6バッハ バハムートちゃんヘロヘロ地獄と魔法のマント
さて、バハムートちゃんも晴れて?バッハちゃんを襲名したのだが、リーダが区別しやすいように天の声は今まで通りバハムートちゃんと呼ばせて頂こう。
─── 決して文字数稼ぎではないからね。 いいね。
とある日、バハムートちゃんはめずらしく真顔で長考していた。 思えばこの姿になってからというもの、魔道士に圧かけられたり、コケにされたり、圧かけられたり……よっぽど圧が気に入らない様だ。 街に行っては献上品を受け取りわっしょいされて浮かれる事ですっかりそれどころではなかったが、本来ならば真っ先に向き合わなければならなかった。
もちろん魔道士の事だ。 精獣最恐と畏怖されていたバハムートでも敵わない程のあの圧倒的な力を持ってしたら、生かさず滅する事など容易だっただろうに。 ─── 何故この様な姿に変えたのか。
「おい貴様!聞きたいことがある!」
「なんだ?要点は絞ってきたんだろうな?」
あいも変わらず新聞片手に人の話を聞く態度ではない。バハムートちゃんはトゲっときたが、ここはグッと堪えた。
「貴様!何故我をこの様な姿にした?」
もしかしたら何か意味があるのかもしれないと、バハムートちゃんはいつになく真剣だった。 魔道士もわかったと言わん限り向き直った。
「その方が面白いから」
意味なんてなかった。
「ふっっ、ふ、ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」
心の叫びである。無理もない。珍しくシリアスだったのにね。 結局ただの嫌がらせであった、いつも通りの。 ハイ、解散解散 ………
「ぐぬぅ、ま、まだだ!まだ聞きたいことがある!」
─── 解散まだだった。
「貴様ははおそらく精獣を収めるために、国王か重鎮にでも頼まれて我のとこにきたのであろう。 我程の最高位なモノなどここの大陸にはもう居らぬが、精獣はまだまだおるぞ。 それらは放っておいていいのか?」
珍しくまともな事を言ってるなと、新聞に伸ばしかけた手を戻す。
「……そうだな……まぁやるか」
顎に手をかけ、事もなげに話す様は気怠そうで、あれ?我もこんな感じでやられたん?、とちょっとだけ傷ついた。
「この辺りからだと1番近い場所は……」
と指でさっと描いて地図を出して広げる。
「我知ってるぞ! ここ、ここ!ここにおるぞ!」
バハムートちゃんは身を乗り出して指を指す。
「ふむ、ここか……ならあいつか────」
魔道士が地図と向き合ってる間、バハムートちゃんはそりゃもう悪い顔をしていた。
─── その場所に近づくにつれて周りの温度は上がっていった。 周りを見渡せば、草木一本も生える事の許さぬ火山地帯で、マグマもちらほら見え出している。 体感温度で言えば50度位であろうか。もちろん主の近くまで行けばもっと温度は跳ね上がるであろう。 バハムートの時であればこんな熱さ赤ちゃんの産湯よりも生温かったが、幼女の身ではかなり堪えた。
「ぉぃ……、─────待たぬかぁ────」
お目々はグルグルのヘロヘロである。 常時快適な魔導士は平然として進んでいたが、バハムートちゃんがこれでは精獣のところにいつたどり着けるかもわからない。 この足手纏いめ!と言わんばかりに圧をかけてくる。 弱り目に祟り目だ。
「し、仕方ないであろう ……、我だって元の姿ならこんなとこ、ひとっ飛びだぞ! 我だって、我だっで─〜───〜〜」
顔をくちゃくちゃにして泣き出した。 ここに来るまでは、おっちゃん達からの餞別をうれしそうにリュックに詰め込み、我にまかせろ!と張り切って先陣を切っていたというのに見る影もない。 熱さで相当参ってるのだろう。 まぁここが限界かと、やれやれと魔導士は指でさっと描き小さなマントを出した。
「これでも羽織っとけ。マシになる」
「───うむ……?」
言われるがまま受け取ったマントを羽織ってみるとあら不思議。 フワワ〜〜っと全身を空気が纏い、さっきまでの熱さが嘘の様に消し去っていた。
「ふぉぉおおおおお?!」
あまりの事に思わず声を出さずにはいられなかった。
──ぬぅ、なんだコレは? 魔道士の奴め、こんないいモノを使っていたのか。 流石ヘンタイとして諸々犠牲にしてるだけの事はあるわ!
「これで我も常に快適、カラダも清潔というわけだな!」
「いや、そっちの機能はついてない」
「ナニ──────?!」
───その時、そんなやり取りを打ち払うかの如く鋭い咆哮が響き渡った。 まるで侵入者を発見でもしたかの様に……獲物がきたと言わんばかりに!
バハムートちゃんと魔導士は咆哮が聞こえた方角にすぐ様目標を見据え、キッと見つめた。
───主の名前はイフリート───あらゆるモノを燃やし尽くす紅蓮の精獣である。