7バッハ バハムートちゃん旦那と小僧のご対面
世の中には圧倒的なパワーバランスがある。 どう足掻いてもどうにもならない一方的な力量差。 ピラミッドの頂天と底辺、嬲るものと嬲られるもの。 どこぞの世界でいえば、飲茶と野菜男、メガネくんとボエ〜〜〜である。 ───まぁ、うん、そういう事である。
さて、その圧倒的で一方的な魔力の暴力が、バハムートちゃんの目の前で繰り広げられていた。 正確には大きな岩場の後ろから隠れ見ているのだが。
もはやこの場の支配者といえる魔道士の絶大なるその力を前に成す術もないイフリートを目の当たりにして、バハムートちゃんは言葉を失いただ食い入る様に見入っていた。
──我程ではないとはいえ、イフリートもかなりの実力者のハズだ。 それをこんな……、これ程までになのか、魔道士の力は─────
戦いを外から見る事でわかる事もある。達人が達人を知る如く、本来甚大なる力を持っていたからこそよくわかった。魔道士のすごさを。 口惜しいが敵わないわけだ────次元が違った。
魔道士の動きが変わった。あの動きである。バハムートを封じ、その姿ごと奪う流麗なる舞の様な詠唱がはじまった………
──あ〜あれきたか、あれきたらな〜もうムリだわ。
お疲れさんと言わんばかりにやれやれと肩を竦めてからなむ〜する。 しかし、その顔は笑顔であった。 バハムートちゃんの狙いはまさにこれだった。
バハムートちゃんは常々解せなかった。何故我だけがこのような姿にされなきゃならんのだ、と。我より弱い精獣はこの世界にい〜〜〜〜っぱいいるというのに、何故我だけ?
端的にいうとイフリートは巻き添えである。 まぁ粛清される側ではあるのだが、今回のは八つ当たりである……非道い話だ。
──くっふっふっふ、あの我でさえこの姿なのだ、イフリートなぞ我より幼児、ヘタしたら赤子になりかねんな。
可愛い顔には全く似つかわしくない下卑た笑いをしながら、その時を今か今かとウキウキ待った。
その時は、思っていたより時間はかからなかった。 永久にも感じた時間はこんなモノなのかとバハムートちゃんは思った。 魔導士も特に何も語らず、バハムートの時と同じように手頃な岩の上に腰掛けていた。先程の戦いがウソのように静寂が続いていた────
イフリートを取り囲んでいた光が少しずつ薄れていった。 さぁくるぞ、くるぞ!はやく!!とバハムートちゃんのボルテージはマックスで、手に汗握った。
───光が爆ぜ、キラキラした中から声が聞こえてきた。
「……オイオイ、なんだよこりゃあ───?」
イケボのイケメンがいた。
「??????????????????????????????」
人の齢にして20歳位である。精悍な顔つきに情熱的な深紅の瞳、褐色の肌は程よく鍛えられていて、シックスパッドも当然ある。 どこぞの世界でいうなら乙女なゲーで、毎回最高レアの課金ガチャからでしか登場せず、乙女なおねぃさん達に、コレ(課金)まじヤバいって〜マジ死ぬ、でもスキ♡、と謎理論で阿鼻叫喚させる程だ。
イフリートは自身の体を確かめるかの様に手のひらを握ったり開いたりしている。 それをバハムートちゃんはプルプルしながら見ていた。 予想の範疇を大きくぶっ壊してくれたその姿を見て、バハムートちゃんは飛び出して喚かずにはいられなかった。 まぁ、無理もないよね。
「ぬわああぁぁぁあああああああああああああああああ!!貴様、ふざけんなぁぁあああああああああああ!!!」
先日習得した?必殺技とも言える幼女の咆哮が炸裂して洞窟内で響き渡った。 キ─────ンとして魔導士とイフリートは堪らんと両耳を塞いだ。
「っ、んだよ、このガキは? うるっせーーな! なんでイフリート様のテリトリーにちびっこがいるんだ?」
「ガ、ガキだと? この小僧めが!!!! よくも我にそのような口を─────────」
ハッと口を押さえる。
「んだと?小僧だぁ?! てめぇこのクソガ──────」
イフリートがピタッと止まり、マジマジとバハムートちゃんを見つめる。 マズイとバハムートちゃんは冷や汗をかいた。
「……オレの事小僧って呼ぶのって、ただ1人しかいないけど、───まさか?」
バハムートちゃんは、ソロ──〜〜っと出てきた岩場に隠れようとする。
「あんた、……まさか、バハムートの旦那なのか?!!」
ギクぅと身体が固まる。
「な、何を言うのだ☆ ───我がバハムートの筈があるわけなかろう☆」
きゅるるん☆、と愛らしくこたえるが、口調はまんま旦那のものだった。
「やべぇ、マジで旦那かよ?」
「ダンナチガウヨ ナニソレ オイシイノ?」
「うわ──マジありえね〜〜。っつか、オレよりありえなくね? 旦那流石にヤバいってそれは!」
「うが───!!! 旦那違う言ってるだろうが─────黙れ小僧めが──────!!!」
「あっははは、マジ旦那だ、超うける〜〜」
───本来なら指差して笑うのは我の筈だったのに───と涙目で魔導士をギっと睨む。 魔導士は素知らぬ顔だ。
「コラ貴様!これはどう言う事だ? 何故奴はおちびにならんのだ?! これでは我の立つ背がないではないか!」
「知らん」
「あれか?またお得意の嫌がらせか?!……ずるいぞ! 我もでかくしろ! イヤ、早く元に戻せ!!」
「腹減ったな、おい食いモン出せ」
「話を聞け───────────!!」
そんな2人のやり取りを、ヤベーヤベ──と腹抱えて笑うイフリートであった。
───こうして新たなる仲間が増えたのであった。