虐待
長身で美人の陽菜がなぜ光が岡園にきたのか。そして大人しいのか。
光が岡園で3人が切磋琢磨し、成長していく過程を見ていた本橋と直子は、大学で陸上選手となった3人の姿は現在の子どもたちのお手本になると考えた。
陽菜は9歳の時に光が岡園に来た。
さくらや七海の二人に比べても性格が控えめなのは、幼少期のせいかもしれない。
5歳の時に両親の離婚後、母が育てていたが、新しい彼氏ができ、邪魔な存在となり、その男に虐待を受けていた。殴られて前歯を折ったので、差し歯になっているのもそのせいだ。見かねた近所の住民が通報し、保護された。その後、母と彼氏は虐待の容疑で家宅捜査を受けた時に大麻所持が見つかり逮捕された。
陽菜は虐待の恐怖から、全くしゃべれなくなり、光が岡園に来た当初、3か月間は、いくら職員が話しかけてもほぼ一言も話さなかった。長身で美人だが、怖がりで泣き虫、引っ込み思案になってしまっていた。
ある時、先に施設にいた同じ歳のさくらが話しかけてくれた。しゃべれず、すぐに泣いてしまっても、優しく声をかけてくれたので、徐々に心を開くきっかけとなった。
「はるはる、楽しくやろうよ。私がいるからさー」
「ありがとう、さくちん、一緒にいてくれて」
「友達だもんね。しかも一緒に暮らしてるなんて夢みたい」
「そうだよね。ラッキーだね」
運動が得意ではなかったが、長身の陽菜に合うと、中学入学と同時に七海も含めて3人で一緒にバスケ部に入部した。バスケに夢中になり、学校の勉強も決して優秀ではなかったが、二人と一緒に宿題を考えたりして、やっていくうちに、性格も明るくなっていった。
3人を小学生の頃から見ていた施設長の本橋と職員の直子は、それぞれが地獄を見て入園してきたにも関わらず、両親がいて何不自由なく過ごしている普通の中学・高校生と変わらないと思えるほど心身ともに成長した3人を園の誇りのような存在に感じていた。
18歳になって施設を出て自立しなければならない3人に藤森と朝倉に声をかけられ、滝野川大の陸上部に特待生として入学でき、学費も寮費も面倒を見てもらえるなんて夢のようだった。
本橋と直子は、3人の頑張る姿を大会に出る姿をいつか後輩の子どもたちに見せてあげたいねと話すようになっていた。
つづく
◎登場人物紹介
桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人
中川さくら/さくちん 158cm あねご
田原七海/みーなな 166cm 知恵袋
本橋 光が岡園施設長
直子 光が岡園職員
新人としてのシーズンが終了し、2年目に向かって新たな練習をスタートする。特待生として結果も求められていく。