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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第118話

「それじゃ、水晶樹の森の中心を通って帰ろう」


 翌日。ユニコーンの角を手に入れたユーリ達一行が帰路につく。少しだけ寄り道すれば水晶樹の森の中心地を通ることができる。あわよくば以前セレスティアが見つけた緑色のエレメントを拾って帰りたい。

 五人と一匹が歩くこと数時間、ほとんど水晶樹しかない景色に、一箇所だけ蔦が密集して生えているところがあった。


「セレスティア。植物が生えてる場所があるよ」


「ん。多分、あそこらへん。エレメント、見つけたの」


 どうやらセレスティアがエレメントを見つけたのはここらへんらしい。


「攻撃しなければ、大丈夫。なぐったり、しないこと」


 セレスティアが突然そんな警告をしてきた。


「ティア、どういう意味よ」


「近づけば、分かる」


 蔦が密集している場所まで近づいてきたユーリ達。彼らが見たものは、


「……おいおい、まじかよ」


「……竜、ですか?」


 全身に蔦を纏った巨大な竜であった。ずんぐりむっくりとした巨大な身体で、大きな羽を布団のように自らの身体に被せている。

 蛇というよりはトカゲ型の竜だ。

 頭だけでユーリよりも大きく、立ち上がれば体長が十メートルは超えるだろう。まるで山のようなその竜の特徴は何と言っても全身に纏わりつく植物だ。

 一見すると竜の躯に植物が根をはやした様にも見えるが、ゆっくりと上下する身体と、鼻から吹く風が生きていることを証明している。


「木龍。金級の魔物。大人しくて、基本、寝てる。ちょっかい出さなければ、無害」


「無害って……」


 セレスティアの言う通り、木竜やその老成体の木龍は気性がおとなしい竜である。魔物等級は当然金級。


「ユーニと同じ等級なんですね」


「一定の強さからは、全部金級。でも、竜レベルになると、伝説級とか、準伝説級とか、呼ばれることもある」


「そういや星喰クジラも伝説級って聞いたことあんな」


「すごいなー……。鱗貰えないかな?」


「貰えるわけないでしょ」


 キラキラした瞳で木龍を見るユーリ。属性竜の鱗は最上位クラスの魔法素材である。当然欲しい。


「エレメントが落ちてたの、この辺。探す?」


「探す!」


 ユーリたちは寄り道ついでにエレメント探しを始めた。



 最初はその巨体に驚いたものの、人間というものは慣れるものである。ただ鎮座して寝ている木龍のことなど気にもせず、ユーリ達はエレメントが落ちていないか探している。


「……ん?」


 めざとくユーリがエレメントらしきものを見つけた。緑色に輝く正八面体の物体。


 しかし、


「すごく小さい」


 その大きさは数ミリといったところだ。


「これ、エレメントなのかなー。エレメントって、ちょっとずつ大きくなっていくのかな。あ、こっちにもある」


 離れたところにもう一つ。やはり小さい。

 見回して、また一つ。

 探していくうちに、ようやくまともな大きさのエレメントを見つけた。岩陰に隠れるように落ちていたエレメントを拾い上げ、ユーリが小さく歓声を上げる。

 その数3つ。


「やった! やっと見つけた!」


 ずっと下を向いていた顔をあげると……


 ギョロリ


「わっ!」


 岩から目がでた。いや、ユーリが岩だと思っていたものは、木龍の頭だったのだ。

 気がついたら間近も間近。手を伸ばせば触れる距離に木龍の頭がある。先程のユーリの声で目が覚めたのだろう。


「……ぼ、僕のだからね」


 ユーリは拾ったエレメントを大切そうに胸に抱いた。木龍は何を考えているのか。特に行動せずにユーリを見ている。


「言葉、分かるの?」


 まるで話しかけられるのを待っているかのような木龍にユーリが声をかける。が、当然言葉は帰ってこない。

 害意の無いその大きな瞳に、木龍に対する恐怖が消え、好奇心が湧き出てくる。


「触っていい?」


