セレクション
バスケ部ながら陸上の大会で素晴らしい走りを見せた3人の素質にほれ込み、藤森がセレクションに誘う。ライバルがいる中、無事に合格できるのか。
ある晴れた日に小向高校に藤森がやってきて3人と面談した。
藤森「千葉で滝野川大の練習会に参加するかい?」
さくら「うん、行く行く」
藤森「スパイクはあるのかい?」
さくら「ないです」
陽菜「私も」
七海「私もだし。お金ないし」
藤森「安いのでもいいから、あったほうがいいぞ」
翌日、3人は近所のスポーツ用品店に行った。
七海「えーっ、いちまんはっせんきゅうやくえん⁈」
さくら「むりむりむり」
陽菜「ほかのにしよ」
陽菜「これ一番安いよ」
さくら「9800円、うーん」
七海「色もデザインもダサいね」
さくら「しょうがないよ、うちら貧乏だから」
七海「大学にいけるかもしれないから、先行投資だよ」
陽菜「お小遣いみんな使っちゃったよ、えーん」
練習会には、大学の部員の他にゲストで20人くらい参加していた。
「今日はよく来てくれました。アップした後にドリルやって、それから100のタイムトライアルをします」
ドリルが始まった。ゴムチューブを使ったももあげ、かかとひきつけ、ミニハードル走。
七海「うぉー、なにこれ、きっつ」
「もっと素早く!」
さくら「はぁ?」
そしてタイムトライアル。
「3人ずつ走ってもらいます。1組目は七海さんと、大久保さんと高杉さん」
七海「えっー、いきなり私?」
パァーーン! ダッ、ダッ、ダッ。
七海はスタートで遅れたものの一位でゴール
「12秒2!」
「3組は松山さんと、さくらさん、乃木さん」
パァーン! ダッダッダッ。
さくらはスタートから先頭にたちそのままゴール。
「11秒9!」
「5組は山縣さんと、桐野さんと、陽菜さん」
パァーン! ダッダッダッ。
競り合って3位でゴール。
「12秒3!」
「お疲れ様でした。今日はここまでです」
さくら「マジ疲れた」
陽菜「陸上なんかきらいだよ」
七海「みんは速えぇ。ありえねー」
▽数日後
藤森「こないだはお疲れ様。今日は良い知らせだぞ」
さくら「えっー、何?」
陽菜「緊張する」
藤森「ズバリ、3人ともうちの大学に来てもらいたい」
陽菜「うそっー」
さくら「冗談は顔だけにしてよ」
七海「うちらを喜ばそうとからかってるんじゃないの」
藤森「イヤイヤ、マジだよ」
七海「だって、セレクションでうちらより速いの何人もいたじゃん」
藤森「確かに、君たちのタイムは上位5名には入っていなかった」
「でも、走り方もロクに知らずにあのスパイクであそこまで走れるのは、もしかしたら将来大成するかもしれないと判断したんだ」
さくら「うちら3人ともですか」
藤森「ああ」
七海「貧乏でかわいそうだからじゃなくて?」
藤森「それはない。逆にハングリー精神があるだろうし、道具も大事にするだろう」
七海「そりゃあもちろん、超大事にするよね」
陽菜「うん、絶対する!」
さくら「あの、私、保育士の資格が欲しいんです。将来施設で働きたくて」
藤森「大丈夫。短大で保育科があるから。普通は受け入れないけど、特別に許可もらったよ」
さくら「信じられない。夢みたい」
藤森「その代わり、勉強と練習の両方こなさないといけないよ」
数日前、藤森は滝野川大の学長である石橋に女子陸上部に入れる5名の特待生について相談していた。
石橋「藤森君、今回は3名が児童養護施設の子なのか」
藤森「ええ、はい。いけませんですか...ね」
石橋「いいじゃないか!! よく見つけてきた」
藤森の肩をポンっとたたいた。
藤森「朝倉さんが推薦してくださって」
石橋「朝倉? まぁ、誰でも良い、いい人選だよ今年は」
藤森「でもタイムはまだまだです」
石橋「そこは君が鍛えてあげてくれたまえ。プロコーチの腕前の見せどころだろう」
藤森「はい。でも学長にそんなに褒められるとは思いませんでした。むしろ叱られるとばかり」
石橋「藤森君。甘いな。ウチのようなFラン大が全国で知られるようになったのはなぜだい?」
藤森「えっ、ああ、駅伝ですね」
石橋「誰を連れてきたから強くなったのかね?」
藤森「えっと、ケニア人留学生です」
石橋「そうだ。ケニア人は駅伝を強くしてくれた」
藤森「彼女たちもですか?」
石橋「そうだ。もし1人でも全国区になってみい、マスコミが騒ぐだろ、滝野川大の児童養護出身の子がって」
藤森「えっ、ああ、確かに」
石橋「駅伝以外にも短距離でも話題にのぼれば、さらにウチが有名になって、志願者も増える。いい広告になる!フッ」
藤森「.....3人ともですか」
石橋「おいおい、素人連れてきてそんなに甘くないだろう。1人でもビッグになってくれればいい。上手くいかない子は辞めてもらってもいい。それがビジネスだ!」
藤森「そっ、そんな」
石橋「学費免除で寮費も払って欲しいなんて、ケニア人と変わらんじゃないか。生活のためにどんなキツイ練習でもこなすんじゃないか。ワッハッハ!!」
藤森「くっ!」
藤森は怒りをグッとこらえた。
つづく
◎登場人物紹介
中川さくら/さくちん 158cm あねご
桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人
田原七海/みーなな 166cm 知恵袋
藤森健次郎 滝野川大監督 元世界陸上リレーメンバー
石橋 滝野川大学学長
無事に3人の入学を決めた藤森だが、学長の石橋の腹黒さを目の当たりにする。
3人は高校の卒業を控え進路を決めていく。