秘密の告白
プロローグ
『王様の耳はロバの耳』
この寓話を読んだ時、人は秘密を抱えたままではいられない生き物だと知った。
「内緒だよ」って前置きして打ち明けた話は、一週間後には友人間で共有されている。口の軽い輩の、なんと多い事か!
そうして。そうやって秘密を打ち明ける事で自分に注目してもらいたいと思っている輩の、なんと多い事か!今朝も、「市役所に放火する」とSNSで犯行を仄めかしていた輩が威力業務妨害で逮捕されたというニュースをやっていた。「書き込みはしたけど、実際にしようとは思ってなかった。注目を浴びたかった」というのが動機らしい。
呆れながら、ネットを開く。構ってちゃんが横行するネットの海は、誰かに心配してもらいたいのか、体調不良自慢に学校や職場での愚痴大会の不幸自慢で溢れてる。下水みたいに淀んだ感情が垂れ流されていて、見てると気分が悪くなる。それとは別に、幸せ自慢の上澄みもあって、こっちは共感と羨望、妬みがぐるぐる渦巻いている。どうせ呟くなら、楽しくて優しい綺麗な感情だけにすればいいのに…。そう思いながらちょっと検索すれば、すぐにヒットする今朝の犯人のネット名に本名、勤務先、学生時代の卒業文集の写真エトセトラ…。嬉々として曝されてゆく黒歴史の数々…。
「馬鹿だなぁ…」
思わず、呟く。犯罪を行うのであれば、秘密裏に速やかに。それが美学と言う物ではないのかしら?
それとも、犯す罪が大きければ大きい程、誰かに「言いたい!」という衝動に駆られるの?それなら、私も一緒だ。でも、犯行前にSNSなんかに気軽に呟いたりなんかしない。フォロー0、フォロワー0のアカウントだけれど、誰も見てないという保証はない。現に先日呟いた「テスト」というたった三文字の呟きでさえ、インプレッション数は三桁を記録している。こちらに話しかけてはこないけど、確実にここを見ている第三者がいるという事だ。だから、こんな所で犯行を呟いてはいけない。すぐに目に入る物は、すぐに拡散される。
だから、そう…。ちょっと見るのに手間がかかるSNSの海に、私の秘密を置いておこう。沢山ある小説投稿サイトのうちの一つに作ったアカウント。こちらも勿論、フォローもフォロワーも0だが、それでいい。先日試しにショートショートを一つだけ書いてアップしてみた。二週間経った今でも、閲覧数は0のまま。その結果を見て、私はにっこりする。誰も私に興味無い。私はここにいるけれど、ここでは誰も私を見ていない。嬉しくなる。ここでなら、私は罪を呟いて少し楽になれる。私のあげる小品など、次々アップされる作品の数々にあっと言う間に埋もれて、見つからなくなるだろう。それでいい。もし、いつか誰かが見つけて読んでも、これはあくまでフィクションであり、現実の事件とはなんら関係ない。だって、創作物だから。
だから、これを見付けて読んでも、決して人には言わないで。
Ⅰ
初めまして、こんにちは。あ、もしかしたら、読んでる貴方はこんばんは、かしら?こんな時は、ごきげんよう、が一番ね。
ごきげんよう♪調子はいかが?投稿サイトのこんな片隅においた物を開いてくれてありがとう。ここに、私、内緒の告白しておこうと思うの。内緒の告白だから、最後まで読んでも、絶対他の人に言わないでね。約束よ。
あのね、少し前にO市の用水路で溺れ死んでた人がいたの、覚えてる?そうそう、十九歳の専門学生。今日で、四十九日が終わったの。なんで知ってるかって?今日、私がお線香をあげに行って来たからよ。彼とは友達だったのかって?友達…、じゃないわね。恋人?違うわ、恋人だったのは、私の妹。でも、正確に言うと恋人ではなかったみたい。妹は、アイツが沢山遊んでた女の子の中の一人に過ぎなかったのよ…。可哀そうな妹は、泣いてたわ。アイツと恋人になれたと思って、舞い上がって関係を持った妹は、しばらくしてから青ざめた顔で私の所に来たの。
「お姉ちゃん…。あのね…、最近、私、生理が来ないんだけど…。」
震えて言うから、ここは私が年長者の威厳(?)を見せないと、と思って会社帰りに遠くのドラッグストアで妊娠検査薬を買ってきてあげたの。近所で買うのは駄目よ。こんな田舎のドラッグストアじゃ、誰が見てるか分からないからね。
