第101話
仲良し組はオリヴィアとユーリが鉛級、フィオレが土級である。平均等級が鉛級であるため、ひとつ上の鉄級の依頼までであれば受領が可能だ。
平均等級は鉛級であるが、実力は当然鉛にとどまるものではない。
セレスティアのお世話……訓練があるため中々依頼を受けることのできず等級の上がらないオリヴィア。膂力はあるが錬金術に没頭しているため依頼を受けていないユーリ。そして魔法学園の中でも屈指の魔法実技を誇るフィオレ。
銅級で相性の良い魔物であれば楽勝とは言わないが勝利することは可能だろう。
しかし、お互いのことを知り合っているわけでは無い、何よりフィオレは魔物との戦闘経験がない。
無難に土、鉛級の魔物討伐から挑戦するべきだろう。
というわけで、三人は一角兎の討伐に来ていた。
一角兎は土級に分類される魔物ではあるが、そのすばしっこさから魔法使いにとってはやり辛い相手である。フィオレの力を見たいのでユーリとオリヴィアは手助けをしない方針だが、何時でも助けに行けるように身構えている。
と、ついにフィオレが茂みから飛び出す長い角を見つけた。紛れもなく一角兎のものである。
距離は10メートルほど。初めて見る魔物にフィオレが身体を強張らせる。
その仕草を察知したのか、一角兎の角がフィオレの方を向いた。
「つっ! ……水の精霊よ!」
慌てて詠唱を開始するフィオレ。しかし、一角兎が駆ける速度の方が早い。ユーリとオリヴィアが武器を構える。
「水球となりて……セェイッ!!」
オリヴィアの細剣が一角兎を捉える直前、詠唱を諦めたフィオレが棒をふるった。
棒術。中等部から始まると武器を使っての戦闘技術の授業。フィオレは4尺ほどの棒を用いた棒術を選択していた。
鋭く放たれた突きは吸い込まれるように一角兎の眉間に向かい、
スコーン
見事に命中した。気絶してひっくり返る一角兎。
「って、なんでよ!」
思わず突っ込むオリヴィア。魔法主体だと聞いていたので接近戦はからっきしだと思っていた。しかし、今の動きは明らかにそれなりに戦える人の動きである。
流れる様に棒を扱い、的確に一角兎の急所を打ち抜いていた。
「あの、突いた方がはやそうだったので、つい……」
フィオレは確かに魔法の扱いが飛び抜けて上手い。しかし、だからといって接近戦がお粗末というわけでは無いのだ。
全てを人並み以上にこなし、その上で魔法の扱いが飛び抜けているのがフィオレである。入園してから常に金クラスにいるのだから、その実力は伊達ではない。
えいっと可愛い掛け声と共に一角兎の角の根本を棒で打ち付け、ポキリと折る。常時依頼である一角兎の角の入手の完了である。
「接近戦もこなせるに越したことはないけど、うーん、これだと魔法の実力確認にならないわね……。でも土級なら相手にならないことは分かったわ」
「す、すみません……」
「いや、責めてるわけじゃないから」
土級で相手にならないのなら、それ以上の相手をしてもらえばいいだけである。
何か丁度いい魔物はいなかったかしらと考えるオリヴィア。
そこにユーリが声をかける。
「オリヴィア、お姉ちゃん。多分、森狼か黒狼」
ユーリはスンスンと鼻を鳴らす。生臭い鉄の匂い。おそらく狼が獲物を喰い漁っているのだろう。
「フィオレ、行ける?」
「はい、やってみます」
フィオレは大きく深呼吸し、棒を抱え直した。
◇
匂いの濃い方へ数分歩くと、目的の獲物はすぐに見つかった。
お腹をすかせているのか、黒狼が三匹、取り合うように一角兎の肉に食らいついている。まだ狩りに慣れていない若い個体なのだろう。
幸いなことに、食事に夢中でこちらには気がついていないようだ。
少し離れたところからフィオレが手を掲げて詠唱する。
「水の精霊、氷槍となりて、かの獣に降り注げ」
1メートルほどの氷槍を十個出現させたフィオレは、手を振り下ろし黒狼に降り注ぐ。
頭上からの不意打ちに黒狼が耐えられるはずもない。串刺しにされ、断末魔をあげて絶命した。
「すごいわね……」
黒狼を地面に縫い付けている氷槍を細剣の鞘で叩きながら、オリヴィアが感心する。
「大きさ、そしてこの強度。このレベルの氷槍を十個、あの短時間で完成させるなんて」
「ありがとうございます」
「今の詠唱の速さで、氷槍はいくつまでつくれるの?」
「五十個くらいまでであれば」
「ごじゅう!?」
想像よりも大分多い数字にオリヴィアが驚愕した。
「ある程度の自衛も出来て、後衛としての能力も申し分ない、と。後は連携しての戦いに慣れるだけね」
オリヴィアが楽しげに首を鳴らす。
「さぁ、3人で駆け上がるわよ」
憂いはなにもない。この『仲良し組』、どこまで一気に駆け上がれるか。
「……やっぱりパーティ名、締まらないわねぇ」




