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5バッハ バハムートちゃんバッハちゃん襲名す

 バムムートちゃん、さわやかな朝の目覚めである。

よく食べてよく寝る、それだけで子供は完全回復出来るのだから何とも羨ましい話である。

 さて、残念ながらさわやかな気分もここまでである。 目の前の惨劇にバハムートちゃんは驚愕した。魔道士が新聞を読みながらコーヒーを啜り、テーブルの上の戦利品に手をつけていたからだ。すでにいくつか餌食になった痕跡もある。しかも今手にしてるのはあのクシヤキである!

「……ま、待つのだ!」

 手を伸ばして言い終わるより先にパクッと口の中に葬り去られた。

「あ───────っ?!!」

──あ……、我のクシヤキ─── 我の戦利品たちが……

 何故か街のおっちゃんたちの笑顔が浮かんだ。 おのれおのれおのれと怒りのオーラを纏う、事はもうできないが、それ位の気迫で魔道士に詰め寄る。

「おのれ貴様!それは我のモノだぞ!!」

「ん? ああ、うまいな」

 そう言いながら我関せずと次のおみやに手を伸ばす。2人の温度差すごすぎた。

「ちょ、待て待て待て! ちょま!!」

「んだよ、さっきからうるせーな。要点を絞ってから言え」

「それ、我の! お前、喰うな!!」

 自分と魔道士を交互に差しながら言う。

「ああ」

───通じた。 が、お構いなしに口にはこぶ。

「わ──わ──!バカ、それ我のだって言ってるだろ! 食べちゃダメ、絶対!!」

 もう半泣きである。魔導士は面倒くさそうにふぅっと溜息をつく。

「お前も喰えばいいだろ?」

「? ぉ、おう、そうか」

 涙を拭い、テーブルにつきクシヤキに手を伸ばし、そうそうこれとうれしそうに口に運ぶ。

「ちっっっがぁ────────────う!!!!!」

 可憐なる咆哮には思った以上に効果があり、魔導士はこれはたまらんとキーンした耳を塞ぎながら顔を逸らす。どこぞの世界のゲームならスキルゲットで頭の上に豆電球でたことだろう。

「いいか、聞け」

 魔道士はお得意の圧をかけてきた。 ハイハイまた圧ですかーーと不貞腐れるバハムートちゃんの心を見透かしたかの様に、咳払い1つして凄みを利かせた。 ハイ!っと条件反射の様に椅子の上なのに正座していた。

「これはお前のモノだと言ったな?」

「う、うむ!」

「では、ここは誰の部屋だ?」

「? うむ?」

「ここはオレが金を出して借りている部屋だ。お前ここで好き勝手やってるだろう。昨夜もベッドで寝やがって。」

「うぅ………むぅ、そ、それは─────、夜中、冷えてきたから、その……、そっちの空いてたし…………」

 最後の方はゴニョゴニョと弱々しくなっていく。 どうりでよく寝れたわけだ。フカフカのフトンは気持ちの良いものだった。 バハムートちゃんはまた高速ラーニングした。

「お前がコレを喰うなと主張するなら、オレもここのモノ全てオレのものだから使うなと主張することになるが、いいんだな?」


───完敗であった。 結局あのあと魔道士に好き放題食い荒らされ、大好きなクシヤキは1本しか食べれなかった。

 おのれ!とぷりぷりしながら街に出向く。勝手知ったるよろしく、街中を我が物顔で歩く。 昨日を知ってか、街の人たちは笑顔で歓迎してくれた。

──ふっふっふっ、ここのモノたちはよくわかっておる。 この様な姿になっても我の凄さは隠せぬらしいな。 

 ぷりぷりもふっとび鼻高々だが、本当の理由は真逆のとこにあるとは夢々思っていないだろう。

 串焼き屋のおっちゃんがこっちに気づいて大きく手を振りながら声をかけてくれる。

「お、きたね、おはよう。 昨日はありがとう。 どうだい串焼き食べてくかい?」

「うむ!」

つぶらな瞳をキラキラさせながらほっぺをピンクに染めて駆け寄ってくる様は、見るモノ全てを笑顔にした。

「お嬢ちゃん後でこっちにもおいでー!」

「待ってるよ──」

至る所から声がかかり、バハムートちゃんはご満悦でそれに対し、ちっさな腕をブンブン振って応えていく。

「よーし待ってな、今すぐ焼くからな。 ──えっと…? そういえばお嬢ちゃんお名前はなんて言うんだい?」

 ギラリ! バハムートちゃんの目が妖しく光る。

──ぬふっふっふっ、とうとうこの時が来たか。 我の名を知らしめる時が! さぁ、近くば寄って目にも見よ!!

 名乗りである。

「聞くがいい! 我の名は、バッハっ─────」

………盛大に噛んだ。 しばし沈黙が流れる─────────

「ちっ、ちが、今のは………」

「バッハちゃんか! 可愛い名前だな〜〜!!」

 真っ赤になって訂正しようとするバハムートちゃんを他所に、おっちゃんたちは大盛り上がりする。

「は? 待て、お主らは───────」

 気づけば周りではバッハちゃんコールが連呼された。 もはや本人の意思などそっちのけである。 しばらく止まないコールを聴き続けながら、バハムートちゃんは群集心理の恐ろしさを高速ラーニングした。


──こうしてバッハちゃんの名を襲名したのであった。

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