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群青の配達屋  作者: 大咲六花
序開き
1/38

はじまり

 海に浮かぶ古い島。古の代からその様相を保ち続け、世の覇権を争う大国からは遠く離れた存在の島。かの大地を踏むには長い船旅が必要とされ、長く余所者を受け入れることなく有り続けていたそこは、神と自然に愛された島としても名を知られていた。


 その島を治めるのは巫女。周辺各国との付き合いはあるが、どこの国にも所属せず、独立性を保っていた。

 島の中心に位置する山、裾野に広がる村々。いくつもの神殿。巫女たちは祈祷を行い、空の星々から吉凶の予兆を受け取り、人々を幸福に導くための道標の役割を担っていた。黒い髪、黒い瞳は巫女の証。神々から、星々からの恩恵である力をその色に宿していると言われていた。


 しかし、ある時、人々は戦慄した。神と自然に見守られていたはずのこの島に、災厄が降りかかると星が告げた。

 山は活動を始めた。地鳴りは幾日も続き、その音は日増しに大きくなっていった。時折、山の頂からは黒煙が立ち昇っていた。そこから赤い血潮が噴き出すときは、この島が終わるときでもあった。

 巫女たちは決めた。大地へ、神へと奉げものをしようと。この島を救うにはそれしか方法が残されていない、と彼女たちは信じていた。


 一人の少女が選ばれた。少女は類まれなる力の持ち主であった。古い歴史を持つこの島の、歴代の巫女たちの中でも最高の力を持っていた。それだけの力の持ち主を側へと遣わせば、きっと神はお怒りを静めてくださるだろうと。奉げものをすると決めた後、巫女たちはなんのためらいもなく、すぐさま彼女を選出した。

 島の誰も反対をしなかった。少女を守ってくれる親は既に死んでいた。少女は類まれなる力を持っていたが、島の中でも巫女の中でも異端であった。巫女たちだけでなく、島人のほとんどが異を唱えなかった。少女は何も言わず、贄となることを了承した。


 その間にも山は活動を続け、すでに血潮はその姿を見せ始め、もう誰もが残された時間が少ないことを知っていた。


山がその血潮を吹き上げる当日、一人で山へと登った少女。その少女を止めようと、駆け出したのは一人だけ。少年から青年への過渡期にあった彼は、自分の命やその未来も顧みず、少女の元へと走った。周囲の必死の懇願も聞き入れず、周りの大人たちの防御の壁も打ち破って。


少女と彼は会えたのだろうか。山がその血潮を吹き上げる瞬間、島は膨大な光に包まれた。


島は今でも海に浮かんでいる。古くからの姿をそのまま変えることなく。

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