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「もし」シリーズ

もし乙女ゲーム世界の悪役令嬢たちが前世で成人していたら

作者: 笛伊豆

働いたことがあれば常識です。

「そんな! 政略結婚でいいんですか? 愛がない夫婦って哀しいと思わないんですか?」


 悲痛な声が響いた。


 背が低くて桃髪の可愛らしい美少女を囲む貴族令嬢たち。

 一様に達観した表情だった。


 ここはムロリア国王都中央学園。

 若い貴族子弟や将来有望な平民が学び、社交し、ムロリア国の立派な一員となるべく励む場だ。

 もっとも貴族と平民では目的が異なる。


 貴族は将来に備えて同世代の貴族同士と知り合い、将来の社交界の一員として恥ずかしくない知見と知古を得るため。

 平民は有力な貴族とコネを作ったり、貴族に仕えるための知識や経験を積むため。

 よって敢えて身分差を廃して授業や活動を共にするカリキュラムになっている。


 だから時々勘違いした平民が高位貴族や王族の子息にアタックすることもあるわけで。


「貴族同士の結婚はほぼ政略よ?」

「もちろん条件は摺り合わせるけど。あまりに格差があると無理だし」

「婚約したということは、お互いの家が契約したということだから」

「愛? そんなのは結婚してからでも間に合うわ」


 淡々と説く貴族令嬢たち。

 結婚は愛で始まるものではないと。

 婚約段階ではお互いのことなど判らないし、それよりは身分や能力、あるいは成績や評価で価値を示すしかないと。


 王子やその側近候補の侯爵子息、あるいは護衛役の騎士団長の甥たちに接近しようとした平民の美少女は平民の論理で応戦する。

 愛がすべて。

 愛がなければ何も始まらない。

 婚約者を愛さなくてどうするのかと。


 すると貴族令嬢たちは顔を見合わせて溜息をついた。


「あなた、転生者でしょ」

 第二王子の婚約者である侯爵令嬢が言った。


「え?」

「乙女ゲーム仕様に詳しい割に世情や社会の仕組みに疎い。前世は女子高生ね?」

「なぜそれを!」


 動揺する美少女に貴族令嬢たちは冷めた視線を送る。


「私たちも転生者だから」

「もっとも貴方と違って前世は商社の総合職だったけど」

「私は主任までいった」

「寿退職した」


 何と。


「先輩だったんですか!」

「転生者としても人生の先達という意味でもそうね」

 侯爵令嬢が肩を竦めた。

「だから少しは世間というものを知っているの」


「でも」


 反論しようとする平民の美少女を侯爵子息の婚約者である伯爵令嬢が遮る。


「あのね。私達はまだ学生なのよ? 何の義務もない代わりに権利もないの」

「それはそうですけれど」

「納得できない? だったらこう考えてみて。貴方は某高校に通う女子高生。同じ高校に大企業の社長の御曹司や政治家の息子さんがいる」

「……はい」


「御曹司は同級生の女生徒と婚約している。その女生徒は別の大企業の社長令嬢。乙女ゲームにもよくある設定でしょ」

「……」


「その二人は大学卒業後に結婚して、ゆくゆくは大企業の社長夫妻になる予定。従業員数万人の生活に責任を持つことになる」

「……」


「そこで問題です。もし愛がないとかいう理由でその婚約が解消されたらどうなると思う?」


 平民の美少女は躊躇ってから言った。

「大企業同士の契約が駄目になる?」


「違うわ」

 切って捨てられた。


「御曹司が次期社長に不適格ということで、別の誰かがお相手と婚約するだけよ。逆も同じ」

「もっと言うと御曹司も令嬢もどっかに養子にやられるかも」

「使えないコマって組織に有害だから」

「いなかったことにされたりして」

「で、企業同士の契約はそのまま」


「そんな」


「……というような状況は前世でもあるの。増して現世(ここ)は封建制国家よ。もっと酷いわ」

 ショックを受けて黙り込む平民の美少女。

 だが果敢に反論する。


「でも! 王子殿下も侯爵子息も、護衛の騎士もちゃんと働いてます! 王宮に執務室もあって」


 ぶっ、と誰かが吹き出した。


「あのねえ」

 笑いを堪えながら騎士団長の甥の婚約者で前世寿退社した子爵令嬢が言う。

「そんなのお遊びよ? 本当に仕事してたら学園に通って授業なんか受けてると思う? 正式な王政府の職員でもないのに重要なお仕事を任せられるわけないでしょう」


 侯爵子息の婚約者の令嬢はなぜか死んだ目をしていた。

「ああ……思い出してしまった。企業研修生(インターン)って張り切っているだけで企業の常識ってもんを知らないのよね。やらかした後始末で普段の三倍お仕事が増えたっけ」


 王子の婚約者の侯爵令嬢も顔を顰めた。

「そうそう。アレはないわ~。企業研修生(インターン)と言いつつ実はお偉いさんや大株主の親戚なのよね。プライドが高い割に能力が低くて」


「いっぱし仕事したつもりで書類は間違いだらけだし」

「部署の全員から総スカン食ってるのに気づかないで『もっとフレンドリーに接して欲しいな』とか言って」

「でも大学卒業したらエリート候補生として入社してくると思うと逆らえないし」

「課長なんか露骨に胡麻すってたなあ」

「そのくせ現場には近寄らないで私らにお世話を丸投げしてくるんだよね」


 全員で顔を合わせて溜息をつく令嬢たち。

 それから言った。


「「「そんなのに愛を捧げろと?」」」

実際問題として企業研修生(インターン)なんかまったく戦力にならないです。

ていうかちゃんとした(ブラックじゃない)企業なら入社して3年目くらいにやっと戦力に数えられる様になる程度です。

それまではお荷物。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きが重いっ! 後書きの方でワロタW
[一言] インターンはお客様。いきなり戦力?なる訳ナイナイ。 ……なんて健全な会社。 新入社員の研修とか1日で終わって、3日目からはギリギリ終電が当たり前になった過去の自分に教えてやりたい。床で寝てジ…
[一言] というかインターンを戦力扱いしようというのがまず間違っているのでは・・・ あれはお客さんの一種ですよ
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