 さらに魔力を込め続けると、ウチワのような茎の先に、赤い実が出来始めた。


「……アッ……ぐ……」


 3つ目の実が成ったところで、エレノアが、フラリと後に倒れた。慌ててユーリ支える。


「エレノア! 大丈夫!?」


「は、はい……大丈夫です……。かなり、魔力を消費してしまいました……」


 汗だくで息が荒いものの、意識はしっかりしている。ペネロープが急いで注いできてくれた水を飲み、フゥと一息。


「これがアグラオフォティスかは分かりませんが、かなり属性値の高い植物であることには違いありません」


「いや、これはアグラオフォティスに間違いなですね。私もびっくりです、こんなところで伝説の植物を見られるなんて」


 ペネロープがまじまじと奇妙な植物……アグラオフォティスを眺める。


「昔、私も調べたことがあるんですよ。かなり古い書物でしたが、たしかにこのように肉厚な葉と棘、そして赤い実がなると記されていました」


「ほんとに!? アグラオフォティスなの!? やった、エレノアやったよー!!」


「はい! やりましたね!」


 大喜びするユーリ。これで残る素材は世界樹ユグドラシルの葉のみ、残りの課題は複数人での錬金術である。

 少しずつだが着実に進んでいる。

 第二級位キュアポーションが作れればナターシャの体調も治るだろう。

 この時、ユーリはまだ悠長に考えていた。そんなにすぐにナターシャの体調は悪化しないだろうと。

 楽観的に考えていた。考えてしまっていた。


 この年の学年末特別試験。

 ユーリ、錬金術品評会 一位。

 フィオレ、魔法実技大会 中等部三年にして異例の優勝。


 ナターシャ、魔法実技大会 初戦不戦敗。


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