3話
「はぁ、早くレイブン王国行きてぇ」
「そうね、早く異世界の景色を、空気を、肌で感じてみたいわね」
入学して早くも1年が経過する。
2年生試験も無事通過し、後は1週間後のレイブン王国、王立騎士学校への留学を待つのみだ。
茜はこの1年で更に美しくなった。
スラリとした長身に慎ましくも形の良さそうな胸元。背中まで伸び、グラデーションに染まったシルバーアッシュの綺麗な髪。
定期的に染めてあるのか、いつ見ても美しい。
形の良い眉毛の下には、ぱっちりとした気の強そうだが、優しそうな瞳に長いまつ毛。
すーっと通った鼻、その真下には艶のある形の良い紅色の唇。
世の男達は放っておかないだろうな。
この1年男の噂は聞いたこともないけれど。
「奏、異界行きも1週間後に迫ったことだし息抜きに天狗通りに遊びに行こうよ」
天狗通りというのは、異世界大学の所在地から少し降った所にある天狗町、そこにある大通りの名称だ。
色んな店が居を構えており、中には大学生向けの武器・防具も販売されている。
もちろん、簡単には買える金額ではないが。
「そうだな、現世界の最後に遊ぶのも悪くは無いな」
「でしょ! 私、少し着替えるのに時間かかるから、先に天狗通りの商店街で待っててくれる?」
「分かった、先に商店街で待ってる」
返事を聞き終わる前に、茜は女子寮の方角へ走り去っていった。
うおぉ、めちゃくちゃ早ぇ。
この1年で変化したのは外見だけではなく、身体能力も向上しているのだ。
異界では、魔物と呼ばれる異形の存在、はたまた精霊種と呼ばれる存在。
中には竜種と呼ばれる(俗に言うドラゴン)存在なんてのも存在するらしい。
俺達学生は、魔物に遭遇しても防衛、撃退するだけの地力を備えるために1年間の訓練をこなした。
入学時に、身体成長剤等の投与受諾書にサインをしたのを鮮明に覚えている。
その後、最初によく分からない注射を何本か打たれ、訓練毎に特製ドリンクを飲まされた。
食堂で提供される食事も、栄養価のバランスを最適に計算されたメニューであった。
そのおかげか、1ヶ月も過ぎる頃になると骨密度、筋繊維密度など、体の強化がある程度済まされていた。
それからは、異界の基礎知識を学んだり、異界での新たな法則。『魔術』について勉強したり。
強化された身体能力を制御。意図的に身体の制限を解放する訓練をした。
人体の筋力値は普段20%を限度として使用されている。
それを無理やり、脳の制限を解除して人外の膂力を引き出す方法が『身体強化術』という技能だ。
これは、人により得意な奴、苦手な奴がいる。ちなみに俺は苦手な方で、茜は得意な方だ。俺の最高出力は40%で、茜は55%。
MAX出力である40%強化状態だと、100メートルを6秒前後で走れる。
これは時速換算で60キロ相当にあたる。
おっと、バスがいつの間にか天狗通りの商店街に到着したみたいだ。