そっとトイレに立った後、妹は戻ってきた。
「お姉ちゃん…。赤ちゃん、出来てる、っぽい…。」
震える妹の手にある体温計に似た妊娠検査薬の小さな窓には、くっきり線が浮かんでた。
「ど、ど、どうしよう…。怖い…」
ガタガタ震える妹を抱きしめて私は言った。
「大丈夫。学校は少しお休みする事になるかもだけど、お姉ちゃんがいるから、愛莉はその子を無事に産む事だけを考えなさいな。お母さんが不安だと、お腹の赤ちゃんも不安になるよ。私がいるから大丈夫だからね。いい子いい子。」
抱きしめたまま、私は妹の背中をさする。小さい子に言い聞かせるように「いい子いい子」と繰り返しながら、愛莉が泣き疲れて寝落ちするまでさすってあげた。
愛莉、私の可愛い妹。一重まぶたの私とは似ても似つかない二重まぶたを持ったくっきりした顔立ち。お人形みたいで大好きな妹は、幸せになる為に生まれてきた、って信じてた。
「貴方との赤ちゃんが出来たから、これからの事を一緒に考えて。」
しばらくして感情が落ち着いてから、そう伝えに言った妹に、アイツは信じられない仕打ちをした。
「は??俺の子だって、確証はあんの?マジ、一回寝た位で彼女面するのやめてくんねぇ?お腹の赤ちゃん?知んねぇよ、そんなの。あ、そうだ。なかった事にすりゃぁ、いいんだよ!」
そう言うと、妹のお腹に思いっきり拳を打ち込んだのだ。いきなりの事にビックリしてお腹を庇おうとした妹を、アイツは躊躇いもせずに蹴った。バランスを崩した妹は、階段から落ちて、救急車が呼ばれた。
大量の出血と共に、お腹の赤ちゃんは流れた。妹の目からは涙が流れた。初めての経験に戸惑いながらも何とか産もうと決意して、ベビー雑誌を買った直後の出来事だったから、妹のショックは計り知れなかっただろう…。
会社にいた私は、妹が階段から転落し流産した事を救急隊員からの電話で知った。会社を大急ぎで早退して、妹が運び込まれた病院に着いた時、妹の精神はもう壊れていた。
虚ろな瞳で「赤ちゃん…。私の、赤ちゃん…」と繰り返す。
「愛莉!愛莉!大丈夫?」
「あ、お姉ちゃん…。あのね…、私の赤ちゃん…、いなくなっちゃった…。なんで…?どうして…?」
お腹をさすりながらはらはらと涙を流す妹を抱きしめて、私は決意したのだ。
『妹をこんな目に合わせたアイツを許さない!』
***************
それからしばらくは、会社と病院を行ったり来たりで忙しかった。
高校三年の時に母を亡くした私は、進学を諦めて就職した。少しの生命保険と私の稼ぎで、可愛い妹には、ちゃんとした青春を楽しませてあげたかったのだ。妹が楽しそうにする学校の話を聞くのが、私の生きがいで楽しみだった。妹が友達と遊びに行く時に、見ずぼらしい格好なんてさせられない。自分はどうせ、会社と家の往復だから制服みたいなスーツをローテーションして着ればいいだけ。可愛い服は、可愛い愛莉の為にある。洋服の数を増やす為に買うお値打ちの福袋。正直、微妙なデザインも奇抜な色も愛莉は何でも着こなした。街角でスナップを撮られてティーン雑誌に載った事もある自慢の妹だ。私にとっての推しは、アイドルではなく妹だった。
だから、アイツに捨てられて流産した傷心の妹を見ていられなかった。早く元気になって、いつもの笑顔をまた見たかった。「お姉ちゃん」って甘えた声で呼んで欲しかった。
「ごめん…。これから、決算期に入るからなかなか時間とれないかもしれないけど…」
そう告げた私に、「うん…。大丈夫。お姉ちゃん、いつもありがとね」と薄い微笑みを見せた妹が、病院の屋上から飛び降り自殺をしたとの一報を聞いた時、私の世界は壊れた…。
泣きながら駆け込んだ病院の一室で、可愛かった妹は白い布を被せられていた。
「お姉さん、御覧にならない方がいいですよ。」
親切な人に言われたが、見ずにはいられなかった。原型をとどめない可愛かった妹の顔、潰れた肉塊…。そんな中にあって、白く光る骨。私は獣のように嗚咽した。可愛かった愛莉は、今は朽ちていくだけの物体だった。
壊れた心で、妹の葬儀を上げた。もともと母子家庭で、母亡き後は姉妹二人で生きて来たから、私は一人になった。本当は、姉妹二人の暮らしに可愛い甥か姪が加わる筈だったのにっ!
