4話
山と自然と科学が共存する町、天狗町。
その大通りである天狗通り。
「いつ観ても、活気ある商店街だな」
今日は平日なのだが、観光客や学生。それを相手取る商店の店子。
活気があって、とても良い。
魚屋、八百屋、肉屋等の生活するのに必要な食料品を扱う店や、カフェ、カラオケ、ボーリング等の娯楽施設も備えてある。
中でも多いのは、天狗町ならではの商品を扱う土産屋だ。
異界の素材を使用した最適な度数へ自動調整される眼鏡。また、異界のスライムという魔物から採れるスライムゼリーを使った撥水レインコートや、競技用水着。
魔石と呼ばれる異界の鉱山資源を動力にした、魔石ライター。
異界でも貴重な鉱山資源、ミスリルを使った包丁。
様々な面白グッズ(土産)がある。
中には武器・防具屋もあり、そこに入る為には学生証、またはダンジョン省からの許可証が必要となる。
「茜を待ってる間に、小腹を満たすか」
丁度良い場所にある、愛媛の地元民御用達の『じゃこカツ』を買う。
じゃこカツは、じゃこ天と呼ばれる魚のすり身の天ぷらにしたものを、すり身と野菜を合わせてパン粉で揚げたものをいう。
(これがまた美味いんだよな。ついでに買ったポンジュースもじゃこカツに合う)
店で店子からカツとポンジュースを受け取り、店前にあるテラスで舌鼓をうつ。
暫くし、食べ終えポンジュースの最後の一滴を飲み干したころ。
「約束があるから無理よ!」
商店街入り口で茜の声が聞こえた気がした。
食べ終えた容器をゴミ箱に入れ、そちらへ向かって人混みを歩く。
(絶対茜の声だよな、なんか揉めてるのかな)
商店街入り口付近に茜と、茜に絡んでいるチャラ男3人がいた。
「ねぇねぇ、そう言わんとワシらと遊ぼうや」
「そやで、ねぇちゃん。そんな可愛いワンピースなんか着て誰と遊ぶんや」
「いいお世話よ、アンタ達よりよっぽどカッコイイ人と遊ぶんだから」
(え、俺のこと? な訳ないか。口喧嘩で売り文句に買い文句で収拾がつかなくなってるんだな)
あ、やべ。
茜と目があった。
「…あ! お待たせっ、待った~?」
額に青筋を浮かべ、見つけたなら早よ出てこいやって聞こえそうな程に、目が笑ってない。
「や、やぁ。じゃこカツが美味しくて、ついつい時間を忘れて食べてたよ。ハ、ハハハ…」
「何や、兄ちゃん。この嬢ちゃんの連れか。ワシらが嬢ちゃんと大人の遊びするけん、お前は帰っとれや」
3人の男の中で1番身体の大きい、プロレスラーのような男が前に出てきた。
半袖のアロハシャツのような上着の下はタンクトップ1枚で寒そうだなぁ、と思ってしまう。
下は合わせているのか?アロハ柄の半ズボンに、サンダルであった。
「おい、兄ちゃん聞いとんのか? いてまうぞ」
顔がどんどんと近づいてくる。
身長183の俺と比べて、なお頭1つ大きいことから190くらいだろう。
爪楊枝のような細い眉毛に、意志の強そうな鋭い眼光。剃り込みの入ったツーブロの金髪をオールバックに固めている。
「はぁ、外ではあんまり使いたく無いんだけれど…。 制限解放、30%」
嫌々だが、ここは少し力を見せつけるか。と判断して金髪オールバック男の、伸ばしてきた手を恋人繋ぎのように、がっしりと掴む。
「なんや、兄ちゃん。ワシとデートする気なんか。それとも力比べでもする気なんか」
ニヤニヤと厭らしい笑いを顔に貼り付けながらこちらを睥睨する金髪オールバック男。
「そうそう。早いところ力入れた方が良いよ」
と言うのと同時に、向こうが力を込めてきた。が、制限を解放した俺の膂力は単純に1、5倍の力がある。
「…こんなもんか。 ふんっ!」
「ぐぬぬぬ、い、痛い! 辞めてください」
上から押さえ込まれる体勢だったのを、手首の力で押し込んだ。
大男が膝を突き、額から冷や汗を流して震え出した頃に、パッと手を離した。
「……ぐうぅぅ。 今日のところはこんなもんにしといたる、覚えとれよ」
なんて捨て台詞を残し、取り巻き2人を連れ走り去っていった。