第100話
「竜の所に……?」
「うん。火竜の所に行けるくらいの実力。どのくらいあれば行けるのかなって。セレスティア、火竜のところまで行ったことあるんだよね? 別に戦って勝ちたいわけじゃないの」
「ん……」
土の日、ユーリは朝からセレスティアの元に訪ねていた。目下の目標はエレメントの取得。そのためには火竜の元にたどり着かねばならない。
もちろん火竜自体の素材も欲しいが、グレゴリアの手記を読む限りユーリ一人の力では到底討伐は無理そうだ。
なのでとりあえず、巣からエレメントだけを貰おう作戦を考えているのである。
「最低でも、銀級」
「やっぱり銀級かー……銅級だとむずかしい?」
「自殺行為」
「そっかー……」
竜の住処に行くためには戦う力だけではなく、過酷な環境で生き抜く為の知識、不慮の事故に対応する適応力等も必要となる。
戦闘力だけで到達できる銅級程度の力では生き残ることはできないだろう。
「ちょっと行って帰ってくるだけなんだけど」
「火竜に見つからない確証がない。無謀」
「だよねー……」
聞いてはみたものの、そんなにうまく行かないだろうことはユーリも想像していた。
「やっぱり銀級ってすごいんだなー」
「うん。銀級、すごい」
何処か自慢気なセレスティアである。
「僕が銀級になるにはどのくらいかかるかな?」
「少なくとも、五年」
「五年かー……」
今までに10代で銀級にたどり着いた冒険者はいない。セレスティアは、ユーリなら努力次第でその壁を破れると考えている。
しかしユーリにとって五年は長い。長過ぎる。
いますぐにでもエレメントを手に入れて研究したいのに、五年も待てるはずがない。最短での銀級への昇格など、ユーリにとってはどうでもいい事なのだ。
「火竜の卵、欲しい?」
「ううん。卵じゃなくて、巣に落ちてたっていうエレメント」
「エレメント?」
「うん。錬金術に使える素材。グレゴリアの書紀には、これくらいで正八面体の物体って書いてあった」
ユーリは人差し指と親指で輪っかを作る。ユーリの話を聞いてしばらく考えるセレスティア。
「グレゴリアとエレメントを見つけたの、火竜の巣の他、もう一箇所、ある」
「そうなの!?」
「領都の北、水晶樹の森の奥地。緑色の四角いの見つけた」
「ほんとに!?」
「うん。数字描いて、サイコロにしたら、グレゴリアにすっごく怒られた。だから、覚えてる」
「さ、サイコロ……」
確かにエレメントは正八面体なのでサイコロには向いている。向いてはいるが、そんな貴重な素材をおもちゃにされれば錬金術師であれば誰だって怒るだろう。
「水晶樹の森、行って帰るだけなら、銅級で良い。魔物、大人しい」
水晶樹の森の奥地には、その名前の通り水晶が樹のように乱立している。そこには金級の魔物であるユニコーンが生息しているが、セレスティア曰くこちらから手を出さない限りは襲ってこないらしい。
その他の魔物も比較的に温厚なものが多い。もちろん温厚でない魔物もいるため大人しくしていれば安全というわけでは無いが。
「たまに、ユニコーンの角、落ちてる」
「ユニコーンの角!?」
最高品質と行ってよいほどの良質かつ耐久度の高い触媒になるユニコーンの角。それが拾えるかも知れないのだ。
色無鮫の歯と合わせて使用すれば、錬金術の魔力の減衰を抑えられるかも知れない。
「行きたい行きたい! セレスティア、連れて行って!」
「だめ。銅級になってから」
「むぅーー」
銅級になるためには、最低でも一千万リラを冒険者ギルドの依頼で達成しなければならない。そうやすやすと達成できることではないのだ。
「オリヴィアと、パーティ組んで」
「オリヴィアと?」
「ん。二人なら、等級あがるの、はやい」