私の心は、苛立っていた。妹がこんな事になった原因を作ったアイツが、謝罪にも、線香の一本もあげに来ないからだ。
許せない!あれは傷害事件ではないのか!?魂の殺人ではないのか?私は、事の詳細を克明に書いて、地元を始めとする新聞社に投書した。一度、地元の新聞社から「詳しくお話を聞かせて下さい」と電話があったので、うきうきして指定された喫茶店に行こうとしたら、約束の日の前日に電話がかかってきた。
「ごめんなさい…。僕としては、記事にして世間に問いたいのですが、上からストップがかかってしまいまして…。お姉さんもこれ以上、騒ぎ立てしない方がいいと思いますよ。あんまり大きな声じゃ言えないんですけど、あの男の家、地元では有力な一家じゃないですか。父親は議員だし、身内に警察官もいる。血族が地元展開しているチェーンストアも大手だもんで、地元ではかなりの権力を持ってるみたいなんです。僕が調べたところでは、過去にあった三件ほどの傷害事件も警察の方で握り潰されたようです。ですから…。こんな事を言うのは、真実を明かすペンを持った僕が言う事じゃないんですけど…、お姉さんの身の安全を考えるのなら…悲しいでしょうが…、あの事は忘れて、強く生きていって下さい。力になれず、申し訳ございません…。」
愕然としたが、納得した。妹が暴力をくらった現場にいた筈の人々に、証言を頼みに行った時に、誰もが首を横に振った理由が分かったからだ。
でも、諦めろ、と言われても諦められなかった。法の下で刑罰を下せるのが法治国家ではないのか?地元の有力者、というだけでお目こぼしがあるなんて…許せない!アイツはそんな権力を傘にして、これからも妹みたいに不幸な子を増やすんだ…。
法で裁けないなら…、自分でやるしかないと思った。昔、今は亡き母と一緒に見た時代劇では「仕置人」なる者が、悪を討ってくれた。その時、時代劇が好きだった母は言っていた。「昔は仇討ちって制度があったのよ」って。今もあれば良かったのに…。でも、今はそんな制度も無ければ、仕置き人もいない。事を成せるのは、自分だけだ。
Ⅱ
会社の決算期が終わった。これからしばらくは閑散期だ。
家で洗濯機を回しながら、私は妹の日記や手帳、SNSの呟きまでもを罪悪感を持ちながら全部見させてもらった。初めての恋に浮かれた妹は、デートで行った場所、食べたメニューを克明に書いていた。私はそれを貪るように読んだ。まだ解約していない妹のスマホから早々にアイツのアカウントを特定し、アイツと関りのあるアカウントを片っ端から、遡って見ていった。特別な能力なんかいらない、地道な作業だ。関りのあるフォロワーのフォロワーもたぐる。そこで、アイツに関する呟きがあれば、エクセルに日付、時刻、場所、事柄、関係人物を入力していく。学生時代は化学部だった。混ぜる薬品、分量、実験結果を事細かく分析していた私にとっては造作もない事だった。会社勤めをしてからも、各部署の予算振り分け、伝票整理、決算報告を行ってきた私にとって、それは業務の延長みたいなものだった。
そうして、そこそこ膨大なデータを元に、私はアイツの女の趣味から行きつけの店等の行動パターンをほぼ把握した。三か月かかったが、満足だった。
妹を亡くしてからはセルフネグレクト気味で、食事をあまり摂っていなかったので、小太りだった私はすっかり痩せていた。ウエストに手をあてて、ふと思いついた。
『もしかしたら、愛莉の服が着られるのでは?』
