カエサル隊の日常 1 クラウディアの執務
クラウディア・カエサルは仕事人だ。
今日もまた部下をダンジョンに送り込み、そして自分は執務をしている。
安産型のヒップを降ろすは座り心地の良い椅子。大きな胸を押し付けるのは豪華な机。そしてその上には大量の報告書や始末書が置いてあった。
「中々にやらかしてくれるじゃないか」
溜息をつきながら彼女は呟いた。
かつて人喰らいと呼ばれていた彼女は今や黒の指揮姫。
アダマ達の功績のおこぼれを貰った感じになっているが彼女は気にしていない。元より前の二つ名を気に入っていなかったため喜んでその二つ名を振り回している。
しかしそんな指揮姫様を困らしている大量の書類。
それを手に取りパラパラと捲りまた溜息をつく。
一つはダンジョン攻略の報告書。
アダマが書いたのであろう。お世辞にも綺麗とは言えない字で書かれたそれは人間味あふれるものとなっている。
彼の性格が反映されているのだろうか。報告書には本来書く必要のないことまで書かれていた。
「村の様子は好調、と。喜ばしい事だ」
幾つかダンジョンを攻略して回っているアダマ達だが無論資源になりえるダンジョンの周りには町や村が出来ている。
しかしリターンを求めすぎて村が脅かされていることも少なくない。
本来ならば冒険者ギルドが自発的に活動しダンジョン攻略に向かうだろう。なぜならば得られるものが多いからだ。
しかしそれ以上に損失が大きかったらどうなるか。簡単である。
利益が見込めない場所から撤退するのだ。残された村の事は考慮に入れない。冒険者ギルドも利益を求める一つの商会のようなものと思えばわかりやすい。
よって国の機関であるアダマ達カエサル隊がそうした場所を率先して潰して周り、安全とさせ、管理を行っていく仕組みとなっている。
「これもアダマが来たおかげだな。ふふ。本当に良い男だ」
アダマ達がいる時以上に顔を赤らめ体を火照らせるクラウディア。
しかしそんな彼女の体を冷めさせる二種類目の書類が目に映った。
「……あの変態共」
クラウディアにだけは言われたくない、と本人達が聞くというだろう。
人的被害を出している分クラウディアも人の事は言えない。
だがここには誰もいない訳でそのくらいのボヤキは許される。
彼女が見ているのは始末書と嘆願書。
内容は簡単。
カエサル隊のエリアエルやシグナからの備品破損の始末書に加えて、「エリアエルの魔法範囲をどうにかして欲しい」「最近町に露出狂が出ると報告が上がっています」「この前死者のダンジョンで採取中に死にかけました。エリアエルの魔法で」「シグナ殿をどうにかしてください。朝、我が部隊の男性が困っています」等々の嘆願書や報告書。
嘆願書の中には独立ダンジョン攻略部隊のみならず区の衛兵、独立ダンジョン攻略部隊ではない国軍の者からの書類なども含まれていた。
しかしこれを受け取ったとしてもどうにかすることはできない。
何故ならば彼女達を呼んだのはクラウディア自身であり、戦力重視で集めたからだ。
故に彼女達の事はよく知っている。
言ったところでそれを直すのならば嘆願書が上がる前に治っている。
「嘆願書として上げることで日々の鬱憤をはらしているのだろうか」
はぁと大きく溜息をつき天井を仰ぐ。
恐らくこの報告書を上げた人達も嘆願書を上げた所でどうにかできるとは思っていないだろう。
しかしそれを分かりつつ上げてくるということは、彼女達の行き過ぎた行為もあるが——これを良い的として不満をぶつけているのだろうと思える。
それをくだらないと切り捨て三種類目を手に取った。
「入隊希望か」
それを見て少し口角を上げて、そしてへの文字にするクラウディア。
解体寸前だったカエサル隊は今や『英雄部隊』。定員十人に対して今いるメンバーは四人。
人手不足は明らかなのだが、捲る入隊希望者の中に彼女の目に留まる人物はいなかった。
「ちっ。舐めているな」
舌打ちを打ったクラウディアはそのすべてをゴミ箱に入れた。
捨てられた書類に書かれていたのは貴族子息達。
無論貴族子息の中にも強き者はいるのだがその殆ど国軍へ行ってしまっているのが現状。
彼女が見る限り入隊希望者に特筆すべき人はおらず、入れると逆に邪魔になり得た。
アダマは知らないが、彼女は人喰らいと呼ばれていた時もう一つの二つ名があった。
それは『一人師団』。
スキルにより大量の騎士型人形を召喚し、強化し、操り敵を葬る正真正銘の殲滅者。
無論『傀儡師』や『召喚: 女王親衛隊』のみでは高等戦術は行えない。
彼女を一人師団に仕立て上げているのは『高速演算』や『並列思考』と言った思考加速や思考領域拡張系のスキルである。
これらのスキルを併用することで彼女は本来味方いらずなのだが何の因果かこうして部隊を持つようになった。
恐らく入隊希望者は彼女が一人師団と呼ばれているのを知らないのだろう。故に簡単に入隊希望を出せる。クラウディアは「彼らは英雄部隊に入っていた」という箔が欲しいだけの寄生虫だろうと考え、彼らの家名だけを覚えてブラックリストに入れた。
ゴミと化した紙束から目を放し四種類目の書類、いや単なる書類にしては豪華すぎるその紙を見て無言で切り刻んだ。
「私は私が認めた相手としか結婚する気はないのでね」
冷ややかな目を向けながら紙切れに言う。
無論返事は帰ってこないが一人の男を思い出し妖艶に微笑む。
「お見合いをしたいというのなら最低限アダマに傷を入れることができるレベルでないと会う気にすらなれんな」
そう呟きながらも腕を組む。
「む……。これは本格的にアダマとの婚姻を考えるべきか。寄る虫を払えるだろうし何よりもあの男以上に良い男は見つからないだろう。しかしエリアエルの事もある。それにシグナもなにやら怪しい……。これは熟考する必要があるな」
そう言いつつ席を立つ。
部屋の隅に置いてある剣と鞭を腰にして窓際に行く。
外でシグナと訓練に励んでいるアダマを見てにやりとした。
「まぁまずは友好を深めるところからだ。そうだな。二人っきりでダンジョン攻略の旅も良いな。この私を悩ませるなど、全く困った男だな。アダマ君」
クラウディアは一人呟きながら「ペシン! 」と音を立ててその場を離れる。
変態・変人・奇人が集まるここカエサル隊は今日もまた平常運転だった。
ここまで如何だったでしょうか?
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