どうやらオリヴィアと二人で依頼をこなして来いということらしい。
「うーん、3人なら、もっと効率的かな?」
「3人?」
「うん。お姉ちゃん。ヘフマンに魔法を教えてもらってるんだよね? 僕は魔法使えないし、オリヴィアも細剣主体だとおもうから、魔法が使えるお姉ちゃんがいるといいかなって」
「ん、いいと思う」
セレスティアの了承を得て、ユーリは今日もせっせと料理を作っているオリヴィアへと声をかける。
「オリヴィアー」
「ん? どうしたのユーリ君」
「明日、お姉ちゃんと3人でパーティ申請しに行くから、午後の予定開けておいてー。じゃあまた明日ね!」
「え、何? どゆこと?」
言いたいことだけ言って、学園の寮へと帰るユーリであった。
◇
「つ、ついに私も冒険者になるんですね……」
冒険者ギルドへとやって来たユーリとオリヴィア、そしてフィオレ。
フィオレは初めて来た冒険者ギルドの雰囲気に緊張気味だ。
周りには屈強な男どもやミステリアスな雰囲気の魔法使いなどばかりであるため、緊張するのもあまり前だ。なんの気負いもなくウロチョロしているユーリがおかしいのである。
「別にそんなたいしたもんじゃないわよ。二千リラ持ってれば子供でも老人でもなれるんだから」
緊張を和らげる為でもあるのだろう。オリヴィアがなんでもないことのように言う。
「モニカ。お姉ちゃんの冒険者登録してー」
最近少し背が伸びてきたユーリは、背伸びをすれば何とかカウンターの上に目線が届くようになった。喜ばしい成長である。まぁまだ踏み台は使用しているが。
「ユーリ様のお姉様、ですか?」
「あ、私です。ユーリの姉でフィオレといいます」
モニカにペコリとお辞儀をするフィオレ。一般人っぽいモニカを見て、内心ホッとしているフィオレである。
「フィオレ様でございますね。ご丁寧にありがとうございます。私はモニカと申します。よろしくお願いいたします」
「あ、いえ、こちらこそ、右も左も分からない新米ではございますが、よろしくお願いいたします」
「それではこちらの受付用紙に必要事項をご記入ください」
「はい、承知いたしました」
冒険者ギルドにふさわしくない丁寧なやり取りをするモニカとフィオレに、オリヴィアが辟易したように言う。
「ちょっと、いつからここは執事の養成所になったのよ。冒険者ギルドなんだからもっと砕けなさいよ」
「わ、分かりました。頑張ります!」
「だから頑張るようなことじゃないのよ……って、そうじゃなくて。モニカ、今日はパーティを組みたくて来たのよ」
「パーティですか?」
「そう。私と、ユーリ君とフィオレちゃん。基本的にはこれから3人で動こうと思って。まぁこの子達が学園に行ってる時間は私だけソロでも活動するけど」
「承知いたしました。パーティで活動された際は、依頼の達成時にその旨の申告をお願いいたします。押印につきましては3分割されますのでご承知おきください」
「はいはい。ご承知おきしました」
「それではこちらにご記入をお願いいたします」
モニカがパーティ申請用紙をオリヴィアに差し出す。記載事項はメンバー名とそれぞれの冒険者等級、リーダー名、そしてパーティ名だ。オリヴィアは受け取ったそれをすぐにユーリに差し出す
「ユーリ君、リーダーおねがいね。パーティ名も決めて頂戴」
「僕?」
「ユーリ君が発起人でしょ?」
「うん、分かった」
ユーリは戸惑うことなく自分の名前をリーダー名に記入した。そしてパーティ名は……
「……そのパーティ名、マジで?」
「うん! モニカ、おねがい!」
「はい、確かに受領いたしました」
ユーリ、オリヴィア、フィオレの3人のパーティ、『仲良し組』の発足である。