もうずっとブラウスにスーツしか着てこなかった私は、妹の可愛いカットソーとひらひらのスカートをはいてみた。鏡に映る私は、どこにでもいる年相応の女の子だった。そこで私は思い出した。妹とは四歳しか離れていなかった事に。ずっと愛莉の親代わりになろうと頑張っていたが、自分もまだまだこういう洋服を着ても良い年齢だったんだ、という事に気付いた。更に思いついて、私は愛莉のメイクポーチを取り出した。スマホに愛莉の自撮り写真を表示する。それを見ながら、同じようにメイクしてみた。一重まぶたは二重にはならなかったけど、同じようなメイクをしたら、私は愛莉にかなり似ている事に気が付いた。いや、メイクによって、皆が同じ顔になっているのかもしれないが、これは大発見だった。私に見えた希望の光だった。
私は、ネットショッピングのページを開いた。生まれてこの方、恋人なんかいた事も無く、オシャレに使うお金も時間も無かったから、これまでオシャレ関連のサイトなんて覗いた事なかったけど、見たら、ものすごくカラフルで、びっくりする位のアイテムが並んでた。そこで、一重まぶたを二重にするアイテムと愛莉みたいな栗色のウィッグを買った。
翌日、届いたそれを早速身に着けた。愛莉の服を着て、愛莉がしていたメイクをする。うん、バッチリだ。
一週間後、とあるバーの近くに出掛けた。SNSの分析情報によれば、アイツは毎週この曜日はここのバーで女漁りをしている。未成年が飲酒施設の常連ってどうなの?って思ったが、結局、そういう輩で成り立っているのだろう。店も利益になるなら黙認、って事かぁ…。
小一時間程張り込んでいたら、アイツが一人で出て来た。どうやら、今日はお持ち帰りしたくなるような女の子はいなかったらしい。
「じゃ~な~!」
上機嫌で手を振り、フラフラと店を出たアイツの後ろを素知らぬ振りをして歩く。ここは田舎の地方都市だ。住宅街を抜けたら、普通に田んぼが広がる。柵も蓋も無い用水路があちこちにある。増水時には蛇が泳いでいるし、ゴムボートに乗って騒いでいる馬鹿もいる。たまに「初見殺し」と言って、道路と用水路の区別がつかない写真がネット上に上がるが、地元の人間にとってはそれが普通だ。
しばらく上機嫌でふらつきながら歩いていたアイツは、酔いが回ったのか、吐こうとして用水路の方に顔を向けてしゃがみ込んだ。私は近付いて声を掛ける。
「きーくん、飲み過ぎちゃった?大丈夫?」
「…えっ!?」
妹に「きーくん」と呼ばれていたアイツが驚いて顔を上げる。
「あ…、愛莉…?」
青ざめた表情。
「うん、愛莉だよ♪きーくんに会いたくて、あの世から、あの子と一緒に戻ってきちゃった♪飲み過ぎちゃ、駄目じゃない。」
精一杯の可愛い声で言った。
「わ、わわ…!」
驚いたアイツが立ち上がろうとした時、私は可愛く猫パンチのポーズをとった。アイツは殴られると思ったのかもしれない。アイツの足がよろけて、用水路に体が落ちた。バシャンと飛沫が上がった。
「ビックリした~。何か落ちた気がするけど、気のせいか~。」
私は周囲に聞こえるように言った。それから、ゆっくりと僅かな月明かりの下を歩いて帰った。そう、ただそれだけの出来事。夜の散歩だ。家に帰り着く頃には、風が湿っていた。レーダーで見ると、雨雲が近付いていた。
翌々日のニュースで、用水路で十九歳の専門学生が用水路に落ちて溺死したというニュースをやっていた。フルネームもばっちり載っていた。
画面に映るコメンテーターが口を開く。
「未成年の飲酒の末の事故っていうのがあれですけど、実際、この現場って異常ですよね?僕達のイメージする用水路って、せいぜいそこらにあるどぶの側溝のイメージでしたけど、現場のこれって、川のイメージに近いじゃないですか。こんなに幅が広くて深い用水路に、柵も蓋も無いって…。」
「えぇ。私、O市出身なんで、ここがどこか大体の見当がつくんですけど、地元の人間にとってはこれが普通なんですよ。主人と結婚して、関東に引っ越した時に初めて、あの風景は異常だったって気付きました。最近は地元でも、こう…転落死を防ぐような柵や蓋を検討しているみたいなんですけど…。矢張り、お金がかかるのと、あれ、農業用水でもあるので、そういうのを色々考えると、その…権利の問題とかもあって、なかなか防止策が進まないみたいなんですよね…。」
