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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナリツァルヴァ大陸伝

落陽の蝶

作者: 朝岡瑞月

[]の中は、世界観の説明になっています。

時は初暦[最初の王国であるトゥレシア帝国の建国された年を一年と定めている]1101年、秋。トゥレシア帝国第59代皇帝チアンドヴァロワスライト・ディン・セレヴァヴィナ・ツァーリ・トゥレシア[ツァーリとはロシア語で皇帝を意味する言葉]、通称ヴァロワス帝のもとに一人の男の子が誕生した。名前はブロイドジョルバニリヒト。母であるキヌアディルテや兄たちからはジョルバニと呼ばれている。ジョルバニは帝国の第4皇子として可愛がられていた。ジョルバニはよく笑う子だ。幼すぎるためにまだ言葉という言葉は話さない。だが母に抱かれきらきらと輝きを放つそれは多くの人の心を穏やかにしていた。


時は流れ初暦1104年冬の終わり。ジョルバニははじめて言葉を発した。トゥレシア史記によれば、

「かあさま、だいすき」

と言ったそうだ。はじめて発した言葉のはずなのに、まるでどこかで練習してから言ったかのようだと母、キヌアは喜んだ。


春のはじめ。ジョルバニの母、キヌアは死んだ。正しくは殺されたというのだろう。書類上では、誰が殺したかは分からないことになっているがジョルバニだけは知っている、誰が母を毒殺したのかということを。後宮警備のものは、何度もジョルバニに誰が母を手にかけたのかを聞いた。だが、母を目の前で殺された恐怖から声を失ったためその事を伝えることはできなかった。当時、4歳だった。[数え年。また、誕生日は秋のためまだ誕生日は来ていない。よってイメージとしては日本で言う二歳児である]また、いつ自分が殺されるのか分からないために後宮中の人を集められて行われた捜査会でも伝えることはできなかった。こうしてジョルバニは心の中にとてつもなく重たいモノを持つようになった。母を失ってからは、まだ子がいないエディルナウフェラが希望したためエディルのもとで育てられることになった。彼女は何かから隠すかのようにジョルバニを小さな部屋に閉じ込めた。さらに、下僕に対しての態度よりもさらにひどい態度でジョルバニにあたる。ジョルバニはより恐怖を感じていく。流石にこの事は周囲も怪しく思った。だが、エディルは皇帝に好かれておりエディルのことを悪く言うことによって自分が不利益を被るのは嫌だったために見て見ぬふりをしていた。そしていつしか感情すらも失ってしまった。だがしかし、ジョルバニの心の奥には微かに自由を求める気持ちがあった。


さらに時は流れ1115年、夏。自分に子供が生まれてジョルバニが邪魔だと感じていたエディルは皇帝にこう伝えた。

「今度の戦は激戦となるようですね。このような戦でも味方の士気を高く保つためには、やはり王族の出陣が必要だと私は考えますわ。そうですね、15歳になったジョルバニはどうでしょうか。初陣で激戦を勝利したとなれば、ジョルバニの自信にも繋がりますわ。」

