商人アルデヒドの店に行く
俺達は男達から聞いたその商人アルデヒドの店に行く。
「大きい店ですね」
「ええ。とても大きいです」
ルナシスとイルミナは見上げる。何階建てにもなっている高層の建物がそこにあった。
「どけっ! それは俺のだっ!」
「私のよっ!」
「いいやっ! 俺のだっ!」
安売りでもしているのだろう。複数人が商品を巡って争奪戦をしている。店は繁盛しているようだった。沢山の人が店には詰めかけている。
真っ当な商売をしているのならいい。だが、異常な程流行っている店というのは怪しいものであった。
それが異様な程の安売りの結果だとしたのならば、どうやってその商品を安く仕入れているのだろう? という事になる。
商売である以上採算が合わなければやっていられない。続けられるはずがない。
やはり異常な程の安売りというのはどこかで無理がくるはずだし。無理なく続けられるとしたらやはり異様な感覚を覚える。
やはりこの店はどこかおかしい。そう感じる事ができた。だが一般客という事はそんな事は気にも留めない。
彼らにとっては欲しい商品が安く手に入る事が第一なのだ。それが彼等にとって重要なのであって、店がどのように商品を仕入れたのか、そんな事は気にも留めていない物事なのである。
「とりあえず中に入ってみよう」
「「はい」」
俺達三人はアルデヒドの店に入る。
◇
「凄い安いですね」
ルナシスは言う。
「そうなのですか?」
イルミナは首を傾げる。エルフの国から外界に来たばかりの彼女には普通の金銭感覚というものがよくわかっていないようだ。
「ええ。他の店の半値くらいの商品もゴロゴロあるのよ」
「へー……だからこんなに繁盛しているのですね」
俺は武具エリアへと移動する。そこにはゴロゴロとドワーフ製品が並んでいた。しかもかなり割安な値段でだ。
「やはり、安すぎる。ドワーフ製品は普通これだけの値段では売れない」
それでも庶民からすれば手の届かない値段ではあるが、本来の価値からすると大分安い金額が設定されている。
「やはり何かありますか? フィルド様」ルナシスは聞いてくる。
「ああ。多分な」
俺は店の商品の異様な安さを訝しんだ。
「いかがされましたか? お客様」
笑顔で男が接客に来る。豪華に着飾った細身の男であった。
「私は店主のアルデヒドと申します。どうされましたか? 私の店の商品に何か気がかりでも」
「い、いえ。随分安いなーと思って」
「ええ。お客様に喜んでいただこうと精一杯努力してどこよりも安いお値段で提供させて貰っています」
「す、すごいですね。これだけ安い金額でちゃんと利益が出ているのか心配になっちゃいます」
俺はそれとなく探りを入れる。
「はい。それはもう、努力に努力を重ね、薄利多売で何とか店を切り盛りしているのでありますよ」
「へー。それはすごいですね。薄利多売ですか」
何となく嘘臭く思えた。アルデヒドはかなり着飾っている。何とか利益を出しているような感じはしない。かなり潤っている感じがした。
何かがおかしい。
「それではお客様。ゆっくりとお買い物をお楽しみください。何かありましたら是非私か従業員の方にお声かけください」
アルデヒドは俺達の前を去っていく。程なくして俺達は店を出た。
◇
「フィルド様……いかがだったでしょうか?」
ルナシスが聞いてくる。
「やはり怪しいな。薄利多売と言っているけど、あの潤いよう。それなりに利益率が高くなければなりはしないはずだ。一番ありうるのは盗品の買い付けだ」
「盗品の買い付けですか?」
「ああ。闇市場で盗品を買い付ける。盗品は売る盗賊もやばい事を知っているから捨て値でも売りたい。盗賊側も何か原価が発生しているわけではないから、それなりの値段で構わないんだ。そして闇市場でアルデヒドが商品を安く買い付ける。それが品物を安く販売できている理由だ」
「そうなのですか。やはりあの店は……」
「ただこれは推測だ。もっと確固たる情報が欲しい。しばらくアルデヒドの周辺を探ろう」
「「はい!」」
俺達はしばらく、アルデヒドに対する聞き込み調査を行う事にした。