第116話
「はぁ……はぁ……やっと追いついた!」
「くそっ、あいつ体力すげぇな……」
ようやくユーリに追いついたオリヴィアとレンツィオ。全速力で走ったため肩で息をしている。
「あ、ありがとうございます」
「ん」
一方でセレスティアは全く息切れしていない。流石は銀級冒険者である。
「ってここ、昨日の湖じゃない!」
たどり着いたのは昨日クロコサーペントに襲われた湖である。あろうことかその湖の畔で先ほどのやり取りを続けているユーリとユーニ。両者アホである。
「ユーリ! バカ! 早くそこから離れなさいよ!!」
オリヴィアが叫ぶも角に夢中になっているユーリには届かない。
と、水面が揺れた。
「やべぇ!」
「ユーリぃ!」
フィオレの叫びが届くよりも先に……
バグン
一飲み。クロコサーペントの巨大な口で、丸のみにされてしまった。
……ユーニが。
一瞬呆然とするユーリ。そして、絶叫した。
「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 僕の角おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「ってそっちの心配かい!! あんたも大概ひどい奴よね!!」
偏重強化した両足で踏み込み、クロコサーペントの首、ちょうどユーニを飲み込んでいる最中の少し下あたりに向かって飛び、全力のケリを放つユーリ。
ドボォ!
激しい音がして凹むクロコサーペントの胴体。たまらず先ほど食べたものを吐き出した。
ぬちゃぬちゃになったユーニがぼちゃりと地面に落ちる。丸のみにされたことが幸いして、奇跡的に無傷のようだ。しかし、ユーニが加えていた角は吐き出されなかった。
「ぶっ倒して、おなかを掻っ捌く!」
『シャラララララララララ!』
怒ったクロコサーペントの咆哮。ツガイだろうか。もう一匹も顔を出す。
戦闘開始である。
「フィオレ! 足場作れる!?」
「やってみます! 水の精霊よ、氷塊となり水面に浮かべ!」
ピキン――
広い湖の手前半分ほどの表面が凍る。薄い氷ではない、ちょっとやそっとの衝撃では割れないほどには厚い。
「さすがねフィオレ!」
「はっ! ちいせぇ割に大した魔法使いだなおい!」
分厚い氷、しかし、銀級の魔物であるクロコサーペントの動きを止めることなど到底できやしない。
身じろぎしただけで氷は割れた。
「ごめんなさい、抑えるのは無理です!」
「足場が出来るだけで上等よ!」
オリヴィアが割れた氷塊の上を走る。大きな塊を踏みしめ、クロコサーペント目掛け飛び上がり、瞬刻強化した腕で頬に一閃。
ギィン!
「くそっ、堅いわね!」
そう簡単にダメージは通らない。
落ちるオリヴィア目掛けてクロコサーペントが口を開く。
が、巨大な氷が現れてその大きな口を塞いだ。
フィオレの魔法である。
ガキンと氷を噛み砕き、クロコサーペントが忌々し気にフィオレを睨む。
「フィオレ、ナイスアシスト!」
「フォローはお任せください!」
さすが『仲良し組』。連携はお手の物だ。
「腹はそこまで硬くねぇだろう……よっとぉ!!」
胴体を思い切り殴るレンツィオ。痛みにクロコサーペントがのたうつ。
「オリヴィアぁ! こいつ腹狙った方がよさそうだぜ!」
「承知っ!」
すれ違いざまに斬撃。深くはないが胴体に切り傷を入れた。
「角おおぉぉぉ!!」
すかさずそこにユーリがケリを入れる。これにはさすがのクロコサーペントもたまらない。怒り、今度はユーリに向け口を開く。
が、これもフィオレの作った氷塊に防がれる。
「おらもういっちょぉ!!」
ドゴォ!
強烈なレンツィオの蹴り。
手足の無いクロコサーペントでは、流石に三人同時に相手するのは辛いのだろう。
叫び声をあげて一度水の中に潜っていった。
「ちぃっ。潜られたらどうしようも無いわね……っ!」
オリヴィアが歯噛みする。
角の回収の為には何としても仕留めなければ。
「そういえばもう一匹はどこだ?」
クロコサーペントはツガイだった。もう一匹は……
「あっちにいるよ」
ユーリが指さした方向、少し離れたところでもう一匹のクロコサーペントとセレスティアが戦っている。風をまとい空気の塊を蹴りながら空中を自在に移動するセレスティア。流石は銀級冒険者。銅級とは格が違う。
「っは、あっちは心配いらなそうだな」
「私たちはこいつに集中ね」
先ほどの手ごたえであれば、いくら格上と言えど四人いれば何とかなりそうである。なりそうではあるが……
「あいつ、また出てくるかしら?」
「どうだろうな。こっちはぜひとも仕留めたいところだが、あいつにとっちゃ俺らを倒す意味なんてねぇからな」
「んー、お姉ちゃんとレンツィオの火魔法で湖を沸騰させるとか?」
「さらっとえぐい発想するわねアンタ……」
「残念だが流石にこの大きさだと魔力が持たねぇよ」
八方ふさがりである。
検討する三人に、少し離れたところからフィオレが声をかける。
「みなさーん、ちょっと来てくださいー!」
隣にはユーニが。鼻息が荒い。
「何? どうしたのよ」
「いえ、分からないのですが……ユーニが何か言いたげな感じで」
三人が戻ってくると、今度はユーニが水辺に歩いていく。
頭にほんのちょこっと生えてきた角に、バチバチと帯電させながら。
「ちょっとユーニ、何を……」
『ヒヒヒヒヒヒヒーーーーン!!』
高く高く嘶き、頭を水につけるユーニ。
バリバリバリイィッ!!
空気が割れるような音がして、青白い光が瞬いた。
雷撃。
「そうか、忘れてたぜ。ユニコーンは角から雷が打てるんだ」
「さ、流石は金級ね……」
離れたところで戦っているもう一匹のクロコサーペントが感電したのかドサリと倒れる。
……運悪くクロコサーペントに切りかかっていたセレスティアも感電したのだろう。ポテリと落ちた。
「ティア、大丈夫かしら」
「まぁ、銀級だし大丈夫だろ」
「あ、動いた。良かったー。ちゃんと生きてるね」
「あ、あの……もう少し心配した方がいいんじゃ……」
四人が見ている先で、セレスティアはふらふらと立ち上がり、ショートソードでクロコサーペントの目を貫いた。脳まで達したのだろう。数回ビクビクと痙攣した後、動かなくなった。一匹は討伐完了である。
『ジュララララララララ!!!!』
「うわああぁぁぁ!! びっくりした!!」
突然水面を割って飛び出してきたもう一匹のクロコサーペント。電撃を食らい、ツガイを殺されて怒っているのだろう。
さぁ、こちらも仕切り直しである!
『ヒヒヒヒヒヒヒーーーーン!!』
……再度の電撃、痺れてドサリと倒れるクロコサーペント。
無言でオリヴィアを見るユーリ、レンツィオ、フィオレの三人。
オリヴィアは無表情のまま頷くと、クロコサーペントの頭のところまで歩いていき、その大きな目にグサリ。セレスティアと同じように脳を破壊する。
最後はあっけなく、討伐完了である。