と。皇帝は少し迷い反対した。確かに年齢的には丁度良い。だが4歳の時より一言も言葉を発せず、感情をも失っているジョルバニでは無理なのではないか、と。

しかし、皇帝は最終的にエディルの華麗なる口実の前に折れジョルバニの出陣を決め、送り出した。


そして、戦場に場所は移る。ジョルバニは軍師の指示に従い、兵たちの前に出て剣を振るう。敵を切り、刺し、時には弓矢を用いて射殺すことにより段々と感情を取り戻す。段々とジョルバニの振るう剣に重さが増す。母を殺したエディルナウフェラへの恨みと悲しみ、自分をストレス発散のために時には暴言を浴びせ、時には固いものを投げつけてきたエディルナウフェラ親子への復讐心、エディルナウフェラを止めることのできないチアンドヴァロワスライト・ディン・セレヴァヴィナ・ツァーリ・トゥレシアへの呆れ。そして一番大きなものは母を殺されながらその事を誰にも言えず、さらにエディルナウフェラのいいようにされ続けていた自分への怒り。しかし、その目には涙があった。母が亡くなってから10年以上が経ちはじめて見せたものだった。そのすべてが剣に乗り近づく者を切り伏せていった。その太刀筋は決して美しいものではなかった。だが、その戦場の中では一番強かった。その剣はジョルバニが怒りや悲しみを忘れた頃には軽やかで、美しく、何よりも速くなった。これを見たものは皆口を揃えて囚われの蝶が自由になったようだと言う。しかし、その蝶は一筋の光の線によって射落とされてしまう。戦い自体には勝ったが、兵たちはとても大きなものを失ったと思った。


皇子の亡骸を抱え、兵士たちは帝都へと帰る。そしてその夜。罪悪感より謝り続けている皇帝が側にいるとき、死んだと思っていた皇子ジョルバニは目を覚まし、父にこう告げる。

「毒はもう、完全に、回ってしまって、いる、ので、今、こうして、話せている、ことも、不思議に、思って、おり、ます。」

皇帝は、あわてて医官を呼ぼうとするが、ジョルバニはそれを止めるように頼む。

「......聞いていなかった、の、で、すか?もうじき、私は、死にます。ほら、もう、手も、足も、動かない、のですから。......だから、最後まで、何も言わずに、聞いて、ください、ます、よ、ね?」

皇帝はうなずく。

「......父様、謝らないで、ください。......父様が、戦場に、いかせて、くれたから、失った、ものを、取り戻す、ことが、できた。......自由を、見つける、ことができた。......言葉も......感情も......。ですが、一度だけ、聞いたこと、が、あるのですが、私は、よく笑う子、だった、らしい、です、ね。......しかし、私には、笑う、と言うことが、わかりません。......あまりにも、人、の、ぬくもりに、ふれ、ていなかった、から、なの、でしょうか。..................この世、に、私、を、生んで、くれた、かあさま、ありがとう、ご、ざいます。......せっかく、かあさま、が、遺して、くれたの、に、もう、尽きてしまう、よう、です。......ごめ、ん、なさ、い。........................とう、さ、ま、......かあ、さま、の、かわりに、ありがとう、とごめん、を、......うけと、って......ください。........................とうさ、ま、なぜ、泣いて、いる、の、です、か?..................最期、の願い、かなえ、てください。..................最大級、の、とうさま、の、え、が、お、......みたい、で、す。..................最期に、私に、えが、お、..................おし、え、て、..................くだ、さ、い。..................さい、ご、が、............と、う、さま、の、泣き、がお、では、........................いや、で、すか、ら。」

皇帝は無理やり笑顔を作った。

「..................かた、い、です......ね。............です、が、これで、お、も、い、の、こ、す、......こと、は、あり、ま、せん。..................わ、た、し、............は、............じ、ゆ、う、............な、..................し、ろ、............い、......ちょう、............と、..................な、って、........................と、う、さ、..................ま、..................の、も、と、........................に、........................か、な、ら、..............................ず、............も、ど、り、....................................ま、..................す。....................................い、......ま、............ま、..................で、..............................あ、..................り、............が、................................................と、............................................................ぅ」

風が吹けば消えてしまいそうな声で告げ、眠るかのように目を閉じた。それは日暮れ頃のことだった。


数年後、皇帝が悩んでいるときにそっと側に白い蝶が舞い降りた。皇帝は、その蝶に笑いかけた。

そのまた数年後、白い蝶は弟である若き皇帝のもとに飛んでいき、勇気づけた。


......蝶となり本当の自由を手にしたジョルバニはこの世にいきる誰よりも、

幸せだと感じていた。


《終》

読んでいただきありがとうございます。

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