追放者サイド 2 悲運な回避盾の男
何とかカイトがキルケーに香水をつけないように説得した翌日の朝。
カイト、キルケー、メアリの三人は冒険者ギルドで一人の盾使いとあっていた。
「……お前本当に盾役か? 」
「募集していてなんだその言い方は……」
カイトの言葉に少し怒気を孕んだ言葉で返す盾役の男。
「俺は回避盾という盾役だ。軽装なのは回避しながらあんたらを護るためだ」
それを聞き、カイトは納得する。
回避盾。その名の通り相手の攻撃を回避しながら敵意を稼ぎ、自分に攻撃を向けさせ、敵を後ろに漏らさない盾役の事だ。
回避するという特色から持っている盾は軽い物。騎士が持つような重厚で大きな盾ではない。
この男が持っているのも丸い盾で服装は軽装。
カイトが疑問に思ったのも仕方ないが、しかしこれは常識の範囲内であることを考えるとまず疑問を持つこと自体おかしくもある。
「こんな貧相な盾役。使えるのかしら」
「まぁ待てキルケー。思えばあのおっさんは盾すら持たなかった。それを考えるとまだ盾役らしいじゃないか」
キルケーは思ったことをそのまま口にするがカイトが男をフォローする。
そんな様子をメアリが「心底どうでもいい」といった表情で見ており雰囲気は悪い。
この時点でこの男は「契約期間が切れたらすぐにでもやめよう」と考えていた。
「まぁ行こうぜ。サクッと二十階層あたりでも攻略して次に行こう」
そう言うカイトにメアリが口を挟む。
「……なんだメアリ。何かあるのか」
「連携確認しなくても良いの? 」
「そんなものいらん。何せ俺達は『聖杯を受け継ぐ者』。この前二十三階層まで行けたんだ。余裕だろ」
この町にあるダンジョンは未踏破。
現在攻略されているのは二十五階層まで。
それを考えると彼らがどれだけハイスピードで進んでいるかがわかる。
しかしそれはアダマがいての話だが。
「……彼は回避盾。今まで以上に連携は重要だと思うけど? 」
根拠のない自信に苛立つメアリ。
しかしカイトは止まらない。
「『硬化』スキルはもっているか? 」
「もちろんだ」
「なら大丈夫だろう」
そう言いカイトはギルドの外に出てしまった。
タタタとそれについて行くキルケー。
メアリの頭に不安が充満する中、回避盾の男と共にダンジョンへ向かった。
★
「ギャァァァァァ!!! 」
「馬鹿やろう! なんで盾役の俺よりも前に突っ込む! 」
ダンジョンの中にカイトの悲鳴が響いた。
キルケーが青ざめる中盾役の男が怒鳴りつける。
カイトの腕を切りつけたオーク・ソルジャーはにやりと醜悪な笑みを浮かべながらも再度切りつけようとする。
しかし盾役の男が「敵意集中」をうまく使いながらオーク・ソルジャーを引きつけた。
オーク・ソルジャーの注意が彼に向き、切り裂こうとしているのを盾でいなして後ろに指示を出す。
「早く仕留めてくれ! 」
「わ、分かってるわよ。フ、火炎小弾!!! 」
ドン!!!
構えるキルケーから火炎弾が放たれる。
しかしそれはオーク・ソルジャーではなく今も交戦している盾役の背中に命中した。
「熱っ!!! おい貴様! なにしやがる! 」
「ちょこまかしているあんたが悪いんでしょ!!! 」
『硬化』のおかげで盾役の男はダメージを負っていない。
しかしキルケーは盾役の男の怒りを買ってしまった。
がそれも一瞬、盾役の男はプロだった。
すぐに切り替え再度オーク・ソルジャーに切りつけた。
回避盾の役割はスキルを用いて敵を引きつけるだけではない。
その身軽な動きでオーク・ソルジャーに攻撃し、仲間に魔物が向かないようにすることだ。
スキル『敵意集中』には時間制限があり、長くない。
なのでこうして物理的にヘイトを稼いでいるというわけだ。
だがそれにも物理的な限界というものがある。
「迷宮鼠の群れ?! しかもこんなに多く! 」
オーク・ソルジャーと死闘を繰り広げながらも男が驚く。
回復薬で切りつけられた腕の傷を癒したカイトは不敵に笑う。
「さっきは不覚をとったが大丈夫だ。今まで何度も倒している」
「このくらいなんともないわ」
カイトとキルケーが構えて正面を見る。
男は「それよりも早くこのオーク・ソルジャーを何とかしてくれ」と言うが聞く耳を持たない。
そして迫りくる大群にキルケーが火炎小弾を打ち込んだのが開戦の合図となった。
ドン!!!
その音と共に迷宮鼠は加速した。
「オラオラオラ! 」
同時にカイトも切りつける。
「いてててて!!! くそっ! 何で痛みがっ! 」
カイトのあちこちに噛みつく鼠。
一体一体の大きさは小さくダメージは小さい。
しかしながら今までにない痛みを感じて悲鳴を上げた。
カイトの体中を齧りつき肉を削ぐ。
しかしこれ自体は今までになかったことではない。
今まではアダマが『範囲防御』で痛みを肩代わりしカイトは冷静に鼠を切り落としていたのだ。
『範囲防御』は護る範囲を広げるだけのスキルである。
よって——いくら『硬化』のスキル持ちとはいえ——本来ならば護ると同時に痛みを感じるのだが、アダマは感じていなかった。
悲しきかな、アダマは範囲防御で味方を護っていく中で高度な『苦痛耐性』を獲得していた。これによりアダマは痛みを感じることなく味方の痛みを引き受けることができていた。
「待って。後ろにまで来ているんだけど! 」
カイトが討ち漏らした鼠が後衛にまで襲い掛かる。
今までにない様子にキルケーが顔を青ざめさせ、魔杖を構えたが――
「フ、火炎小弾……え? 」
なにも起こらなかった。
それに驚き再度発動させようとする。
しかしまた失敗。
キルケーは『魔法: 中級』のスキル持ちである。
スキルがあるとはいえ集中力を必要とする。
混乱した今の状態で、正常に魔法が使えないのはある意味当然であった。
そして——。
「痛いぃ。いた……。ぎゃぁぁぁ! 」
鼠達に体中を噛みつかれて悲鳴を上げた。
その声に反応し迷宮の奥から蝙蝠種の魔物が目を光らせる。
紅い瞳の集団が来るのを迷宮鼠を一人で処理しているメアリが感知した。
「まずいね」
ポツリと呟き、鼠を蹴り飛ばす。
周りから鼠がいない状態にして腰の袋に手をやった。
手にしたのは一つの魔道具。
それを見て心底嫌そうな顔をし前を向く。
「今から帰還石使うからね」
「!!! ちょっと待て! 」
「待たない」
誰の返事も聞かずにメアリは帰還石を地面にたたきつける。
そしてそこにいる者達はダンジョン外に強制帰還した。
魔物も含めて。
ここまで如何だったでしょうか?
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