2.ドアもあけれる
アネットの部屋のドアノブは丸ノブをひねるタイプではなく、棒が横になった取手を下に引き下ろすタイプになっている。
元は丸ノブだったのを、身長が足りないアネットでも一人で開け閉めができるようにと、師匠であるリーリアが付け替えたのだ。
とんだ過保護ぶりだと思われるかもしれないが、そんなことはない。
本来は、もっとひどかった。
この国どころか世界的にも指折りの魔法使いであるリーリアは、家じゅうのドアというドアを魔法構造物に変換してアネットの意志に従って開閉するようにしようとしていたのだ。
しかし、それがアネットには面白くなかった。
アネットとしては、師匠リーリアと同じようにドアノブを自らひねってドアを開けたかったのだから。
結果、この家のドアは一度魔法自動ドアを経て、現在は木製のただのドア(棒ノブ)になっていた。
もちろん、以前よりもドアノブの配置も丸ノブの頃より低い。
さらにいえば、低くしすぎるとまた忖度を感じてアネットの機嫌が急降下するため、大人が使っても違和感がない程度の低さではある。
「ういいい」
ドアに体をくっつけるほど近くに立ったアネットは、利き手である右手を頭上高く上げてドアノブを目指した。
三歳のアネットが少し踵を上げた程度では当然高さが足りず、小さなおててのパーは空を切る。
「ういっ、ういっ」
変な声を出しながら飛び跳ねる。
棒ノブは、指先がかかりさえすれば開けられるのだ。
ぴょんこ、ぴょんこと、何度か飛び跳ねるうちに指が当たった。
カチ
しかし、少しだけ下がったドアノブだったが、一発でドアを開けるには及ばない。
指が当たった際にジャンプした位置取りをベストポジションとみて、その場でぴょんこ、ぴょんこと懸命に飛ぶ。
そして。
「よち!」
何度目かのジャンプで見事、アネットはドアノブを指先に引っ掛けることに成功した。
ドアノブが上下し、ガチャと音を立てる。
しっかりとした手ごたえがあった。
危なげなく着地したアネットは、ずっと上を見上げていた視線を下げ、右手を下す。
それから、両手をドアに押し当てると体重をかけるようにして押した。
ドアはアネットの力を受けるまま、大した抵抗なく開く。
開いた先は、廊下だった。