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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第114話

「ん……朝か……」


 オリヴィアが寝ぼけ眼をこすりながら起きる。

 昨日はなかなか寝付けなかった。クロコサーペントに襲われた恐怖がどうしてもぬぐえなかったのだ。

 そしてその恐怖を紛らわせるために使用したのが目の前の抱きまくら、フィオレである。

 フィオレは最高の抱きまくらであった。丁度よい弾力の体、少し高い体温、フワフワの髪、すべすべの頬。すーすーと言う寝息も心地いい。

 申し訳ないと思いつつも抱きしめてみるとアラ不思議。あれほど不安で眠れなかったのにすぐに眠りに落ちていた。

 フィオレも抱きしめられることで安心したのか、グッスリ眠れたようだ。WinWinである。

 ちなみにユーリは目が覚めたのか、もういない。

 オリヴィアが外に出るとフライパンで料理しているレンツィオと、少し離れたところでコソコソしているユーリとセレスティアがいた。

 二人の方に近づいて声をかけるオリヴィア。


「何やってんのよあんた達。ていうかティアが自分で起きるなんて珍しいわね」


「オリヴィア、シー! シー! しゃがんで! 早く早く!」


 ユーリが小声で慌てて言う。どうしたのだろうか。

 訳が分からないまましゃがみ、小声で聞くオリヴィア。


「何? どうしたのよ?」


「あそこ、多分ユニコーン」


 ユーリが指を指す方向に目を向けると、そこにユニコーン……白い馬がいた。

 その白馬の頭にはユニコーンの特徴ともいえる角はない。大きさもせいぜいポニーと言ったところだ。ユニコーンと呼ぶには少々迫力に欠ける。


「あれ、本当にユニコーン? 角が無いけど……ただの白い馬じゃないの?」


「ん、あの気配、ユニコーン。間違いない」


 ユニコーンは金級の魔物である。セレスティアはその気配で起きたのだろう。


「多分最近生え変わりで角が落ちたんだと思う。ユニコーンは比較的友好的だって聞いてたけど、何故かこっちを警戒してるみたいなんだ」


「ふーん。金級にしてはあまり強そうに見え無いわね」


 オリヴィアの言う通り、角が生えていなければ見た目はただの白馬である。


「……なんか、レンツィオの方を睨んでない?」


「うん、そんな気がするね」


「不思議。ユニコーン、人、襲わないはず」


 角のないユニコーンは鼻息荒く、苛立つように地面に蹄を打ち付ける。

 フライパンでジュウジュウと野草と水で戻した燻製肉を炒めているレンツィオにその音は聞こえない。

 三人が見守る中、その子ユニコーンはレンツィオに向かって駆け出し、どんどんスピードを上げて……


「「「あ」」」


 ドーーーン!


 油断しきったレンツィオの背中に思いっきり頭突きした。


「グッハアアァァァァァァ!!」


 天高く宙を舞うレンツィオ。

 そのままドサリと落ちる。ユニコーンが落ちてきレンツィオの足に噛みついて頭をブンブンと振っている。とても人間に友好的な生き物とは思えない。


「って、見てる場合じゃないわ! た、助けないと」


 そこまで呆然と眺めて、ようやく三人が駆け出した。



「どーどーどーどー、大丈夫大丈夫。ツンツンしてるけど、こいつは悪いやつじゃないわ、落ち着きなさい」


 オリヴィアがユニコーンの首を撫でて落ち着ける。どうやら目の敵にしているのはレンツィオだけのようで、オリヴィアには敵意を示さない。それどころか、なんだか好意を持っている様にも見える。


「殺せ!! その害獣を今すぐ殺せっ!! そんで角もぎ取ってさっさと帰るぞ!!」


「どーどー、レンツィオ、ユニコーン、害獣じゃない」


 レンツィオが怒りの声をあげる。後ろからセレスティアに羽交い締めにされていなければすぐにでもユニコーンに襲いかかっていただろう。


「この子、角無いから殺しても意味ないよ」


「そういう話ではないと思うけど……」


 無慈悲なユーリのコメントにフィオレがツッコミを入れる。

 ユーリとフィオレがユニコーンに近づくと、ユニコーンはふんふんとフィオレの手を嗅いで頭をこすりつけた。


「わぁっ! かわいい!」


「ほんと、人懐っこいわよね」


 オリヴィアとフィオレにすり寄るユニコーン。


「僕にはあんまりなついてくれないね」


 ユーリがユニコーンに触ると、振り払ったりはしないものの特にうれしそうな感じではない。

 時折ユーリの方を見ては首を捻っている。


「レンツィオ、ユニコーンに、いじわる、した?」


「あぁ? するわけねぇだろ。仮にも金級の魔物だぞ。まぁこいつになら勝てそうだけどよ」


「なんで、レンツィオ、嫌われてる?」


 セレスティアが首を捻る。セレスティアが以前水晶樹の森に来た時にもユニコーンに遭遇したが、どの個体も友好的であった。いきなり襲い掛かられることなどなかったのだ。


「いや、そりゃおめぇ、アレだからだろ……」


 レンツィオが言いにくそうに言葉を濁す。


「ん?」


「……なんでもねぇよ。てか、俺はなんでユーリのやつが普通にユニコーンと触れ合ってるのかが謎だぜ……あいつほんとは女なんじゃねぇのか?」


 納得いかないような表情でぶつぶつとぼやくレンツィオ。

 何はともあれ、とりあえず目的のユニコーンを発見することが出来た。

 次はつのの捜索である。


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