 答えは無い。無言は肯定とみなす、と言わんばかりに、ユーリはそっと木龍の頭に手を触れる。どこか気持ちよさそうに木龍が目を細めた。

 ペタペタと触っているうちに慣れたのか、ユーリがとんでもないことを言い出す。


「ねぇ。鱗を一枚もらってもいい?」


 良い訳がない。

 木龍はユーリに興味を失ったのか、再び目を閉じて寝息を立て始めた。

 そんな木龍の態度をどう解釈したのだろうか。


「それじゃ、一枚もらうね」


 ユーリが木龍の鱗に手を伸ばした。



「うーん、なかなか見つかりませんね」


「ほんとねー。下向いてばっかりで首と腰が痛くなっちゃう」


 一緒にエレメントを探していたフィオレとオリヴィアが曲げていた腰を伸ばす。

 ユーリのことだ、どうせ見つかるまでこの場を離れないだろう。だったらさっさと見つけたほうがいい。


「……ん?」


 なんとは無しに木龍の方に目を向けたオリヴィアは、己の目を疑った。

 一度グジグジと目をこすり、もう一度見る。


「んーと……」


 見ている光景を脳が理解できない。


「えっと、ユーリが、木龍の鱗を、剥ぎ取ろうとしているように、見えるんだけど」


「へ?」


 オリヴィアの声を聞いたフィオレも木龍の方を見る。

 ユーリが木龍の鱗を剥ぎ取ろうとしていた。

 どう見ても、ユーリが木龍の鱗を剥ぎ取ろうとしている。


「何やってるのあの子おぉぉぉぉぉ!?!?」


 フィオレとオリヴィアが見ている先で、ついにユーリが鱗をモリッと剥ぎ取った。

 トテッと尻もちをつくユーリ。


「いてっ。ふー、やっと取れたー」


 自分の顔ほどの大きさの鱗を抱えて木龍を見る。

 目が開いている。こちらを見ている。


「……あれ?」


 ちょっとだけ怒っているような瞳。


「貰ったら、駄目だった?」


『グアオオオオオォォォォォォォ!!』


 咆哮。

 ブチブチと体に纏わりつく太い蔦を引きちぎりながら、木龍が身体をゆっくりと起こす。


「わっ、わっ、わっ」


 ズンと揺れる地面にユーリがよろめく。そこに駆けつけたオリヴィアが思いっきりユーリの頭を叩いた。


「こんの大馬鹿ぁ!! 何やってんのよアンタぁ!!」


「だ、だって、鱗くれるって言ってた気がしたんだもん」


「なにトンチンカンなこと言ってんのよ! 逃げるわよ!!」


「う、うん!」


 セレスティアが風魔法を、ユーニが電撃を放つが、全くもって効いていない。

 駆け出す。とてもじゃないが戦える相手ではない。


『グァッグァッグァッグァッグァッグァッ!!』


 どこか笑っているようにも思える木龍の叫びを聞きながら、ユーリ達は振り返ることもせず一目散に逃げ出した。



「うへへへ」


「うへへへ、じゃないわよバカっ。ほんと、死んだかと思ったわよ、バカっ。ほんとバカっ」


 ユニコーンの角に、木のエレメントに、木龍の鱗。大収穫に思わずユーリの頬が緩む。オリヴィアがそんなユーリに馬鹿を連呼している。

 何はともあれ、遠征は大成功である。

 目的を達成した五人は水晶樹の森を抜けるために歩いていた。水晶樹の数がどんどん少なくなり、普通の木々が増え視界が緑に染まっていく。

 水晶樹がほとんどなくなったところで、ずっとついて来ていたユーニが足を止めた。


『ぶしゅるるるるる』


 鼻を鳴らすユーニ。ついてくるのはここまでという事だろう。

 ユーニの頭にギュッとユーリが抱き着き、フィオレとオリヴィアが背を撫でる。


「ユーニ、角をくれて本当にありがとう! クロコサーペント倒すの手伝ってくれてありがとう!」


 ユーリが離れると一度高く嘶いた。お別れである。


「じゃーねー! また会いに来るからねー! 角が抜けたらちゃんと取っておくんだよー! あ、仲間の角もね! 抜けたら貰っておいてね!」


「ほんっと、最後までぶれないわね、アンタ」


 初めての水晶樹の森への遠征は無事に成功である。




 後日、無事にベルベット領都までたどり着いた後に、ユーリからモニカの好みを聞いたレンツィオがやけ酒で飲み明かしていた。


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