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プロローグ

『小説とは0から1を作ることではなく、1から10を作ることだと自分は思う』


 『いくら文才の無い自分でも、その1があれば話を広げることができる』


 『あの人の自殺は自分に1を与えてくれた』


 『だからあの人の自殺は自分にとって都合の良いことだった』


 先生――七草蓮はそう言って私に小説の原稿を持ってきた。

 突然渡したいものがある、と連絡が来るものだから何かと思えば。

 元から時間にはルーズな人で書きたい時に書きたいものを。それが先生のスタンスだった。


 七草蓮は天才小説家だった。先生自身は『自分に文才は無い』と言い続けているが、先生の作品は目を見張るものがある。そのような感想を抱くのは編集者である私だけでなくて、世の中の人間たちも先生の作品を好評し、天才小説家ともてはやした。

 先生はとあるミステリー小説でコンテストの大賞を受賞して以来、小説家として活動している。現時点で3作出しており、どれも10万部以上売れるベストセラーになった。


 先生が言うにこの作品は最愛の人の自殺を題材にした話らしい。しかも実話。最愛の人を自殺で失ったことを題材に小説を書き、それでいて『都合の良いこと』と言い放つ先生に少し恐怖するが、その顔は至って真剣で冗談など言っているようには見えなかった。


「先生の意思はできるだけ尊重したいですけど......これほんとに出すんですか?」


「ええ。問題が無ければ出していただきたいですね」


 先程と変わらぬ真剣な表情で答える。


「まあ出せないことはないですよ。先生の作品ってだけで10万部は下回らないでしょう。ですが1つお聞きしても?」


「ええ。」

 

「最愛の人を失って悲しくないのですか?先生の様子だと最愛の人の自殺を小説のネタとしか見てないように見えるのですが」


 聞いてはいけないような内容の気がしたが抑えられない好奇心が口を動かした。それに編集者としてもここは聞いておかなければならない。

 やはり地雷だったのか、先生の表情はやや曇り、私に敵対心を向けてきているように感じる。数十秒の沈黙の後、先生は口を開く。


「そりゃ悲しいですよ......でも、」


 先生は一呼吸おいて私に言う。


「自分はこの作品を書くために小説家になったんです」

私が書く小説って絶対誰か死ぬんですよね。

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