崖から落ちるクロード
長い追跡の末に、俺達はドワーフ兵と共に、クロードを追い詰めた。
「へへっ。久しぶりじゃねぇか、フィルド」
クロードは笑みを浮かべてくる。
「とはいえ王都以来だから、そんなに久しぶりってほどでもねぇか」
「クロード。お前の仕業なのか? 人さらいをしたのも、行商人にドワーフ製品を略奪させたのも、お前の仕業なのか?」
「へっ。そうじゃないって言ったらお前は信じるか? 信じねぇだろそんなこと」
「どうしてそこまで、お前は仮にもギルド『栄光の光』のギルドオーナーだっただろう? どうしてそこまで人としての心を捨てられるんだ?」
「そんなの決まってるだろ。俺の本性がどうしようもないクズ野郎だからだよ。俺は自分のことが可愛いだけだ。他人が泣こうが叫ぼうが、どれだけ損をしようとなんとも思わねぇ。むしろ喜々としてできちまうんだよ」
クロードは薄気味悪い笑みを浮かべる。
「他人が泣くのが楽しくて、傷つくのが楽しくて、それで損するのが大好きなんだよ。俺は俺だけよければいいんだよ。そういう醜い奴なんだよ俺は。『栄光の光』を失って気づいた。かつてのギルドオーナーの俺と今の俺、どっちが本当の俺か? って。答えは簡単だった。今の俺だよ。今の俺こそが本当の俺だ。かつての自分より今の自分の方がよっぽど生き生きしてるぜ。盗賊の生き方がよっぽど合ってるらしい」
「そうか」
俺は諦めた。もうだめだ、こいつは。当然野放しにはしておけない。
「ドワーフ兵、クロードを捕まえてくれ。それで全てが終わる」
「「「はい!」」」
ドワーフ兵がクロードに迫る。
「もう逃げられねぇぜ、後ろは崖だしな」
「大人しく観念するんだな」
ドワーフ兵はじりじりとクロードに詰め寄る。
「や、やめろっ。くるなっ。こっちに!! いやだっ!! つかまりたくない!! つかまったら豚箱だ!! 臭い飯食わされて、それで最後は死刑にされるんだっ!! 俺はもう何人も殺っちまってるから死刑になるにきまってる!! そんなのはいやだっ!」
「観念しろクロード。貴様はそれだけの事をしてきたんだからな」
俺は冷淡に告げる。こいつに対する同情の心は一切ない。必要性などないであろう。
「い、いやだっ! 捕まりたくない!! いやだっ!!」
クロードは身勝手なことを言い始める。何人もこいつのせいで命を落とし、そして多大な迷惑を王都とドワーフ国にかけたというのに、わが身がそれだけかわいいらいし。
こいつにとって他人の命や迷惑など一ミリたりとも考慮していないようだ。真正のクズだ、こいつは。もういい、こいつと関わるのはこれで終わりだ。
こいつにはそれなりの裁き、報いを法の下に受けてもらう。
「い、いやだあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
恐怖に駆られたクロードは絶叫する。そして後ずさった。自分の背後が崖であることも忘れ。
「あっ……」
クロードは呆けたような顔になる。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
クロードは長い絶叫をする。
ドッポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
高い水の柱が立つ。かなりの高いところから着水したのだ。下が水だからクッションとなって助かるということもないだろう。第一、万が一息があっても窒息して死ぬ。
「フィルド殿……あいつ勝手に落ちちまいやしたぜ」
「放っておけ。他の盗賊達を捕まえろ。一人たりとも逃すな」
俺は命ずる。
あっけない最後だったな。だが人間の最後なんてそんなものか。これがかつてトップギルドとなった『栄光の光』のギルドオーナークロードの末路であるとは。
当時のやつに告げても笑い飛ばして信じようともしなかったであろう。
俺達はドワーフ兵と協力して、盗賊達を捕まえていった。
「フィルドの旦那。これでおおよそ捕まえ終わりました」
「よし。逃した奴がいるかもしれないが、そいつ等は王都の方に指名手配してもらうようにする。他の盗賊達から情報も聞き出せるだろうしな。これから先は王都の警備兵の仕事だろう」
「「「はい!」」」」
俺達は捕らえた盗賊達を引き連れ、ドワーフ国まで戻った。