第3話 危険で妖艶な隊長
俺の前には一人の美女が座りポカーンとした表情でこちらを見ていた。
白い手袋を嵌めた両手を組んで顎に乗せる彼女は、黒髪黒目を持つ人で大きな胸が机と喧嘩している。
頭には黒い帽子があり、羽織るように着ている軍服も黒だった。
黒一色に白い肌。
これを「美しい」と言わずして何と言おうか!
「……ハハハハハ! 私を見て第一声が「綺麗」と言ったのは君が初めてだよ。アダマ君」
そう言い彼女は立ち上がる。
顔に手をやり笑っている。
声も高くて女性的。しかしどこか張りがあり男らしさが出ているから不思議だ。
「あのログ子爵家からの推薦だったからどんなもやしが来ると内心気が気じゃなかったが、良い男が来たじゃないか」
そう言いながら隊長は机を迂回する。
隊長殿は黒のミニスカとパンストを履いていたようだ。足音を鳴らしながら全身が見えて初めて分かった。
どれだけ黒が好きなんだよと思いながらも息を飲む。
俺の前まで来ると執務台にお尻を乗せてこちらにむいた。
「改めましてアダマ君。受付に聞いたかもしれないが、私はクラウディア・カエサル。我がカエサル隊は君を歓迎する」
今さっき何かおかしな単語が聞こえたようだが、気のせいだろう。
「初めまして。冒険者をしていたアダマです。農村出身なので軍のあれこれはわからないので教えていただければ幸いです」
「ふふ。逞しくも謙虚か。良いじゃないか」
カエサル隊長がぺろりと舌で唇を舐めた。
その瞬間背中にゾゾゾゾッと冷たい何かが走る気がした。
な、なんだ?! 一瞬大型の魔物に睨まれた感じがしたんだが?!
「個人的な話もしたいのだが……、ふむ時間は有限。一先ずこの部隊の事について教えようか」
「お、お願いします」
「我がカエサル隊、というよりかはこの独立ダンジョン攻略部隊はその名の通りダンジョン攻略を目的として新設された。何故だかわかるかね? 元冒険者君」
……ダンジョンから出る素材は安定しているし、何故だ?
「分かりません」
「ログ子爵家のもやしが言うには君は冒険者業が長いらしいじゃないか。いや長いからこそ見えないのか」
「? どういうことで? 」
「つまりだ。現状ダンジョン攻略は進んでいるのか、と言うことだよ。最近踏破されたダンジョンを君は聞いたことがあるかい? 」
それを言われて納得する。それで攻略部隊を作ったのか。
確かに進んでいない。
ダンジョンは完全攻略することで完全管理下に置けることができる。これによる得られる利益は多大なもので計り知れない。
これまでに踏破されたダンジョンは幾つかある。
しかし、少なくとも俺が冒険者になってからは踏破されたことは聞いたことがない。
俺が知らないだけかもしれないが。
「察したようだね。つまりだ。この独立ダンジョン攻略部隊はダンジョンの攻略を目的にしている」
「それで新設されたのですね」
「あぁ。正直貴族のままごとかと思っていたが、どういう訳か王家が本気らしい」
「というと? 」
「莫大な予算をつぎ込み人を集め建物も新設。普通ならば貴族が中抜きをしてガワだけになるのがオチなのだが今回はそれが許されなかった」
「それだけ本気ということですか」
その通り、と頷きにやりと笑う。
貴族間の問題はよくわからない。
なので本気度が正直伝わってこないが、普通ではありえない事が起こっている事だけは分かった。
「次に部隊についてだ」
そう言い脚を組み直して俺を見た。
「『部隊』と名がついているが独立ダンジョン攻略部隊の規模に関しては百人程度。その下に我がカエサル隊のような分隊が幾つもあると考えてくれ」
「因みにカエサル隊は何人いるので? 」
そう言うと隊長はすぐに顔を逸らしてしまった。
ん? 俺は何かおかしい事を聞いたか?
「……私と君を含めて四人だ」
「分隊は四人編成なのですね」
そう言うと更に気まずい雰囲気が流れる。
「他の隊は十人ほどなんだが……集まらなくてな」
「それで【急募】だったんですね」
「あぁ。まぁ予想は出来ていたことだ。私の二つ名は知っているか? 」
「いえ」
「人喰らいだ」
そ、そんな物騒な二つ名だったのか?!
こんな綺麗な人がマンイーターなんて!
名付けたやつの頭は腐っているだろう。
「ちょっと男と斬り合いしただけなのだが、どうやらそれが災いしたらしい」
前言撤回腐っていたのは俺の頭だった。
「それにすぐに倒れやがって。やわすぎるから貴族の兵士はダメだ。その分アダマ君は見所が――ある」
首を振り「やれやれ」と手を振ったかと思うと俺を見上げた。
顔を赤くしながら口を開く。
「私はな。硬くて大きな男性が大好きなんだよ」
隊長殿はペロリと乾いた唇を舐めながら妖艶な表情を浮かべてそう言った。
普通の男ならば興奮するシーンなのだろうが今俺は大量に冷や汗をかいている。
全身を剣で突き刺されたかのような、そんな感じ。
殺気にも似た雰囲気を出しながら、捕食者の顔を浮かべて机から降りる。
「聞くところによると君はどんな攻撃にもびくともしないとか」
「前はそうでもなかったですが、最近は、た、確かに、そ、そうですね」
「増々良い。私は小さな頃から英雄譚に憧れていたのだよ」
英雄譚? 何故そんな話になる。
「雄々しく強い。ドラゴンに剣一つで立ち向かうその姿を本で読んだときはどれだけ興奮したことやら」
光悦とした表情を浮かべながらこちらに近付いて来る。
止まってくれと思うが隊長殿は止まらない。
が思いが通じたのか立ち止まり俺の方を見た。
「だが現実はどうだ? 」
「というと? 」
「あちこちに剣を携えダンジョンに潜る男がいるのにこの腑抜けよう。正直がっかりしたよ」
そして隊長殿は再度歩き出す。
そんな隊長に気になったことを聞く。
「冒険者をしていたので? 」
「その昔はな。どんなに強い魔物でも私を満足させてくれなかった。弱い、弱すぎる……そう思っていた時に来た話が――」
「この独立部隊新設の話、ですか」
「その通り。正直私は軍なんてものはどうでもいい。ただ雄々しい男や強い魔物と戦えればそれで良い」
き、危険だ、この人!!!
全身冷や汗を流しながらピタリと隊長の体が俺につく。
ドギマギしていると獰猛そうな顔で俺を見上げた。
「我がカエサル隊では上下関係を気にしなくていい。元より私は冒険者。気にする必要はない。是非ともクラウディアと呼んで欲しい」
「イ、イエス。マム。カエサル隊長!!! 」
「ふふふ……。さぁいただ――「ドゴン!!! 」「おわっ! 」……」
隊長殿が体に手をはいずりまわそうとした瞬間建物に大きな衝撃が走った。
そのまま隊長が俺の方に体を預ける。
衝撃のせいでそのまま手を後ろに回してしまった。
弾力を感じるも今はそんなところじゃない。今の音はなんだ!
「……良いところであの馬鹿」
「これの原因を知っているので? 」
「あぁ。この隊に所属する魔法使いが間違って当てたのだろう」
そう言いカエサル隊長は俺から離れて行く。
再度こちらを見た時彼女の顔はほんのりと赤かった。
ここまで如何だったでしょうか?
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