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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第109話

 水晶樹の森、ユニコーンのいる深部にたどり着くためには片道五日はかかる。まずは一番近い村まで馬車で三日。水晶樹の森を取り囲む森を抜けるのに歩いて一日。水晶樹の森の深部まではさらに歩いて一日、計五日である。

 行きに五日、帰りに五日。ユニコーンの角の捜索に五日は欲しい。計十五日。


「十五日もこいつと一緒とか……」


 集合場所である辻馬車の駅舎で、オリヴィアは赤髪の男、レンツィオを見てため息を吐いた。

 あの時、どうして私はユーリをほったらかしにしてしまったのだろうか。どうしてどうせ断られるだろうとモニカに話しかけに行ってしまったのだろうか。あの時もっとユーリを止めていれば。オリヴィアが後悔するが、もう遅い。


「おいこら。人の顔見てため息ついてんじゃねぇぞ」


「人じゃなくてウニだからいいじゃない」


「てめ……」


 言い合いを始めようとするオリヴィアとレンツィオの元に、ユーリとフィオレがやってくる。二人とも学園の制服と体育着、ではない。

 流石に危険な森に行くというのに、普段の恰好では危険すぎる。

 ユーリは襟の高い厚手の革のジャケットとポケットの多いズボン、そして蹴りを多用するので鉛の仕込まれた革の強化ブーツ。グレーを基調とした格好だ。フィオレの分の荷物も入っているのだろう。大きなリュックを背負っている。

 フィオレは厚手の耐火、耐寒に優れたフード付きの白色のコートである。肩から下げたポシェットが揺れる。手に持っているのはミュータントトレントの木材から削り出して作られた棒だ。髪はおさげに結んでいる。

 全て今回新調したもので、ニコラに見繕ってもらったため品質は非常に良い。


「オリヴィア、レンツィオ。おはよー」


「おはよーじゃねぇよ。おせーんだよクソガ……」


「は、はじめまして! ユーリの姉のフィオレと申します!」


 初めて会うレンツィオに緊張し、勢いよく頭を下げるフィオレ。頭を下げるときにフードをすっぽりとかぶり、勢いよく上げてまたフードが外れた。かわいい。


「あ、あの、レンツィオさんですよね!? ユーリから話は聞いております! すごく強い冒険者で、すごく優しくて良い人だって! オリヴィアさんとも昔から仲が良いと聞いています! あの、私は冒険者になって日は浅いですが、頑張ってついていきますので、よろしくお願いします!」


 キラキラとした瞳で見つめてくる美少女魔法使いにレンツィオが圧される。苦手なタイプである上に、盛大な勘違いをしているようだ。

 否定しようかと思ったが、この期待に満ちた瞳。裏切れない。


「お、おう。足引っ張んじゃねぇぞ」


「はいっ!」


 いつもよりキレのないレンツィオの返答にオリヴィアが耳打ちする。


「ちょっとあんた、否定しなさいよ! 昔から仲が良いって何なのよ!」


「俺が知るかよボケ! あんな目で見られて否定できるわきゃねぇだろ!」


 小声で言い合っているところにセレスティアがやって来る。若干遅刻だ。遅刻したくせにあくびしながら来た。図太い。


「ふぁ……おあよ」


「おあよ、じゃないわよあんた! 用事があるから先に行ってって言われたから来たけど……何してたのよ!」


「二度寝」


「こいつ……ッ!」


 全く悪びれもしないセレスティアに、オリヴィアは言葉も出ない。


「赤ウニ。荷物、持って」


「誰が赤ウニだコラ! ナチュラルにパシんな怠惰エルフが!」


 出発前から噛み合っていない5人。果たして無事に目的を果たすことができるのだろうか。



 噛み合わないと言っても、セレスティアを筆頭に皆実力のある冒険者だ。四日目の夕方には水晶樹の森の入口にたどり着いた。

 鬱蒼とした森のある地点をさかいに、木々の間に水晶が立ち並び出す。水晶樹が立っている分、木々がすくなくなるため周囲は明るくなる。

 さらに差し込んだ光を水晶がキラキラと反射しておりとてもきれいだ。

 砕けた水晶の破片だろうか。地面も白っぽく光を反射している。


「うわぁ……すごくきれい……」


 その光景にフィオレが感嘆の声を上げた。


「最深部は、全部水晶になる。もっと、奇麗」


「すごい! 楽しみです!」


 感嘆するフィオレとは対照的に、レンツィオはつまらなそうである。


「久しぶりに来たが、あんま好きじゃねぇなぁ、ここ。臆病な魔物ばっかりでやる気が削がれるぜ」


 以前依頼で水晶樹の森に来たレンツィオ。依頼内容は『白兎の生け捕り』だった。水晶樹の森の深部に住む白兎はその名の通り全身が真っ白な兎である。立場の弱い一角兎が追いやられて住み着き進化したのだろう。どの個体も臆病で逃げ足がはやい。食性によるものか、角は5センチほどと短く透明である。

 その綺麗な見た目とおとなしい性格から、愛玩動物として欲しがる貴族は少なくない。そのため度々随時依頼として張り出されるのだ。


「まぁ来ちまったもんは仕方ねぇか。で、何を狩るんだ?」


「何も狩らないよ?」


「は?」


「探すの。生え変わりで落ちたユニコーンの角」


 何でもないかのよう答えるユーリにレンツィオが声を荒げる。


「はぁ〜〜〜〜!? おま、このレンツィオ様に、角探しさせるつもりだっのかよ!?」


「ううん。レンツィオの役割は荷物持ち」


「にもっ……!!」


 驚愕で言葉の出ないレンツィオ。そういえばいつの間にか持たされている。オリヴィアとセレスティアの荷物を。

 若くして銅級に上がった自分を、このままいけば銀級は堅いと言われてる自分を、ただの荷物持ちとして使うとは。

 絶句するレンツィオを無視してユーリがリュックをおろして言う。


「今日はもう遅くなっちゃったから、ここで野宿しよう。僕は食べ物取ってくるから、レンツィオはテント建てておいて」


「テント……はぁ、わぁったよ。行って来い」


 荷物持ちからのテント設営係。怒る気も失せる。

 レンツィオはいそいそとテントを広げ始めた。

 

「ユーリ。一人、危険。私も行く」


「ありがとうセレスティア」


 ユーリとセレスティアは食料調達に。


「私は近くで薪集めて火を起こしておきますね」


 フィオレは巻き集めと火の番を。


「んじゃ私は警戒とテント周辺の探索してくるわ」


 オリヴィアは斥候。

 何だかんだうまく噛み合い始める5人であった。


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