第28話 ヒステリカ女史
「着いたぞ」
クラウディア隊長が立ち止まると一つの大きな建物に着いた。
他の建物とは違う煌びやかな建物。
ここが図書館か。
初めて見る図書館に少し感動しながらも先を行く隊長について行く。
中の職員らしき人に挨拶をして隊長がヒステリカ女史の居場所を聞くと指さした。
「了解した」
そう言い隊長が歩き出す。
周りを見ると学者らしき人達が本を手に取り木の机についていた。
俺に気が付いた人は驚きさっとどこかに行ってしまったが、恐らく俺の体の大きさに驚いたのだろう。
「ここは本だけでなく様々な研究資料がある」
二階へ上がる螺旋階段を登りながら隊長が説明する。
「各国の歴史や軍用地図はもちろんの事、踏破したダンジョンの記録とかもな」
「ということはわたし達の名前も載っているということですか?! 」
「そう言うことになる。因みにいうとアダマ君が提出した報告書の一部もここに保存されていたりする」
「……嬉しくない情報です」
俺がそう言うと呆れるように隊長が言う。
「歴史に名を刻んだんだぞ? 嬉しく思わないと」
そうは言うがあの下手な字を保存されていると思うと素直に嬉しく思えない。
こんなことになるのならば隊長に代筆を頼んだ方が良かったかもしれない。
「この先だな」
螺旋階段を上った先、幾つかの大きな扉があった。
そのうちの一つに隊長が足を向け、扉を開ける。
中に入ると、外からは分からないほどに広い空間に出た。
しかし光球の魔道具で照らされたその部屋は本棚でいっぱいだ。
どこに行けば良いのかわからないため隊長について行きヒステリカ女史を探す。
幾つか本棚を突っ切っていく。
そんな中——。
「きゃっ! 」
いきなり隣から衝撃が伝わって来た。
横を見ると眼鏡をかけて女性が一人尻もちをついている。
「すみません。大丈夫ですか? 」
声をかけて手を伸ばす。
彼女が俺を見上げると目が合った。
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!! 」
そのまま後ろに後退っていった。
……なんだろうか。そんなに怖い顔をしていたか?
「アダマ。感覚が麻痺しているかもしれませんが、アダマは十分に犯罪者顔なのですから気を付けてください」
「今まで捕まらなかったのが不思議なくらいな犯罪者顔なんだ。気をつけろよ」
「アダマ君。普通の人が見上げた先に君の顔があればすぐに逃げるだろう。しかし安心し給え。そんな君も大好きだ」
「……俺泣いていいか? 」
辛辣な言葉が俺を襲う。
怖い顔であるということは自覚していたが、この言われようは傷付く。
心の中で半泣きになりながらも再度女性の方を向く。
そこにいたのはブルブルと震えてこちらを見る白衣を着た女性。
「カ、カエサル隊長? 」
「……やはり君か。ヒステリカ女史」
え?! この人がヒステリカ女史?!
驚いているとヒステリカ女史が震える声で言う。
「ど、ど、ど、どうしてカエサル隊長がこんな所に」
「私達は君に用があって来たんだ」
「わ、私ですか?! わ、私は美味しくありませんっ! 」
「君の中で私がどんな存在なのか非常に気になるのだが……、一先ず話すことはできるか? 」
余程隊長の事が怖いのか首をぶんぶんと縦に大きく振って、俺は席へと案内された。
この部屋の中央にある大きな机には大量の資料が置いてあった。
しかしヒステリカ女史しかいない。
聞くところによると今この部屋を使っているのはヒステリカ女史だけらしい。
よってこの部屋を使いたい放題との事だが……、正直かなり散らかっている。
スミス隊長の時もそうだったが研究者というのは散らかすのが得意なのだろうか?
