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4バッハ バハムートちゃん街頭デビューとビクトリーロード

 バハムートちゃんはしょんぼりしていた。

 最恐だった精獣が1人の魔道士によって幼女にさせられ、床で寝てても朝までほったらかしの上、さらにコケにされたのだ。ひと1人をダメにするには充分すぎるほどであった。 さらに追い討ちをかける様に全身筋肉痛であり、何よりも腹ペコである。

──それにしても……

 と、辺りを見渡す。勢いよくホテルを飛び出してきたはいいが、人の街をこんな風に散策する事は初めてなのでキョロキョロしてた。どうやら商店街に紛れ込んだようだ。もうすぐ夕方のせいか買い物客等で人が溢れかえっていた。

──むぅ、なんでこんなにたくさんいるのだ!歩きにくいではないか! 我を誰だと思っている!!我の名前を知ったら激震が走るぞ!

 ぷりぷりとほっぺたを膨らませている愛らしい幼女があのバハムートと知ればある意味激震が走るだろう。

──クソ!小虫がワラワラと群れおってからに! 我が本来の姿であらば彼奴ら等ブレス1つで一蹴できるものを! その暁には真っ先にここを滅ぼしてくれようぞ!

 小虫と言ってもバハムートちゃんからしたら全員山の様な大きさである。自分より大きな存在など数える程しか思い出すことができなかったというのに……と更にしょんぼりした。どこぞの世界のソシャゲでいえば、絶好調から寝不足でやる気が下がった上バステがつき、更にやる気が多段落としされたようなモノである。 ───あくまでもどこぞの世界の話である。

──むぅ、何やらあちこちから、なんだ色んな匂いが………

 周りには露天もたくさんあり、そこかしこからいい匂いがしていた。お腹の虫がかわいくくぅうと鳴く。 もはや悪態をつく元気もなくなり、バステの如くますますしょんぼりしていったところに、露天のガタイのいいおっちゃんが声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、みない顔だね。お父さんかお母さんと一緒じゃないのかい? 迷子かな?」

 まさかお嬢ちゃんが自分のこととは思わずかわいく輪唱するお腹を見つめてさすっていた。

「ほら、食べなよ。お腹空いてるんだろ? なーにお金は心配しなくていいよ、可愛いお嬢ちゃんにおじさんからのサービスだ」

 そう言ってウインクしながら目の前に串焼きの肉を差し出した。炭火で焼いているのだろう味付き肉は程よくこんがりして、芳しい匂いとホカホカの湯気が立っていた。バハムートちゃんがおっちゃんを見るとおっちゃんは笑顔で頷いてくれた。見たこともない串焼きに訝しげそうな顔をしていたが、腹の虫の合唱には勝てずオズオズと口に運んで食んでみた。とたん一瞬で目がカッと見開く。

──なんだこれは! ……うまい!うますぎる!!

 どこぞの世界の銘菓のCMのようにも聞こえなくもないけど、気のせいである。 いいね。

──ふぉおお、なんだこれは、アツアツで噛めば噛むほどジューシーな肉汁が溢れてきて、こんなの我知らない、知らないぞ──────!!!

 周囲から見れば愛らしい幼女がかわいいお口でホフホフ頬張って恍惚な表情を浮かべている様は効果抜群であった。

「ねぇ、……ちょっとあれ?」

「お、……おう!」

「ゴクリ────」

 周りがざわつき出すと同時に一斉に串焼き屋の露店にどわっと人が押し寄せる!

「オヤジ、オレにも1本、いや3本くれ!」

「わたしも買うわ!家族の分、10本ちょうだい!!」

 おっちゃんは何が起こったかいまいち理解できないままではあったが、うれしそうに対応し出す。次に動いたのは居並ぶ露店の店主たちだった。

「お嬢ちゃん!こっちはどうだい?これも美味しいよ!」

「女の子といえばやっぱ甘いものだよねぇ、これを食べてちょうだい」

 次々とバハムートちゃんに群がっていった。

「ちょ?なんだお主らは?! まて、押すな、コラ、勝手に口に入れるな───はむっ、むぅこれも美味いぞ、ふわあぁぁああ!!」

 戸惑いながらも次々に口に放り込まれ、その度恍惚する様はいつまでも見ていられるもので、周りはほんわか温かい目で見守り続け優しい時間が流れた。 今までに食んだ事のない美味なる食べ物の数々にすっかりご満悦のバハムートちゃんへの献上品は、かわいいお腹が太鼓になるまで続けられた。


───辺りはすっかり薄暗くなり、優しい時間も終わりを迎える。 おっちゃんが近づいてきて膝を屈んでくれる。

「お嬢ちゃん大丈夫かい? 遅い時間まで悪かったね、家の人心配してないかい?」

「いや、気にすることはない!我は大変満足したぞ!」

「そうかい、そう言ってもらえたらうれしいな。こっちこそお嬢ちゃんのおかげで今日の売り上げは万々歳だよ」

「こっちもだよーありがとうねー」

「こんな売り上げは祭りの時位だからな。お嬢ちゃんありがとうな!」

 バハムートちゃん効果で軒並み露店の売り上げは爆上がりしたそうだ。

「よかったらこれを持ってってくれ、帰って家の人とお食べ」

 おっちゃんを皮切りに次々とおみやを渡されて両手いっぱいになる。

「うむ、また明日もきてやろう!」

 ワッと店主たちから歓声が上がる。すっかりアイドルポジションを確立したらしい。 みんなから盛大に送り出されて家路に向かう。両手には抱えきれない程の戦利品だ。 バハムートちゃんになってから初めてのビクトリーロードである。

──ふむ、中々悪くなかったわ。 それにしても、彼奴ら我の事をお嬢ちゃんだと?いつか思い知らさねばならんな!……だが、まぁいい、今日の我は機嫌がいい。 ……そうだな、我が元に戻れた場合、ここだけは滅ぼさないでおいてやってもよかろう。 特にあのクシヤキ?は悪くなかったぞ。

 あんなにしょんぼりしていたのに、不思議とバステは緩和しており、胸はポカポカ、足取りは軽やかだった。



───その後ホテルへの帰り道ががわからず半泣きしてるところを保護されるのだが、魔道士の格好があまりにも特徴的すぎて、割りとすぐ居場所は判明した。

 保護者と勘違いされた魔導士は警備隊の人に説教をくらう事になり、圧は出掛ける前より増し増しになった。


 魔道士のあの不愉快な出立ちもたまには役に立つな、とソファの上でほくそ笑みながら、テーブルの上で山積みになった戦利品に目をやり、街での出来事を思い出した。

 

 ちょっとだけ悪くない気分で眠りについたバハムートちゃんであった。



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