1バッハ バハムートちゃん爆誕す
そこは魔法と精獣が住まう世界
その世界にはかつて一度だけ世界滅亡の危機があった。 あったのだが、かつて前過ぎてその事象をしるものも、それを語るものもいなくなり、人々の記憶から忘れ去られていった。 少なくとも滅亡とはほど遠い安寧の日々が続いた。 そういう時にやってくるものだ。つまらなくも平凡な何もない日々の素晴らしさを知るときが………
ふたたびその世界を滅ぼしかねない禍の兆候が現れはじめた。一部の精獣が暴れ出し、人類に被害が出まわりだしていた。精獣と牽制しあう均衡状態が続いていたがそうもいってられない火急の事態が起こった。精獣の中でも頂点といっていい精獣が動き出したからだ。
その名はバハムート。精獣最恐として人類や精獣からも畏怖されていた。
主の見た目さながら漆黒の巨大な山の巨大な洞穴の入り口付近には禍々しい空気に満たされていて、何者にも侵入を許さない雰囲気を纏っていた。 魔力をもたないものでもその不穏さに慄き遁走するであろう。まともな人物ならその先にはとても足を踏み込めないし、踏み込んだらその瘴気で気が狂ってしまうかもしれない。 さらに踏み込んだ所で奥にはあの主がいるのだ、普通なら瞬殺か虐殺の2択しか残されていない────普通なら?そう普通ならそれしかない筈だ。 筈なんだが、相手がもし普通でない場合はどうなるのだろうか?
そんな洞穴の奥から恐ろしい声が聞こえてくる。主であり地上最恐の生物、咆哮一つで人類を震え上がらせる事も可能であろう、だが、その咆哮にも似た声はあきらかに異質さを含み異常さを物語っていた。 どうやら普通でない事が起こっているようだ。
──なんだこれは?何が起こっている?
巨大なドラゴンの前に黒い外套を纏った人物が立っていた。フードは顔の半分以上を覆い素顔はわからないが、その風体から魔導士であろう。主にしたら虫ケラ如き存在。今まで何十何百、もはや数えるのもめんどくさい程のそれらを屠ってきた。 これもそれになる筈だった、筈だったのに、それが放つ魔法陣に拘束され動きを完璧に封じ込められていた。
咆哮は益々禍々しさを増すが、魔導士は微動だにしないで更なる詠唱を始める。その印を踏む流れはさながら舞を舞ってるように流麗だったが、そんな事は主にはどうでもいい事だった。
───屈辱……これしかなかった。
──苦しい!カラダがドロドロに溶かされていくみたいだ!おのれおのれおのれおのれ!!我はバハムート!地上最恐の精獣だぞ!その我をこんな小虫に────! 意識が遠のく……死? 我は死ぬのか?! こんななすすべもないまま、おのれ───────────!!
最後に一際大きな咆哮が響き渡った後、静寂が訪れた。
どれくらいの刻が流れただろう、一瞬でもあり、永遠でもある、そんな不思議な感覚だった。
────む?
カラダは重苦しく不快な気分ではあるが指がぴくっと動く気配がある。
──我は…生き…てるのか?
──生き残った…のか? ……あれに打ち勝ったのか────勝った……勝ち───
ぼんやり見える視界の先には手頃な岩の上に座ってる魔道士が見えた。カッと目が開き毅然とカラダに力が入る!
「わはははは───我の勝ちだ!!今度はこっちの───!」
言い終えないうちに言葉は止まる。それもその筈、聞き覚えのない声が聞こえたからだ。どこから?どこ? すごく近い、それはもうまるで自分からのように。
──なんだ今のは?やけに甲高かったけど、あやつの魔法で声帯がやられたか?
勢いよく立ち上がったせいかカラダがフラフラして地面に手をつき自然と視線を落とす。そこには我が目を疑うものがあった。 何かの間違いと、目を覚ますかのように頭を振るった。まだ思考もカラダもフワフワしてる中なんとか意識をしっかり保ち、確かめるように自身の顔に触れてみる。 ぷにっとしたそれは自身のカラダでは感じたことのない感触だった。
──ああ、あれだ…我が屠った小虫がこんなカンジだったな……
とボンヤリ考えながらも、ハッと我に返っておぼつかない足取りで隅にある湧き水を覗き込み己を確かめる。
─────幼女がいた。
「のわああああぁぁぁあああ!なんじゃこりゃあああ!」
禍々しい洞穴からは考えられないような可愛い怒声が響き渡った。
「きっき、貴様!これはどういうことだ!」
魔導士はちらと一瞥してからフーッと溜息を漏らしめんどくさそうに言った。
「知らん」
目の前が真っ暗になった。なったが震えるカラダでなんとかふんばった。
もう一度泉に目をやる。 人の齢にして7歳位、つぶらな瞳に桜色のほっぺ、その愛くるしい容姿はどこぞの世界で動画投稿でもすれば運営からご褒美の盾がもらえたのかもしれない。
──これが我……? こんな細っこい手足で、あの頑強で屈強で最強でかっこいい我は……
「わ…、我はバハムートだぞぉ……!」
涙目でプルプルと震える様はもはや威厳もクソもないけど、自己を再確認するかのように言い放つ。
しかしすでにそこには魔道士の姿はなく洞穴の外に向かって歩き出していた。
「ま、まて!我は……おい!待つのだ!」
慌てて追いかけようとしたけど、慣れない感覚に足がもつれベシャッと転んでしまう。
──なんだこの足は、か細くてなんとも頼りない……我の足はもっと……もっと!
かつての自分を思い出し涙が溢れてくる。 一向に待つ気配のない魔道士の背中を半泣きで産まれたての子鹿よろしくヨタヨタと追いかけるのであった。
こうして最恐最悪の精獣は幼女となり、世界には平和はおとずれた。
────のだろうか???
はじめまして、みぃくんMk2です。今回初投稿になります。稚拙な部分も多いと思いますが、楽しんで頂ければうれしきです。気軽にゆるく読めるようにショートストーリー形式にしてます。こまめにあげていく予定ですのでよろしくお願いします(*´꒳`*)
※1話以外の後書きは割愛させて頂きます。何かあれば活動報告の方でおしらせします。