【盗賊クロードSIDE】フィルド率いる盗賊討伐隊から逃げる
盗賊クロード率いる盗賊団は山の麓の一軒家を根城にしていた。元々は罪もない親子のものだったが、我が物顔でのさばっている。
家の中は酒瓶や麻薬が散見され、散らかり放題である。
「ぐー……がー……ぐー……がー……」
「zzzzzzzzz……zzzzzzzzzzzzzzzzzzz」
朝方まで酒を飲みまくっていた盗賊たちは床でそのまま寝入っていた。
「はぁ……ねむ……」
朝方クロードも目を覚ました。
「さて、今日もどっかから盗んでくるか、人さらいでもして金を稼ぐか」
もはや自分たちがやっている悪事をクロードはただの仕事だとしか認識していなかった。
ただの生業として。日課としてルーティーンをこなしているかのように。クロードにとってはその程度の物事に成り下がっていた。
そういつも通りの毎日が過ぎるものだと思っていた。そんな時の事であった。当然のようにこんな悪事がいつまでも持つはずがない。歪はいずれは修正される。悪は滅ぶのが世の常なのだ。
「親分!!」
盗賊の子分がアジトに駆け込んできた。
「なんだ?」
「見回りから報告です!! なんでもこっちの方にぞろぞろと何人も向かっているようです!! それもどうやらドワーフ兵の様子で」
「ドワーフ兵だと……どうしてこの場所がわかった。何か掴んだか」
クロードは首を傾げる。この場所が割れるような情報は流してはいないはずだが。いや、ひとつだけある。奴隷として売り渡したあの親子だ。
何らかのきっかけで逃げ出したか、何かでそれで誰かにチクったのだろう。凡そそんなところだ。
そしてその推測は概ね正解であった。
「他にはどんな奴がいた?」
「冒険者のような男がいました。それに金髪をした姉妹のような別嬪さんがいました。それからちびっこい女の子も」
「金髪をした姉妹……」
他の情報からはわからないが、何となくクロードはその情報からルナシスとその妹のイルミナの事を思い浮かべた。
――という事はその冒険者のような男、っていうのはフィルドの事か。ちびっこい女の子というのはわからないが、恐らくは女のドワーフであろう。
クロードは弱くはなったが全くの馬鹿という事はない。今の戦力さでフィルドに対して足元にも及ばない事は既に理解していた。
「フィルドの野郎だ!! あの野郎、俺達を追ってきやがったんだ!!」
勝てるわけもない、実力差は明白だ。
「どうしやしょう、親分!!」
「金目の物をまとめろ!! 逃げるんだよ!! とにかく!! おら、お前ら起きろ!!」
「zzzzz んんっ? もう朝ですか!? 親分」
「バカ野郎!! 呑気に寝てるんじゃねえ!! 俺達を取っ捕まえにきた連中がいるんだぞ!!」
「なんですと!! そりゃまずい!! 逃げましょうぜ!! 親分!!」
盗賊たち数十名は揃って目を覚ました。勝てる相手にだけ闘う。弱い奴だけ集中して狙う。そして自分たちより強い奴らには尻尾を巻いて速効で逃げる。それがクロード率いる盗賊団のモットーであり、処世術でもあった。
実に盗賊らしい主義ではあった。
「ど、どこに逃げましょう、親分!!」
「山の方に昇るぞ!! 森の中に隠れるんだ!! そうすればなかなか見つからねぇ!! あいつ等がどれだけ強くたって俺達を見つけられなきゃ捕まえられねぇんだからな!!」
そもそも交戦にならなければ相手がどれだけ強くても関係がない。要するに逃げればいいのだ。逃げるが勝ちだ。何も正々堂々闘わなければならないという理由はない。
荷物をまとめたクロード盗賊団は脱兎の如く、フィルド達の捜索隊から逃げ出していった。