【盗賊クロードSIDE】クロード何とか生きながらえる
「はぁ、はぁ、はぁ……」
水着したクロードは、何とか陸にあがる。どうやら生きながらえたらしい。あの高さから水着し、その上溺れることもなく陸まであがれたことは奇跡といってもいい。
それだけ悪運があるということかもしれない。クロードは追手が来ることを恐れ、薄暗い洞窟の中に身を潜めた。
水が冷たかった為、体が冷えた。残った僅かな魔力で焚火をし、服を脱いだ。弱くなった魔法でも火をたくくらいはできる。その点、自分が魔法を使えることに対して感謝できることでもあった。
なんとみじめな状況か。仲間になった盗賊達は捕らえられているであろう。せっかくクロードが闇社会で築き上げたものを失った。金目の物を持った仲間も捕らえられていることであろう。
つまりはクロードは最近築き上げた仲間、それから盗賊稼業で稼いだ金も失った、もはや何もない。生きているだけだ。体ひとつだけになってしまった。
また元通りだ。
「くそっ! フィルドの野郎!! またあいつのせいでっ!! くそっ!!」
クロードは憤った。叫ぶ。洞窟内にその叫びが響き渡る。
もはや何もなかった。だが、本当に何もないのか。クロードは思い出す。そういえばあの時、闇商人から譲り受けた魔石があったではないか。ちゃんとあるだろうか。
あった。クロードの服の中にちゃんと魔石があった。
「不思議だな。あれだけ流されたのに、どこにもいかずにちゃんと俺の元に」
妙だな、とクロードは思った。もしかしたら自分がこうして生きているのもただの偶然ではないのかもしれない。奇跡的に助かったと思ったが、そうそう奇跡は起こらない。起こらないから奇跡というのだ。
「もしかしたらこの魔石が助けてくれたのかもしれないな」
優れた魔道具は意思を持つという。そうだとするのならばこの魔石は持ち主であるクロードが死なないように助けてくれたのかもしれない。
そうだとするのならば自分があの危機的状況の中から助かったというのも合点がいく。
自分が助かったのは奇跡ではない。この魔石が意思を持って助けてくれたのだ。そう思う方が納得ができた。
「魔石か……」
自分は全てを失ったと思っていた。だがそれは間違っていた。この魔石が残っていた。全てを失ったと思っていたクロードに唯一残ったものだ。
魔石を使用することは悪魔との取引だと闇商人は言っていた。だが、もはや自分が何を失うというのだろうか。何も失うものなどない。しいて言うのなら薄汚れたこの魂くらいのものだ。
この魂を失うことに対してクロードには未練などというもの一切存在してなかった。
「いいぜ。魔石よ。俺の魂、お前に捧げてやる。悪魔でも何でもいい」
クロードは祈る。
「あの憎いフィルドの野郎をぶっ殺せるなら何でもしてやらぁ!」
クロードは覚悟を決めた。そう、魔石を使用する覚悟。悪魔に魂を売る覚悟だ。
もはやクロードは人間であることすら捨てる覚悟を持ったのである。人間として落ちぶれていくのはおろか、最終的には人間ですらなくなる、なんと因果な結果であろうか。
だが、それも彼の人生である。こうして彼の人としての生は終わり、まったく別の存在として生まれ変わることとなる。
そしてクロードは残っている全魔力を魔石に注ぎ込んだ。魔石が黒く、怪しい光を放つ。