第1話 追放
剣や斧、杖に鎧に様々なものを装備している人がいる。
彼らが行きかう道を俺も歩く。
目指す場所は同じ。冒険者ギルドだ。
ここはダンジョン都市国家の一つ。
ダンジョンを中核に出来上がったこの都市一つ分の国は、ダンジョンから出てくる資源を元に経済を回している。
そしてその資源を取りに行くのが俺達冒険者と言うわけだ。
国の人口に占める冒険者の割合は高い。
そのせいか区の人の殆どが武装しているのだけれども、俺が上京した時この様子にかなり驚いたのを覚えている。
明日の準備も済ませたしそろそろ俺達もAランク。
さぁ頑張ろう!
★
「アダマ。お前はクビだ」
俺達『聖杯を受け継ぐ者』のカイトがそう言った。
金髪碧眼の彼はこのパーティーの剣士でリーダー。
俺は一歩前に出て聞き直す。
「まて。何を言っているのかわからない」
「もう硬いだけのデクは必要ないって話だよ!!! 」
ゴン!!! と机が吹き飛んだ。
体に当たるも痛みはない。
机は砕けて、落ちて行く。
「どういうことだ? 悪い冗談は止してくれよ」
「冗談じゃねぇよ」
「俺の何が悪かったんだ? 言ってくれ。もし、悪かったところがあるのなら直すからさ」
「あんたのその態度が気に食わないのよ! 」
カイトの隣に目を配る。怒鳴った先を見るとキルケーが睨みつけてきていた。
長く紫の髪を持つ彼女はこのパーティーの魔法使い。いつもカイトの隣にいる子だ。
俺が向くと少しカイトに寄りかかり、更にこちらを睨んできている。
「改善? いつも上から目線のやつが何を。なぁメアリもそう思うだろ? 」
カイトが壁際に目をやると、斥候が着るセパレートの装備を着けた女の子が肩を窄ませ口を開いた。
「まぁ目線はともかくここから先は難しいだろうね」
「……増々わからない」
「お前はスキルだけじゃなく、頭まで固くなっちまったのか。ハハッ!!! 」
「いいわよ。教えてあげる」
「なぁアダマ。お前今何歳だ」
「……二十八だ」
答えると「「ハハハハハハ!!! 」」とカイトとキルケーが笑い声を上げる。
メアリは何も言わず興味無さそうに見ている。
下を向き、拳を握る。
そう、俺は今二十八。
冒険者にしては長い方だ。殆どがその間に死ぬか、違う職を見つけるかしている。
幾らダンジョンで成り立っている国とはいえ流石に宿泊業や飲食業もあるしね。
しかし俺の場合は違った。
俺のスキルは『硬化』と『範囲防御』。これのおかげで初心者冒険者の装備でもダンジョンに長らく潜れている。
冒険者としてやっていくには仲間の存在が必要だが、それにも恵まれた。
剣士として上位に位置するカイト、魔法使いとして安定した火力を誇るキルケー、そして罠や魔物をいち早く見つける斥候のメアリ。
運よくこのメンバーに入る事が出来Bランクまで駆け上がれた。そしてAランクが目前という所だったのだが。
今まで若い彼らについていけていたから何とかなると思っていたけど……、そうか。俺ももう引退の時期か。
「だが安心しろ。お前の事だ、この先の事何も準備してないだろう? 」
その言葉に顔を上げる。
カイトがニヤニヤした表情でこちらを見ている。
確かに俺はまだやれると思っていたから準備をしていない。
「ほら。この前出ていた軍の求人に捻じ込んだ」
そう言いひらりと俺の所に紙を飛ばした。
拾い上げて読む。
そこには——。
「【急募!!! 独立ダンジョン攻略部隊隊員求ム!!! 】? 」
俺は読み上げ顔を上げる。
「あぁ。最近新設された独立部隊だとよ。何でもダンジョンを攻略するために作られたとか。そんなもん冒険者に任せておけばいいものを……、なぁ? 」
「そうよ! カイトの言う通りよ! 」
「……」
「幾ら国が精鋭を集めると言っても俺達冒険者に敵うはずがねぇ」
「これまでのノウハウが違うものね! 」
「ああそうだキルケー。だがアダマには丁度いいんじゃないか? 」
「精々軍でこき使われると良いわ!!! 」
「……捻じ込んだってどうやったんだ? 」
「アダマ。お前は俺の実家を知っているだろ? 」
そう言われて思い出す。
確かカイトは子爵家の次男だったな。本名はカイト・ログ。
「分かったような顔だな。実家のコネを使って捻じ込んだ」
「そこまでして……」
「最後の選別だ。職ぐらいは探してやるさ。これがリーダーとしての責務だろ? 」
カイトはそう言い笑顔を作る。
粗暴な言い方をしていたが、俺の職を探してくれるなんて。
「ああ。ありがとう」
「じゃぁな。もう会うことはねぇと思うが」
「さっさと出て行きなさい! 」
「言われなくてもそうするよ」
そう言い俺は部屋を出た。
★
宿で荷物を纏める。
冒険者にしては荷物がない方だが、それでも少しはあるもので。
「これでよしっと」
リュックサックを背負い扉を出た。
俺はもう『聖杯を受け継ぐ者』のメンバーではない。
しかしやはり心配だ。
俺は『範囲防御』で彼らのダメージを肩代わりしていた。全員知っているはずだし、それなりに回避行動もとっていたから大丈夫だと思う。しかしそれでも魔物の攻撃が被弾することはよくあった。もしもがあったら……。
いやいや多分こういう心配ごとをするような態度がキルケーの癇に障ったのかもしれない。
今から行くところは、——独立部隊と言っても——軍だ。
無論俺よりも年下の人もいるだろう。こういう癖を直していかないと、相手を不快にさせるかもしれない。
「アダマ。お前も出て行くのかい? 」
「流石にリーダーに言われたんじゃ出て行かない事にはいかないよ」
一階に降りると宿のおばちゃんが声をかけてくる。
苦笑いを浮かべながらも出された書類を受け取った。
出て行く手続きをしていると声が聞こえてくる。
「まぁ死に別れじゃなくてよかった、と思っておこうかい」
「そうしてくれ」
「次はどこに行くんだい? 」
「中央だ」
「そうかい。ま、時々顔でも出しな」
あぁ、とだけ言い退出の書類を書き終わる。
それを出すとおばちゃんが言う。
「あんたが最長だよ」
「それは……嬉しいと言っていいのか、悪いのか」
「はぁ。喜びな。次ここに入ってくるやつがいたら、あんたの記録を抜くよう出汁にしてやるからね」
「是非とも抜いてほしいものだ」
大きく頷き別れを言う。
馬車の停留所まで言って行き先を言う。
そして俺はダンジョン都市国家の中央へ向かった。
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