「困ったものですよね…。では、次のニュース――」
私はテレビを消した。
今日は休日。地味ないつもの格好に戻って、駅前の漫画喫茶に出掛けた。個室に入って、早速インターネットを開く。世の中の全てを見下しているようなネットの掲示板を覗く。
今朝テレビでやっていた用水路転落死についても、早速いくつか書き込みが上がっていた。
『またO市の人食い用水路の犠牲者が出た模様』
『他県の人間には分からないであろうO市の闇』
『あれはガチで初見殺し。俺、昔バイクで死にかけた…』
『皆さん、あそこだけって思ってませんか?町中、ああですからね!田舎なめんな!』
『流石、大都会ww』
そんな用水路についての書き込みだけだった所に、私はポコンと石を投げ込む。
『あんな死に方しちゃった専門学生カワイソー』
ただそれだけを書き込むと、私はウーロン茶を飲み干して、漫画喫茶を後にする。後は夜になるのを待つだけだ。
夜、お風呂から上がって、スマホで例の掲示板を見たら、書き込みが増えていた。
『あの専門学生、地元じゃ有名なワルだったらしいよ、因果応報』
『親が有力者でいろんな奴が泣き寝入りしてたらしい』
『聞いた話だと妊娠させた女の子に暴力ふるって堕胎させたらしい。病んだその子は自殺した、ってウワサ…』
『マ?』
『他にも遊ばれて捨てられたコ、沢山いるってよ!』
『最初は優しく「君だけだよ」って近付いて、バージン奪って捨てるのが趣味だったらしい』
『羨ましいけど、ガチkz!』
『用水路は正義!』
妹について触れられている一文を見た時は胸が痛んだ。でも、私が投げた石がもとで、後はネットに沢山いる正義厨の特定班が、どんどんアイツの悪事を列挙していってくれる。事故の犠牲者だから、名前は世間にしっかりと出た。アイツが犯した悪事は表のニュースとしては握り潰されるかもしれないけれど、ネット上では明るみになった。
ざまぁみろ!
エピローグ
特に力も権力も無い私に出来る復讐なんて、こんなもの。
これを読んだ貴方は、私を裁きますか?
でも私、法に触れるようなこと、何もしていませんよね?
ただ、酔っぱらいに声をかけただけ。向こうが勝手に驚いて、用水路に落ちた。ただ、それだけ。
普段は三十センチも水深は無いから、子供が落ちたボールを取りに入ったりすることもある。だから、すぐに起き上がれると思ってたの、本当よ。まさか、あれから大雨が降って増水するなんて…。
えぇ。家族にも溺愛されてたようだし、帰りが遅かったら心配して電話したりするんじゃない?それで、電話に出なかったら、心配して探すでしょうし…。お友達も沢山いた筈なのに、泥酔したのを一人で帰させるなんて…。本当は人望が無かったんじゃないかしら?金払いがいいからつるんでただけの奴等が沢山だった、ってだけの話でしょ。
そう、全部ぜ~んぶSNSに書いてあったの。
『K、ムカつく!だけど、アイツ、金だけは持ってるからな~』
『金づると割り切ってつき合えば、マブ!』
『俺のカノジョをKに寝取られた!あんな奴、死ねばいいのに!』
『ちょっと顔が良くて、金持ってるからっていい気になるなよ…』
『アイツ、酔うとふらつくけど、ムカつくから今度は一人で帰らせようぜ!』
『それがいい。あの店からの帰り道は用水路が多いから、ワンチャン…』
『じゃ、今度の木曜日はそれで』
『直前になってヒヨるの無しな!』
ね?私もアイツのお友達も、考えていた事は一緒。自分の手は汚さない。勝手に死んでもらおうって思ってたの。だって…、あんな悪人に手を掛けて、自分の手が汚れてしまうのは嫌。
え?未必の故意?
知らないわ、そんな事。
じゃあね。
これが私の秘密。
ここまで読んだ貴方は、この事を誰にも言っちゃダメよ。約束よ。
〈終〉