世界樹の大樹にたどり着く
「あれが世界樹の大樹か」
俺達は南の大地へと向かった。そこには遥か天空へと伸びている大樹があった。それは雲すら突き抜け、天空にまで至っている様子だった。
距離が相当離れているにも関わらず、まるですぐ目の前にあるかのように見えた。それはそれだけ世界樹の大樹が巨大である事を指し示している。
一説によるとあの木は一本の木でありながら、下手な国の面積よりも大きいらしい。あれほど巨大な木は他に見る事はないだろう。
「フィルド様!! すごい大きな木ですね!!」
イルミナは目を輝かせる。
「ああ。俺もここまで近くで見る事は初めてだよ。って、全然近くはないんだけどな」
あれほど巨大な木である。かなり離れた場所にいてもその光景は目にする事はできる。だが、実際に昇ってみるのは今回が初めての事であった。
「あれを天辺まで昇るのか」
気が遠くなりそうだ。ともかく近づいてみなければどうしようもない。俺達は長い時間をかけて、その世界樹の大樹まで近づく。手が触れられるくらいまで近づくのに、見えるようになってから半日が経過した。相当に距離が離れていたようだ。
◇
「改めて近くで見るとバカでかい木だな」
「本当ですね」
ルナシスも呆気にとられる。それほどまでにとてつもなく大きな木だったのだ。
「改めてすっごい大きな木です」
「ああ。良いもの見れたな」
「ええ」
「それじゃあ、帰ろうか」
俺は帰ろうとする。良いものが見れた。良い経験ができた、それで満足だ。
「「はい!」」
「今回は良い旅でしたね。ルナシスお姉様」
「ええ。その通りね。イルミナ」
俺達は皆笑顔だ。これぞハッピーエンド!!。感無量だ。俺達の旅は終わった。
「待ちなさい!!」
セリスに呼び止められる。
「どうした? セリス姫。何かあったか? 随分と不満そうだが」
「ふん!!! この世界樹の大樹に何をしに来たか、忘れたのかしら!!!」
「何って、観光に。良いもの見れたし、後は帰るだけ」
「世界樹の大樹の天辺にある、世界樹の結晶を取りに来たのを忘れたの!?」
「ん、ああ。そういえばそうだったな。けど大変そうだよな、こんな木昇るの」
目の前にある巨大な木はあるか上方にある雲を突き抜け、際限なく伸びている。一体何キロどころか、何十キロと昇らなければならないのか、想像する事すらできない。
「ええ。それもそうですね。これだけの木、天辺まで昇ることなど本職の冒険家であっても並大抵の事ではありません」
ルナシスも辟易としている様子だ。そうまでしてまで、素材を集め、ドワーフに伝説級の武具を作ってもらう事に何の意味があるのか。
そうまでしなければ勝てない敵なんてものがそもそも、この世に存在するのだろうか。
それすら怪しかった。必要以上の必要のない力を身に着ける事に何の意味があるのだろうか。
――と、イルミナの顔色が変わった。怯えたような顔になった。そして、体を震わせた。
「どうかしたか? イルミナ!! 何か体調でも悪くなったのか?」
俺は彼女の背中をさする。
「いえ、そうではありませんフィルド様。よくない気を感じました。邪悪な気です」
「邪悪な気!?」
「ええ。とてつもなく邪悪な気を感じました。これから良くない事が起こる気がします」
イルミナは魔導士だ。そして天才的な魔力を持っている。純粋なレベルやステータスでは計れない、特別な価値があった。霊的な感覚がある。それは彼女がエルフの森とつながり、献身的に森の魔力を支えてきたという事にも何か関係があるのかもしれない。
「良くない事?」
「強い力の波動を感じるのです。それはフィルド様を超えるかもしれない程の悪しき波動。あの時竜王バハムートと対峙した時と似ています。強い力の波動を感じますが、その力は良い方向を向いてはおりません。悪しき力が目覚めたのだと思います」
イルミナの様子は尋常ではなかった。何か良くない存在が目覚めたのかもしれない。俺達が認識していないというだけで世界は広いのだ。もっと強烈で凶悪なモンスター、悪しき存在は世の中に存在するのかもしれない。
自分の強さに酔っているといずれは足元をすくわれるであろう。そう、かつての『栄光の光』の役員達がそうだった。
「悪しき存在か。確かに存在するかもしれない」
かつてこの地には魔王と呼ばれる存在がいた。そして、その魔王が残したいくつもの遺産。魔道具が存在する。魔王の遺産だ。
そういった類の魔道具は望外な力を秘めている。そういった力を得た何者かが、望外な力を得てこの世に蘇る事もあるかもしれない。
だからイルミナの様子を杞憂として片づけるのは些か安穏としすぎている。力は必要かもしれない。今以上の力が。
「よし。昇ろうか。この木を」
「ふん。わかればいいのよ」
セリスは顔を背けた。俺達は世界樹の大樹を昇る。
きっと、今以上の力が必要になる時が来る。だからこの行為はそのために必要な事なんだ。
やがて来るであろう熾烈な戦いのために。俺はそう考えるようになった。
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