第36話 クラウディアとグローリア
村から南区へ入り野営をしながら俺達は中央区へと入った。
横領貴族には悪いが今思い出しても少し笑いがこみ上げてくる。
あれは南区に入った時。丁度門を通過した時の事だった。
『クラウディア王女殿下に起きましては――』
恐らく事前に知らせがあったのだろう。
門で待ち受けていた貴族の使いらしき人物が多くの騎士を連れて口上を述べていたのを俺達の馬車は——スルーした。
止まらず先に進む馬車に唖然とする貴族の使い。
どうやら地位の高い人だったらしく、周りの騎士達に「お気を確かに! 」と言われながらもこちらを眺めるその人。
俺達が過ぎ去った後に何が起こったのか気付いたのだろう。
後から幾度となく馬車を止めに来た。
しかし結果は変わらず最後にはクラウディア隊長に——
『横領を止め即座に王城へ出頭するか、今ここで斬られるか決断しろ』
と言われた時、貴族の使いの髪の毛が抜けていく幻視をしたのを鮮明に覚えている。
後でクラウディア隊長に聞くと「私達を館に招いた、と言うことで王城に金でも請求するつもりだったんじゃないか? 」とのこと。
この手のやり口は幾らでもあるみたいだが、俺はやろうとは思えないな。
「着いたぞ」
クラウディア隊長の言葉に顔を上げる。
ゆっくりと馬車の扉が開き予定通りの順番で出る。
エリアエル、シグナと出た後俺も出た。
「うわっ」
太陽の光が反射して言葉が漏れた。
一瞬目瞑ってゆっくり開ける。
移動しながら目を慣らすと、白銀の鎧に身を包んだ多くの騎士が一列に立ち並んでいた。
その光景に驚きながらも横にならぶ。
俺が並んだのを確認したのだろう。一人の騎士が声を張った。
「クラウディア王女殿下のご帰還である! 各員! 敬礼!!! 」
その声と同時に俺達も敬礼する。
チラリと目を馬車に移すと黒い人影が出てくる。
緊張高まる中全身真っ黒な隊長が現れ一言漏らした。
「これだから帰りたくないのだよ。全く」
★
「面を上げよ」
そう言われて俺達は頭を上げた。
王城内を通されて女王、つまりクラウディア隊長のお母さんであるグローリア陛下との謁見となった。
本来は少し時間を置いてからの謁見だったが急遽時間を早めたらしい。
理由は南区の事だろうな、と思いつつもグローリア陛下を見る。
黒い瞳をこちらに向けて品定めするかのようにこちらを見て来る陛下だが、その姿は髪を伸ばしたクラウディア隊長そのもの。歳を感じさせない若々しい印象を受ける。
こうまじまじと見られるのは恥ずかしいが、ここは耐えないと。
チラリと隣を見るとそこには二人の男性がいた。
恐らくクラウディア隊長が言っていた兄、つまり王子二人だろう。
一人は細身なイケメン、もう一人は俺と同じくらいの身長と体格を持つ筋骨隆々な男性だ。
両極端な二人を見ていると女王の声が部屋の中に響いた。
「アルメス王国からの長旅お疲れさまでした。また道中賊に襲われた村を助けていただいたようで感謝の念に堪えません」
ゆっくりと、しかしはっきりと言う。
隊長とは全く違う言葉使いだ。
これはこれで新鮮。
「南区の事は後に考えるとして、まずはお礼を。宰相」
そう言うと壁際にいた男性が褒美の品目を読み上げていく。
グローリア女王陛下は少し目を閉じながらもそれを聞き、そして読み終えると瞳を開けた。
「品物は後に渡しましょう。まずは城内でお休みください」
そう言うと女王陛下は立ち上がり退出していった。
女王退出後俺達は休憩室のような所に通された。
そこで四人机を囲んで軽いものを食べている。
皆それぞれ普通の椅子に座っている。だが正直俺に合う椅子があるとは思わなかった。
何せこの巨体。座れる椅子があると普通は思わない。
だがそれもあの王子を見るまでの事だ。多分だが俺と同じくらいに大きな王子に合わせて幾つか大きな椅子が城内にあるのだろう。
「さて試練の塔を攻略するための会議でもしようか」
「せっかく戻って来たというのに挨拶に来ないとは。私は悲しく思いますよ、クラウディア」
言葉の方を向くとそこにはグローリア女王陛下がいた。
な、なんでここに女王自らいるんだ!
俺達はすぐさま膝をつこうとする。しかしそれを女王が手で止めた。
彼女が着席すると、俺達も座るよう促した。
少し顔を見合わせ、動揺しながら椅子に座る。
すると俺達の方を見てニコリと笑みを浮かべて口を開いた。
「クラウディアがいつもお世話になっております。この子は大変な性格をしているとおもいますが、部隊の中ではどのように過ごしているでしょうか? 」
「……母上。何故私の私生活を聞こうとしているのですか」
「貴方が連絡を寄越さないからですよ。先日会った時もどこか本当の事を言っていない様子。ならばいつも接している人達に聞くのは普通だと思いますが」
「だとしても一国の女王が他国の貴族の元へ足を運ぶのは、いらぬ噂を招きそうですが? 」
「まぁそれは恐ろしい。もしそのような、誤解を招くような噂をするものがいるのならば処断しなければなりませんね。まぁそのような不敬な輩はここにはいないと思いますが」
「白々しい」
笑いながらそう言う女王に疲れた顔をするクラウディア隊長。
く、癖の強い人だ。
また違う方向にクラウディア隊長を伸ばしたような性格をしている。
しかし何故女王自らここに来ているのか本格的にわからない。
隣にいるエリアエルに小さな声で聴いてみる。
『結局どういうことだ? 』
『恐らくグローリア女王陛下はクラウディア隊長がすぐに作戦会議をしてダンジョンに潜ろうとしているのを察知したのでしょう』
『それは分かるが……』
『で、もしこの中に不穏分子がいた場合クラウディア隊長を狙うはず。もしクラウディア隊長を狙うのならばダンジョンに潜っている時がもっとも襲撃しやすいということです。つまるところ、そのいるかわからない不穏分子さんはわたし達がダンジョンに潜る時の情報を盗み待ち伏せする可能性があるため、こうしてグローリア女王陛下がここで作戦会議をするのを止めに来た、と言うことだと思います』
それを聞きいまいちピンとこない。
恐らくカエサル王国内にクラウディア隊長を狙う輩がいるということは分かった。
しかしそれをさせないために女王陛下自らやって来たというのもわかった。
だがそれは女王が出て来るほどの理由なのだろうか。
単に娘を心配してやってきた、と言われた方がしっくりくる。
クラウディア隊長が疲れた顔をしながらグローリア女王陛下と雑談している。
そんな中ノックの音が部屋に響いた。
「お帰り。クラウディア」
「おうおう、クラウディアの婿はどこだ? 」
王子様お二人のご登場である。
ここまで如何だったでしょうか?
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