50年物の腕時計〜ゆいこのトライアングルレッスン〜
「おばあちゃーん。遊びに来たー。」
中学生の孫は我が家によく入り浸っている。趣味嗜好が似ている孫は、私の偏った好みにも見事にハマり、毎度本棚を漁る。お陰で見られてはまずい書籍は別の部屋に隠すようになった。
いつもの様に本棚の前に座り込む孫。
だけど、今日はちょっと様子が違う。
背表紙を眺める眼が上の空だ。
ちょっと突付いてみようかな。
横から声を掛ける。
「ご飯、食べてくでしょ。
宿題やるのと夕食のお手伝い、どっちがいい?」
「お手伝い!」
うん。いい孫。
「じゃ、始めましょ。」
私は年季の入った腕時計を外しアクセサリーホルダーに掛ける。
じゃが芋の皮を剥いていた時だ。
「ねぇ、おばあちゃん。
男女の間に友情って成立する?」
予想外な質問に一瞬たじろぐ。
え?聞き間違いじゃないわよね。
だって「サンタさんって本当にいるの?」って聞いて来たのはついこの前じゃなかった?
成長の早さに驚くわ。
さて。どう答えましょ。
思わず腕時計に視線を移す。
ヒロシとタクミが大学の合格祝いと奮発してくれた腕時計。
タクミの声が脳内で響く。
「まだ中学生なんだからな。慎重に答えろよ。」
ヒロシは?
「もう中学生だから、ある程度は大丈夫だろ。でも言葉は選べよ。」
ふむふむ。よし、決めた。
「成立するわよ。」
「えー。でもクラスの早い子達はみんな成立しないって。」
「大人になるとね、その先があるのよ。」
私とよく似た孫には、これまた私と同じ様な幼なじみがいる。
「ふふ。タスクくんとチヒロくんね。」
「ち、違うけどっ…まぁ、取りあえずそうゆう事にしとく…」
何だかんだ素直なのがウチの孫の可愛いところ。
「おばあちゃんにもね、幼なじみがいるの。
…お友達から、恋人になって…それから親友になったわ。特別な親友。
何があっても離れない存在になるから大丈夫よ。」
孫の表情から曇りが抜けていく。
「へぇ。ユイコ、説明上手じゃん!」
タクミの驚く顔が浮かぶ。
「いや、タクミは寝てたから知らないと思うけど、これ昔3人で観に行った映画の台詞。まるで自分の言葉のように語るとは…。」
ヒロシ、バラさないでよ。
「まぁ、間違ってはないからいいんじゃね?」
「あぁ。それはそうだな。」
だよね!
さて。大人らしい良い回答が出来たところで。
「夕食、その二人も呼ぼうか。おばあちゃん、久しぶりに会いたくなっちゃったわ。」
えー。と文句を言いつつ、上気した顔でいそいそと連絡をとる孫。
あぁもう。ウチの孫、ほんと可愛い!
大人過ぎるほど大人になったトライアングル。
形が変わっても三人は相変わらず心は繋がっていると思うのです。