第26話 朝から不幸だ
世界の滅亡が近づいている。そんなことが告げられ早三か月。
俺は各地のダンジョンを潰して周った。
ダンジョンに異変があったのは最初の『死者のダンジョン』だけ。それ以外のダンジョンでは特に異常は見られない。
近付いているにも関わらずその雰囲気はない。
今日もまた俺達カエサル隊はダンジョンを潰し終えた。
「やはり邪神教団が何かするのでしょうか? 」
日も落ちて薄暗い訓練場でエリアエル・マーリンがそう言った。
光球の灯りが照らす彼女の髪は短くオレンジで、俺を見上げる瞳は緑かかった青色をしている。小さな背丈にドレスのような黒い服を着た彼女は頭を捻りながら俺に聞く。
しかし返事は俺ではなく豊満な胸を持ったビキニアーマーの女性、シグナ・ルーンが答える。
「変化っていう変化はないしな。それが一番有り得そうなんじゃないか? ほら、神様とやらも人が起こすものって言ってただろ? 」
エメラルドグリーンの瞳が座るエリアエルを見下ろした。夜というのに寒くないのか気になる格好だがこの部隊最速の剣技を誇る女性だ。短く緑の髪を持つ彼女は露出癖さえなければフレンドリーな良き仲間なのだろうが、彼女の姿は少し刺激的過ぎる。
「シグナの言葉が正しいとして我々に出来ることは少ない。精々ダンジョンを攻略し、危険度を下げるくらいだと思うが……、どうだね? アダマ君」
美しい顔で妖艶な笑みを浮かべる黒一色の女性は俺達の部隊の隊長クラウディア・カエサル様だ。一応王女様らしいがそんな雰囲気は全くない。
クラウディア隊長はこの変人部隊を仕切っているのだが、例に漏れず彼女も変人だ。常に俺を刺激するような言葉や動きをして誘惑してくる。
全く困った隊長殿だ。
っと、そんなことよりも邪神教団のことだったか。
「……確かにダンジョン攻略しかできません。俺達が邪神教団の拠点を知っているわけでもないし。もしダンジョンスタンピードによる大規模災害が起こるのならば、その被害を限りなく減らすようにダンジョンを安全にしておくことくらいしかできないかと」
見上げて来る三人に向かって言う。
どのような仕組みでダンジョンが発生しているのか、またダンジョンで魔物が発生するのかはわかっていない。ただ一ついえることは攻略をすることである程度管理下に置けるようなるということだ。
活動が活発になってきていると聞いているが、少なくとも俺達が知るレベルまで彼らの活動が活発になっている様子はない。
邪神そのものが突然出て来たのならともかく水面下で動く彼らを捉えられるのは俺等ではなくそれを専門とする他の機関だ。
「でもこのまま手をこまねいているだけというのももどかしいですね」
「気持ちはわかるが」
エリアエルが言う通りもどかしい。
俺なんて一回死んで強制的に試練を受けさせられたこともあるから余計に厄介事は早めに潰したいという気持ちがあるのは確かだ。
しかしできることはあるのだろうか?
「ふむ。エリアエルが言うこともわかる。だが実際問題できることは多くない。しかしない事もない。それは——」
「「「それは? 」」」
「邪神教団について調べることだ」
クラウディア隊長がはそう言った。
★
邪神教団について調べることになった日の朝。俺は部屋で黒い特注軍服を着ていた。
今日ダンジョン攻略はお休みの日。加えるのならばダンジョン攻略が軍としての訓練のような俺達独立ダンジョン攻略部隊にとって、貴重な休みの日。
そんな日を費やして俺達は調べものに行くこととなったのだ。
少し屈み寝癖が無いか鏡でチェック。
この鏡も大きければと思うのだが、同時にわざわざ買うこともないと思う訳で。
背が高い、と言う理由だけで高価な鏡をおいそれと買うわけにはいかない。
いや功績とかを考えると買ってくれるだろうが買ってもらうには気が引ける。
今日は他の隊へ行くということもあり念入りにチェック。そうしていると扉からノックの音が聞こえて来た。
「? どうぞ」
「邪魔するぞ」
扉から入ってきたのは刺激的な改造軍服を着たシグナだった。
しかしその様子はどこかおかしい。顔が赤く、少しもじもじとしている。
……今になって着ている改造軍服が恥ずかしいと感じるようになったのだろうか?
いや彼女に限ってそれはない。
「ア、アダマに一つ頼みがあるんだ」
そう言いながら彼女は両手を組んで俺を見上げた。
「頼み事? 」
「あ、あぁ」
俺が言葉を返すと少し顔を逸らして更にもじもじとする。
仕草は可愛いのに俺の危険感知センサーがビンビンに働く。
いやまて。意表をついて普通の相談かもしれない。
ここは聞くに限る。
「頼み事ってなんだ? 」
「あぁ。実は——」
「実は? 」
「ア、アダマをっ! 斬らしてくれないだろうか!!! 」
シグナは顔を真っ赤にして上目遣いでそう言った。
……最悪な告白だ。
兎にも角にも何がどうなったらそんな頼みごとをするようになるのかとても気になる所で。
「一先ず来てくれ」と言う彼女について行きながら話を聞く。
すると意外にも原因は俺にあったようだ。
「あの時の感触が忘れなくて」
ポッと顔を赤らめる彼女だが、言っていることは全然可愛くない。
あれか。死者のダンジョンで俺に剣が当たった時の事か。
となると俺の注意散漫が原因の一つということになる。
よって俺に責任がないとは言えない。
このまま放っておくと彼女が切り裂き魔になってしまうかもしれない。
それは避けるべきだ。
そう思って彼女について行き、訓練場へ向かった。
「来たか」
「遅いですよ。アダマ」
訓練場にいたのはクラウディア隊長とエリアエルだった。
彼女達も黒い軍服を着て立っている。
遅れました、と言いながら駆け足で寄ると彼女達の足元に多くの長剣があった。
え、これ全部使うのか?
「アダマ。まずは脱ぎ給え」
「……何ででしょうか? 」
「シグナが斬りつけるのだ。十中八九、特注軍服が破れてしまうだろ? 」
「その本心は」
「朝からアダマ君の逞しい体を見れるなんて、なんて良い日なんだ!!! 」
「興奮しないでください」
いつも通りの隊長にエリアエルがツッコむ。
しかしそんな様子を気にせずシグナは剣を一本取った。
顔を赤らめながら剣を取るその姿は危険人物そのもの。
これを外に出すことはできないと思いつつ俺は服を脱いだ。
「おおお」
と言いながら隊長が近寄ってこようとする。
隊長の行動に身の危険を感じる。
ヤバいと思ったが、エリアエルが「目的が変わってきていますよ! 」と近寄る隊長を引き摺って遠ざけた。
「じ、じゃぁ行くぞ! 」
俺の準備もままならないまま、シグナは待てなくなったのか超速の剣戟を放った。
あぁ。朝からなんて不幸な日なんだ。
ここまで如何だったでしょうか?
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