「わ、私はヒ、ヒステリカ、と……言います」
消えるような声で彼女が自己紹介した。
……見ているだけで可哀そうになるくらい小さくなっている。
「君の人見知りも大概だな。私の自己紹介は良いだろう。では諸君。自己紹介をし給え」
人見知りでこんなに縮こまっていたのか。
一人納得し隊長に言われた通り俺達は自己紹介をする。
それを終えるとヒステリカ女史が「ど、どのような御用でしょうか」と聞いて来た。
「君に邪神について聞きたいのだよ」
「……邪神? 」
「あぁ。理由あって邪神について知りたいんだ。時々歴史に顔を出す邪神。歴史に詳しい君に聞くのが一番いいだろうと思ってな」
隊長がそう言うといきなりヒステリカ女史は「ぐわっ! 」と目を開けた。
「確かにその通りです!!! 」
いきなり大声で喋るヒステリカ女史。
今までの雰囲気とは打って変わって饒舌に話し始める彼女に唖然としながらも話を聞く。
「歴史の事ならば私にお任せください! 邪神。そう邪神ですか! 良いでしょう。邪神について教えましょう。まず初めて文献に登場する邪神は——」
ヒステリカ女史が言うには、クラウディア隊長も言っていたように邪神と呼ばれる存在は今までに何度か歴史に出現しているようだ。
しかしその姿は一致しない。毎回違う姿で歴史に顔を出しては世界に混乱を引き起こしたようで。
被害は大きく国一つが潰れる程度ならば軽い方。大陸全土にわたって影響を及ぼすことも稀ではないとの事。この場合発生した国ではなく違う国から邪神と言う存在が観測されているらしいが、俺達が住むこの国以外に『大陸』と言う違う場所があるということを初めて知った。
そして毎回異なる姿・能力を使う邪神だがいずれも『邪神のダンジョン』と呼ばれるダンジョンから発生しているのは共通らしい。
「邪神のダンジョンはその名の通り邪神を発生させるための装置、もしくは祭壇のようなものと考えられています。そこから発生した邪神は自らの眷属を召喚し配置しているようですが、記録によるとこの邪神や眷属という存在は通常攻撃が効かないらしいのです。ある時は国一つを封鎖して禁忌魔法で燃やし尽くして葬り去ったとか」
それを聞き一気に空気が重くなる。
神様が直接介入してくるはずだ。
こんなヤバい奴を放置できるわけがない。いや放置しようとしていたけれども。
そんな雰囲気を気にせずヒステリカ女史は話を続ける。
「邪神は常に邪神教団のような存在によって召喚されているみたいですね。しかし組織の目的は時代ごとに変わっているようで、記録によるとある時は世界の混乱、ある時は国落とし等々」
「それどこで知ったんだ? 少なくともここに保存されている資料に記録されているとは思えないんだが」
「……そこから推論される邪神と言う存在なのですが――」
少し目を泳がせながら彼女は説明を続けた。
……スルーした! 思いっきりクラウディア隊長の疑問をスルーした!!!
彼女が犯罪を犯して知り得た情報でない事を祈るばかりだ。
ヒステリカ女史の説明は続く。
彼女は邪神とは本来の神ではない存在なのではないかと考えているらしい。
人の欲望や邪な考え。そう言った目には見えない人の欲望などが集まりそれを人為的に見える形にした、俺達が知りえる存在から超越したなにか。それが『邪』神。
言われると納得だ。
それに神様が「近いうちに世界が滅亡する」と言っていることを考えると、今回の邪神教団の活動目的は「世界の破壊」。
兎にも角にも召喚されると碌でもない事が起こることは簡単に想像できる。
そして想像以上に邪神と言うのは予想以上にとんでもない存在のようだ。
「――ということですが何か質問は御座いませんか? 」
語りきったのか、喋る前よりも顔艶の良くなったヒステリカ女史が聞いて来た。
特にないのでこれで解散。
重たい雰囲気のまま俺達は図書館を出た。
ここまで如何だったでしょうか?
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