追放者サイド 6 凶行に走るカイト
「へぇ。ここが中央区か」
澄んだ青い瞳をのぞかせて賑やかな街並みを見るロキ。
青い髪というのが珍しいのか周りが少しチラチラ彼を見ているが、気にしている様子はない。
足を止め右に左に見ているロキにカイトは近づく。
カイトは観光気分のロキに少し苛立っていた。
「早く宿を取りに行くぞ」
「せっかちだなぁ。けどわかったよ」
ロキは少し愚痴るがカイトについて行く。
カイトは慣れた様子で中央区を行き宿を探す。
カイトはログ子爵家の者だ。
王城に来たこともあり王家主催のパーティーに出たこともある。
小さな頃から血気盛んだったカイトは王都に来た時、別荘を抜け出し王都に出ていた。
それもあってか彼はスムーズに宿に着いた。
しかし——。
「申し訳ありません。今日は満室で」
宿の主人が申し訳なさそうに頭を下げる。
しかしそれに納得するカイトではない。
「俺はログ子爵家の次男だぞ?! 部屋の一つや二つ空けろ! 」
「それが無理なのです。カイト坊ちゃん」
「ふざけるなっ! 無理なものがあるか! 」
「……ですが」
どうしたらいいのかわからないと言った表情でカイトを見る主人。
ロキはまずいと思ったのか二人の様子を見て割って入った。
「まぁまぁカイト落ち着きなよ。ね、ご主人。せめて何で無理なのか教えてくれないかな? 」
「ええ、それは構いませぬとも。最近死者のダンジョンが攻略されたのは御存じで? 」
それを聞きカイトの抵抗が無くなった。
固まるカイトを少し気遣いながら主人は理由を説明する。
「攻略され安全となったダンジョンの素材を目当てに各国の冒険者の方が来られまして……」
「でも冒険者だけじゃないんでしょう? 」
言葉を選び説明しないように店主は言う。
しかしそれだけでは説明にならないとロキが続けさせる。
「ええ。各国から高貴なお方が来られまして、この宿はいっぱいなのです」
「そんなもの——」
更に騒ぎ出すカイトを見ながらロキは察した。
恐らく来ている高貴なお方と言うのはお忍びで来ている貴族か王族だろうと。
(さて。どう転がすのが面白いか......)
ロキは考え周りを見る。
彼のスキルを使えばごり押し出来ないことはない。しかしその行為は遊びに来た時の醍醐味を減らすようなものでもある。
よって彼は即座にごり押し案を棄却した。
そしてカイトに声をかける。
「ねぇカイト」
「なんだ! 今大切な話を」
「店主さんも困っていることだしここは諦めようよ」
「なにをっ! 」
怒るカイトの後ろで店主がロキに高速で頷いていた。
カイトはロキに言い寄ろうとするが先にロキが口を開いた。
「別にここじゃなくても高級宿は幾らでもあると思うんだけど」
「……そう言われれば確かにそうだな」
急に落ち着きロキの言葉に納得するカイト。
その急激な変化に店主は驚くも余計な口は出さない。
明らかに魔法で落ち着かせたのだが店主が優先すべきは泊っている人の安全。
いきなり仲間に魔法を放つロキに何か言うのは得策ではないと考えたのだ。
「じゃぁ次を探してみよう! 」
「……また今度来る」
「またのご来店をお待ちしております」
店主は心にもない事を言ってカイト達を送り出した。
カイト達がいなくなった後、宿の階段から足音が聞こえる。
店主はすぐに背筋を伸ばして彼女を迎えた。
「何やら騒がしそうでしたが大丈夫でしょうか? 店主」
「お騒がせして申し訳ありません。少々ハプニングはありましたが問題は片付きましたので」
「そうですか。店主がそう言うのならば、そうなのでしょう」
女性は落ち着いた様子でそう言った。
彼女は再度階段を登ろうとした時、店の入り口が開く。
そしてそこにいたのは——。
「はぁ……。いきなり呼び出さないでいただきたい。母上」
「久しぶりの再会に随分な物言いですね。しかし貴方が元気そうで何よりです。クラウディア」
★
夕日が沈む中カイトとロキはやっと一軒宿を見つけた。
しかしその宿はおんぼろそのもの。
ロキは気にしていないようだがカイトはかなり不満がある様だ。
「こんなしょぼくれた宿しかねぇなんて」
「仕方ないよ。あっただけでもマシって考えないと」
ニコニコしながらロキは言う。
「こんな宿しか取れなかったんだぞ! なにヘラヘラとしてんだ! 」
がっ、とロキの胸倉を掴もうとするカイト。
しかしロキは身軽に避けてカイトが倒れた。
「カイトが怒っているのは宿の事だけじゃないよね? 」
倒れたカイトを見下ろしながらロキが言う。
図星なのかカイトは何も答えず起き上がろうとする。
「君が言っていたアダマ君が死者のダンジョンを攻略したことも原因だよね」
「うるさいっ! 」
「何を怒っているのかな? 別にいいじゃん。昔の仲間の事なんて。カイトはカイトなんだから」
「うるさい! うるさいっ! 」
「それとも何かな? もしかして区の人の彼への賞賛を聞いてみじめになっちゃったのかな」
「その口を閉じろ!!! 」
起き上がりロキに飛びつく。
しかしまたひらりと躱され壁にぶつかった。
「お笑いだよね。追放したはずの人間が自分以上の功績を上げちゃうんだから」
「こ……のっ! 」
「少し頭を冷ましてきた方が良いと思うよ」
そう言いカイトは締め出された。
★
カイトは人喰らいの所に気に入らないおっさんを生贄にしたはずだった。
他国で名を馳せた女武将クラウディア・カエサルの人喰らいの二つ名はこの国でも轟いており恐怖の代名詞。
自分は輝き、おっさんは死ぬ。
カイトはそんな未来を妄想していた。
「くそっ! 何であいつがっ! 」
カイトは夜道を歩き建物を殴る。
手が痛むが気にせず進む。
怒りのままに、嫉妬のままに足を進める。
「――でよう。この前品物を運んでいるとカエサル隊のアダマさんに会ったんだよ」
「へぇ。どんな人だった? やっぱり怖かったか? 」
「いやそれがよ。転げた俺を立ち上がらせてくれて。落ちた果物まで買ってくれてよぉ。俺は泣きそうだったぜ」
「意外だな。修羅のように怖いと聞いていたんだが」
「んなこたぁねぇ! あんなに優しい人にあったこたぁねぁ。全く人を外見だけで判断しやがって」
「お前アダマさんの何なんだよ」
「ファンだ! 」
光漏れる食堂から話声がカイトの耳に入る。
それがカイトを苛立たせる。
(なんで。なんであいつなんだ)
歩く度に黒い感情がこみ上げる。
これは自分が得るべき称賛で決して気持ち悪いおっさんのものじゃない。
少なくともカイトはそう思いこんでいる。
称賛も――金も女も全て自分の物で、あいつのものじゃない。
どんどんと彼の思い込みが変質いていく。
ドン!
「きゃっ! 」
下を向いて歩いていたせいかカイトは一人の女性にぶつかった。
はっとして顔を上げるも苛立ちが消えない。
「いてててて」と言いながら女性が立つも、カイトは立ち上がる姿をアダマと重ねてしまった。
その瞬間カイトの中で何かが切れる音がした。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
これがアルメス王国連続殺人事件の始まりである。
ここまで如何だったでしょうか?
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