いっぺん、死んでみる?~とあるナンパ野郎の悲劇~
こちらはF式 大熊猫改(Lika)様よりいただいたイラストを使用しています。
オレの名は難破屋・浪
その名の通り、ナンパに生きがいを感じるナンパ野郎だ。
オレは生まれてこの方ナンパに失敗したことがない。
なぜかって?
決まっている。
芸能人顔負けのルックスに加え、スタイル抜群のボディ、類まれなるファッションセンス、さらには大財閥の息子という、ありとあらゆる勝ち組要素がオレに備わっているからだ。
オレにかかればどんな女もコロッと落ちてしまう。
たとえガードの堅い女であってもだ。
……フッ。我ながら自分の才能が恐ろしいぜ。
そんなオレは今、駅前で女を物色している。
いや、物色とは表現が悪いな。
オーディションとしておこう。
オレの隣を歩けるのはオレの眼鏡にかなった者のみ、つまりはオーディションに合格した者だけだ。
それだけ、オレにナンパされるというのは光栄なことなのだ。
そんなオレが駅前でオーディションを行っていると、スタスタと駅に向かって歩いて来る一人の少女が目に止まった。
その少女を見た瞬間、オレの身体は100万ボルトの電流が走ったかのような衝撃を受けた。
「か、かわいい……」
なんてこった。
可愛すぎる。
大きな瞳に白い肌、小ぶりな唇。
颯爽と長い髪をなびかせて歩く姿にオレは我を忘れて見惚れてしまった。
高校生だろうか、制服姿が妙に似合っている。
「合格!」
正直、犯罪臭がしないでもないが、オレは一目散にその少女のもとへと駆け寄った。
「へい、彼女!」
オレの呼び声とともに、少女はオレに目を向けた。
あまりの可愛さに心臓が口から飛び出しそうになる。
「今、学校の帰りかい? どう? 今からオレと一緒に遊ばない?」
少女はきょとんとしながらオレを見ていた。
ふう、きょとんとした姿も可愛いぜ。
オレはすかさず渾身のスマイルを見せつけて、歯までキランと光り輝かせて見せた。
これで落ちなかった女はいない。
しかし少女はそんなオレを無視してスタスタと歩き始めた。
………え、ちょっと。
「ま、待って待って待って!」
慌てて行く手を遮るオレ。
バ、バカな。
オレの悩殺スマイルが効かないとは。
少女はオレと目を合わせながらつぶやいた。
「何か用ですか?」
「用があるから声をかけたんだけど」
「誰ですか?」
「大丈夫大丈夫、怪しい人じゃないから」
そう言って前髪かきあげウィンクを投げつける。
「さよなら」
「ちょー!!!! 待って待って待って!!!!」
何この子!?
オレの前髪かきあげウィンクが全然通じない!
もしかしてツンデレか!?
「そんなに邪険にしないでよー」
「邪険になんてしてませんけど?」
「そういうツンツンしてるところも素敵だねー。ねえ、一緒に遊ぼうよ」
「どうしてですか?」
「だって君、すごくチャーミングなんだもの。お近づきになりたくて」
少女はきょろきょろとあたりを見渡した後、オレに顔を向けて「はあ」とため息をついた。
「……?」
そして次の瞬間、想像だにしていなかった言葉が飛び出した。
「……へ?」
なに?
なんて言ったの?
「あなた、男と女の区別もつかないんですか?」
「へ?」
「僕、男ですけど」
「………」
はいいいいいいぃぃぃぃぃッ!!!????
え、ちょ……。
はいいいいいいいぃぃぃぃぃぃッ!!!!????
「きみ、♂なの!?」
「♂です」
「♀じゃなくて!?」
「♂」
「♂!?」
「♂」
♂ーーーーーーーーッッッ!!!!?????
「いやいや、ないない! こんなかわいい♂いるわきゃない! それに君、女子高生の制服着てるじゃん!」
「これは学園祭のコスプレです。着替える時間なかったんでこのまま帰ったんです」
「~~~~~!!!!!!!」
学園祭!?
そういえば、そんなポスターが街中に貼ってあったような……。
「ということで、失礼します」
そう言って少女……もとい少年はオレの前から去っていった。
オレはしばらく放心状態のまま、その場に立ち尽くしていた。
「…………♂」
これがトラウマとなり、その日以来オレはナンパが成功しなくなった。
くふうっ!
お読みいただきありがとうございました。
女子高生にナンパはやめましょう。
見かけたら通報してください(笑)