第41話 試練の塔 2 それぞれの試練 エリアエルとシグナ
エリアエルとシグナは薄暗い道を歩いていた。
完全に暗くはない。むしろ明るい方だ。それは前にある火山が原因だろう。
魔物に細心の注意を払いながら、火山から漏れる火の光を頼りに二人は慎重に歩く。
今の所シグナの探索や探知には何も引っ掛からない。
「ここはどこでしょう? 」
「わからない。だが嫌な臭いがするな」
シグナの言葉に大きく頷くエリアエル。
硫黄臭とはまた別の嫌な臭いがこの火山エリアに広がっている。
火山と相まってこのエリアは彼女達に地獄を彷彿とさせていた。
「地獄と言えば、死者のダンジョンの死神を思い出しますね」
「そうだな。だがあの時とは違い今回はアダマがいない」
「ど、どうしましょうか」
「狼狽えても仕方ない。難関ダンジョンに挑んでいたら、いずれアダマがいない状況が訪れるのは分かっていただろ? それが早くなっただけだ」
そう言われてしゅんとするエリアエル。
彼女達は今までアダマに頼って来た。
エリアエルの火力を出せるのも、シグナがダメージを気にせず攻撃に出られるのもアダマのおかげ。
今回の様にダンジョンの罠でそれぞれが散り散りになる可能性は十分に考えられた。
よってここにいないクラウディア含めて三人で「アダマがいない場合の状況」と言うのをシミュレーションしてきたのだが、十分かと言えばそうではない。
それもあってかエリアエルの中に不安が広がる。
逆にシグナは冷静であった。
彼女自身が探知・探索を行っているものあるが、いずれは来る未来をエリアエルよりも深刻に受け止めていたからだ。
(一番最悪なパターンはエリアエルがパニックになって魔法を放つことだが)
と思いながらもぐつぐつと湧き出るマグマを見る。
噴き出る汗を腕で払いながらも前に進む。
が、汗も凍る寒気が彼女達を襲った。
「「!!! 」」
すぐに二人は構えて正面を見る。
殺気ではない。
ただ冷たい空気が流れているだけ。
注意を払いながら空気が流れてくる方を見る。
すると長い黒髪をした女性がゆっくりと現れた。
「人? 」
「あら。私をそう呼んで下さるとは嬉しいですが、外れです」
瞬間二人の頭に過ったのは人のまねをした魔物であった。
攻撃に入ろうとしたが、言い知れない雰囲気に纏わりつかれて後退する。
「何ものですか」
「……人は私を死神と呼びます」
「え?! 」
「この前倒したはず! 」
静かな言葉に驚く二人。
「この前貴方達が倒したのは私の分体になりますね」
「ならば今回はその仇討ちか! 」
「いいえ、違います」
シグナの言葉を否定する死神。
死神は更に続けた。
「まずは自己紹介を。私はヘル。『死神』のヘルと申します。以後よろしくお願いしますね」
「よろしくされたくないんだが」
「まだ死ぬわけにはいかなんですよ! 」
「まぁ怖い。魔杖をお納めになってください」
「! 」
片手を上げてくいっと下を向けるとエリアエルの魔杖が重くなり岩についた。
「なにをっ! 」
「怒らないでくださいね。私とてお父様、――ロキに無理やり試練役をさせられているのですから」
覚えのある名前に驚く二人。
「お父様ということは貴方は娘ですか?! 」
「ええ。そうですね」
「まて。お前が死神ということはロキという輩は——」
「神々が一柱、となります」
この前捕らえた人物がまさかの神であったことに動揺する。
だからといって死神にやられるわけにはいかない。
シグナは剣を構えて、エリアエルは必死に魔杖を持ち上げようとした。
「私とて不本意なのです。出来れば早めに終わらせて帰りたいのでこういった試練方法を考案しました」
彼女がゆっくりと手を叩く。
すると二人は——異なる場所へ移動させられた。
★
エリアエルサイド。
エリアエルが気が付くと彼女の周りには多くの墓地があった。
すぐに構えて警戒する。周りに注意を払っているとどこからともなくヘルが現れた。
「貴方の試練は迫りくるアンデットをひたすら倒すことです」
「それだけですか? 」
「ええそれだけです。しかしながら一筋縄ではいかないと思いますよ」
ヘルが右手を上げると地面からスケルトンが這い上がって来る。
それに躊躇なく炎柱をぶつけたエリアエル。
しかしそう甘くはなかった。
「な! 」
「言ったでしょう? 甘くないと」
エリアエルが放つ魔法はどれも高火力だ。
一撃放てばアルメス王国の兵舎が吹き飛ぶくらいには。
しかしながら目の前のスケルトンに効いていない。
今まで見たことのない現象に驚くエリアエル。
しかし彼女も熟練の魔法使い。すぐさま第二弾を構えて再度打つ。
「ダメージは……、通っているようですね」
数体ボロボロ崩れていく様子を見て呟くエリアエル。
それに大きく頷きヘルは少し解説を入れた。
「この亡者達にはうっすらと神壁を張っています。ここから貴方が生きて脱出する方法はただ一つ。それを完全に打ち破れるようになることのみ。さぁ行きなさい。地獄の亡者達! 」
ヘルのその一言で巨大なスケルトンが顔を出す。
そしてエリアエルと無数に溢れる魔物との対決が始まった。
★
シグナサイド。
シグナが目を開けるとそこは闘技場のようなところであった。
彼女は入り口。前を見ると屈強な男達が斬り合っている。
「……いつの間に」
「ここはヴァルハラ。英雄や勇者と呼ばれた人達の行き先です」
いつの間にか後ろをとられていたシグナはすぐに飛び退き剣を構える。
しかしヘルは意に返さず説明を続けた。
「貴方に課す試練はここにいる英霊達と戦い勝ち、そして鍵を手に入れることです」
「鍵? 」
「ええ。鍵を手に入れ心の力とするのです。それがここから脱出する唯一の方法であり生き延びる方法。もし脱出敵わなければ現世で死んだことになるでしょう」
「何を勝手な! 」
「そういわれましても」
そう言い少し困った顔をするヘル。「おじ様に頼み今回特別に入場を許可させてもらったのですが」と少し呟くがシグナには聞こえない。ヘルは少しシグナを見て口を開いた。
「貴方がこのスキルを得るのも何かの縁。健闘を祈ります」
「ちょっ! 」
シグナが止めようとするが、ヘルは消えるように出て行った。
少し唖然とする中闘技場の方からシグナに声がかかる。
「お。お前さん新入りだな」
「久しぶりね。新入りさんは」
「どれ揉んでやるか」
彼女が振り返るとそこには男女様々な人がいた。
大小様々な人達がいるが、誰もがシグナとは別格の覇気を纏っていた。
「どれ。最初はわしじゃ」
そう言い一人の老人が出る。
そしてシグナの永遠ともとれる戦いの時間が始まった。
ここまで如何だったでしょうか？
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