表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/82

3、性格悪く生き延びてやる

ミュリエルが本気なのはわかっていたが、私は聞き返さずにはいられなかった。


「ねえ、ミュリエル……そんなことのために……私のものを手に入れるためだけに、こんな大変なことをしたの? 公爵家がなくなったらあなただって生きていけないのに」

「“かわいそうな生き残り”の私は、すべてを受け継ぐから大丈夫よ」


ーー駄目だわ、話にならない!


私はミュリエルを突き飛ばしてでも、逃げようとした。

ところが。


ーーどういうこと?


さっきから足に力が入らなかった。おかしい。

ついにその場にしゃがみ込む。


「安心して、お姉様」


ミュリエルはそんな私を見下ろした。


「お姉様の大事な婚約者のイリル様は、私が代わりに婚約してあげる。そのためにちょっと急いだのよ。結婚してからじゃ難しいでしょ?」


ーーイリルとミュリエルが代わりに婚約?


「イ……リ……ない…わ」


声がかすれ、意識まで朦朧とし出したとき、私はやっと気付いた。


ーーハンカチに何か染み込んでいた?


「やっとだわ。お姉様、効きが遅いから心配しました」


どさっ、と横たわる私は、もう身動きができなかった。

ミュリエルは勢いよくナイフを持った手を振り下ろす。


ーーグサッ!!!


「……ぐ……!」


無抵抗の私の胸に、それは深々と差し込まれた。動けなくても痛みは感じる。

体が引き裂かれるように苦しかった。


「ふう……なかなか力がいるわね」


だけどもう叫ぶこともできない。


「はい、これ持って」


私の体から出たナイフの柄を、ミュリエルは私に握らせた。

そして、『真実の愛』とやらの証拠になる手紙を近くに置いたミュリエルは、


「お姉様、さようなら」


と扉を開けて出ていった。


ーーそんなふうに、私は無念の死を遂げた。

             

          ‡


……はずだった。

なのに、これはどういうことだろう。


「おはようございます、クリスティナ様。お加減はいかがですか?」

「ルシーン?!」


目を覚ましたら、自分の寝台の上だった。


「よかった! 無事だったの? 火事はすぐ収まった?」


飛び起きて聞く私に、ルシーンは首を傾げた。


「火事? なんのことですか?」

「だって……ミュリエルが」


ルシーンはいつものように微笑んだ。


「ミュリエル様? いついらっしゃったのですか?」


何とぼけているの、と言おうとして私は気付いた。

どう見ても、ここは私の部屋で、私の屋敷だ。


ーーどこも燃えていない。


「ルシーン、今って」


いつなの、と聞こうとして、ぐらり、と目眩がした。

思わず目をつぶる。


「クリスティナ様?! 大丈夫ですか?!」 

「頭が……痛い」

「今すぐお医者様を!」


慌てたルシーンが部屋を飛び出す。


「……な……にこ……れ」


一人残された私は、頭の中をかき混ぜられるような、嫌な感触に耐えていた。


「ぐ……」


息もできないほどの苦痛だったが、シーツを掴んで必死でやり過ごしていると、なんとか治まった。


ーーそして気付いた。


「巻き戻っている……?」


それは理屈ではなく、体感だった。

生々しいあの火事。

あれは現実だ。あのとき私は確かに死んだ。

たったの十八で。


「でも今は……」


「今」は私が十五になる直前。

誕生日の前に熱を出して、ルシーンが看病してくれたあのときに戻っている。

なぜかはわからない。

だけど、確実に言えるのは。


ーーこれは好機……よね。


戸惑いと同時に、熱い思いが湧き上がった。

こんな機会は二度とない。

やり直せるのだ。

次こそは殺されないように。


ミュリエルは私のことを、馬鹿でお人好しで淑女の鑑だと言った。

確かにその通りだ。

でも、私が馬鹿なら、あの子も同じくらい馬鹿だ。


ーーあれ、絶対に、誰かに騙されていたわよね?


屋敷の使用人を始末する、だなんて簡単に言っていたけど、協力者がいなければできるわけない。

毒もどこから手に入れたのか。

それにあの筋書き。

私に罪を着せるために、平民との恋をでっち上げるだなんて、そんな複雑さは、ミュリエルにはない。


誰かが裏で糸を引いていたのだ。


ーーでも誰が?


わからない。

だが、その人物とミュリエルが出会う前に戻っていたなら、私にも勝機はある。

あと三年。


「淑女の鑑だなんてやってる場合じゃないわ……」


このまま、私の大事なイリルを奪わせるわけにはいかないし、屋敷も燃えさせない。お父様とお兄様も毒殺させないし、使用人も始末させない。

すべてを未然に防ぐのだ。


「……わがままにはわがままで。策略には策略で」


そう決意したと同時に、ルシーンの声が響いた。


「クリスティナ様! お待たせいたしました。お医者様をお連れしました」


私はにこやかに応じた。


「ありがとう、入ってちょうだい」


せっかく好機を手に入れたのだから、逆行後は、性格悪く生き延びてやる。


ーーただしミュリエル限定で。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「王妃になる予定でしたが、偽聖女の汚名を着せられたので逃亡したら、皇太子に溺愛されました。そちらもどうぞお幸せに。2」
2巻は2021年10月8日発売予定です! よろしくお願いします。

書影
書籍版の公式ページはこちら


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