氷結地獄での出来事
俺達がまず向かったのは北にある大地。氷結地獄と呼ばれる大地だった。全てが凍り付く凍てつく大地。まさしく氷結地獄と呼ぶに相応しい。
「さ、寒いのよ。帰りたいのよ」
セリスは凍え震えていた。
「帰るな。何の為に来たんだ。案内役が帰ろうとするな」
「だ、だって。寒いものは寒いんだもの」
我が儘なお姫様だな。ルナシスとイルミナを見習って欲しい、文句ひとつ言わずにこの寒さに耐えている。同じお姫様だと言うのにえらい違いであった。
「仕方ない。イルミナ、魔法で暖めてやれ」
「はい。炎」
イルミナは炎魔法を放つ。たき火を作った。
「あ、ありがとうイルミナ姫。暖かいのよ」
セリスはたき火を囲っていた。
「あ、暖かい。あれ? けどなんか熱い!! 服に燃え移った!!」
セリスは大慌てしていた。引火して服が燃えていた。なんてトラブルメーカーだ。どうしようもない。
「イルミナ、水魔法で消してやれ!」
「はい。水」
イルミナは水魔法を放った。バサッ。水がセリスにかかる。
ピキィ!! 瞬間的にセリスにかかった水が固まり、セリスが氷の彫刻になった。
「「「…………」」」
俺達は沈黙する。なんか微妙な空気になった。
「置いていくか」
俺は呟く。
「ええ!? いいんですか!? フィルド様!!」
イルミナが叫ぶ。
「そ、それは些か可哀想では」
ルナシスも苦笑いをする。
「ふ、ふざけるんじゃないわよ!! 置いてくんじゃないわよ!!」
氷の彫刻が叫ぶ。
「彫刻が喋ったぞ」
「……誰のせいで彫刻になったの思ってるのよ!!」
「仕方ないな」
俺達は氷を取り除いてやる。
「くっ。ふざけるんじゃないわよ。なんであてが氷の彫刻にならなきゃなのよ」
「そもそもお前が火だるまになるのが悪いんだろうが」
俺は叫ぶ。
「いい。とにかく行くぞ」
どこが案内役なのか。確かに氷結地獄に辿り着くまでには役に立ったが、着いてからは純粋にお荷物である。
それからしばらく行った先で吹雪が止んだ。そこにあったのは銀世界である。
例えば見慣れた草木だったとしても、綺麗に凍っているとそれだけで多少なり幻想的になる。
池だってそうだ。池は凍り付けばスケートリンクのようになる。
「フィルド様、見てください」
「なんだ?」
「お花です。綺麗に凍ってます」
「ああ。綺麗だな」
俺は同意する。その光景は美しかった。そして空を見あげる。
「フィルド様、あれは」
空が綺麗な光を放っている。
「オーロラだ」
「オーロラ……」
「俺もよく原理はわからないが、寒冷地帯に見られる発光現象だ」
「へー……寒いところには綺麗なものが多いんですね」
俺達はその光景に見惚れていた。過酷な環境でしか見れない光景というものは多いのかもしれない。人気のない場所にしか咲かない花もある。そこでしか存在しない生物もいる。
そういったものを見れただけで、俺はこの場所を訪れて良かったと思えた。
「何を感激しているのよ!! あて達はこの氷結地獄にドラゴンの素材を取りに来たのよ!! 遊びにきたわけじゃないのよ!!」
セリスは怒鳴っていた。
「そういえばそうだったな」
「主な目的を忘れるんじゃないわよ。その為に氷結地獄に来たんだから」
「ですが、セリス姫。これ以上私達が強さを手に入れてどうされるのですか? 私もイルミナもそれからフィルド様も十分な強さを手に入れていると思うのですが」
「それはそうかもしれないけど」
セリスは口ごもる。
弱さは無力だ。強さは当然必要だ。身を守る為に。誰かを助けるために。絶対に必要なものだ。だが強すぎる力というものは時に危険にもなりうる。
必要なのは、必要なだけの強さだ。過剰な強さなどキャパシティの無駄である。世界で最も強くなったとしても、その力で倒すべき敵がいなければ意味などない。
「お姉様、何だか胸騒ぎがするんです」
イルミナは言った。どこか心配げだ。寒冷地で寒いからという事もないだろう。
「胸騒ぎ? どうしたのイルミナ」
「エルフの森がざわついています。きっとこれから何か良くない事が起きます」
「良くない事?」
「わかりません。ですが力はあるに越した事はないかもしれません。強大な力に抗う事ができるのはより強大な力だけです。我々は幾度となく、対話の効かない邪悪な存在を目の当たりにしてきたではないですか」
イルミナは訴える。今まで色々な経験をしてきた。特にイルミナはエルフの国を出てからというもの、様々な経験の連続であっただろう。楽しい経験ばかりではない。怖い経験や死の恐怖も味わった。
「そうね。それもその通りね。それでそのドラゴンはどこにいるのですか? セリス姫」
「それはあてもわからないわよ。だってあては氷結地獄にそいつがいるって事しか知らないんだから」
「肝心な時に役に立たないんだな」
俺は溜息をつく。
「うっさいわね!! ここに着くまで役立ったでしょうが!!」
「そういう事にしておく。それじゃあ、地道に探すしかないな」
ドスン、ドスン、ドスン。足音が聞こえてきた。
「なんだ? この足音は」
俺達は振り返る。その時、目の前に巨大な竜がいた。全身が凍結している竜。鼻息が吹雪いている。
間違いない。氷結竜だ。
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
フロストドラゴンが猛烈な叫び声を出した。
「う、うわっ!! なにっ!! う、うるさいじゃない!!」
セリスが怯んだ。ドラゴンの咆哮は敵を怯ませる効果がある。
「氷結竜のお出ましだ」
俺達は氷結地獄でフロストドラゴンと遭遇した。
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