商人ギルドを暇つぶしで散策
「うわー。綺麗な宝石ですーーーーーーーー!」
感極まってイルミナが声をあげる。ゴンザレスが笑みを浮かべる。まるで孫娘を見ているかのようだ。
実際のところイルミナがエルフである事を知らないゴンザレスは自分より年上である可能性を微塵も考えていなかった。
ショーケースに飾られている緑色の輝く大きな宝石。エルフの国は豊かな森と天然資源に囲まれてはいたが、それでもありとあらゆる資源が集まっていたというわけではない。
国に閉じこもりきりだったイルミナにとっては特に新鮮に映った。ギルドで働き詰めであったであろうルナシスもイルミナ程ではないが興味深そうに商人ギルドを見物していた。
「ゴンザレスさん、あの大きな綺麗な石はなんですか? あれも宝石ですか?」
イルミナは飾られている丸い石を指した。宝石と違い、完全な円形になっている。意図的に削ったのでもない限り普通はそうはならない。
整っているが故に不自然な印象を受けた。それが普通の宝石であるのならば。
「いや。あれは宝石ではない。召喚石と言って、召喚獣が閉じ込められているんだ」
「しょ、召喚獣ですか……」
イルミナは表情を曇らせる。俺達も複雑な表情になる。
「ああ。召喚獣だ。ここにある召喚石は比較的安全なものばかりだけど、中にはアンダーグラウンドで危険な召喚石を取引している商人もいるんだ。最近、王都で巨大な竜が現れて王都を破壊して回ったって噂を知っているだろう?」
「え、ええ。まあ」
イルミナは苦笑いをする。まさか、イルミナがその場に直に居合わせていたとはゴンザレスは夢にも思わない。
「あれは禁忌指定されている危険な召喚石のせいだと言われてるんだ。幸いどこかの誰かが倒してくれたみたいだけど。まさか、フィルド君が倒したんじゃないだろうな?」
冗談っぽくゴンザレスは言ってくる。
「い、いえ。違いますよ。俺ではないです」
面倒なのでバハムートを倒したのが俺だという事は秘密にしておこう。
「はっはっはっは! それはよかった。あんなものまで倒せたのなら、フィルド君にこの世で敵う相手はいないって事じゃないか」
ゴンザレスは高笑いをする。
「召喚石っていうのは色々なものがあるんですね」
「ああ。ここにあるのは運搬の役に立つ召喚獣だったり、戦力としては低い召喚獣がほとんどだよ。中には強力な奴もあるけど、それは滅多に手に入らないし、アンダーグラウンドな取引でしか得られないんだ。扱っているのは人身売買も平気であるような連中だよ」
「色々と複雑に動いているのですね。人間の世の中は」
ぽつりとイルミナは、自分も人間であるという建前を忘れて呟く。
「がっはっはっは。何を言っているんだ、イルミナちゃん。君も人間だろうに。まさか実はエルフだとでもいうんじゃないだろうね」
「い、いえ。ち、違います!」
イルミナは頭を振った。ゴンザレスは妙に鋭いところがある。ただ本人はただの冗談で言っているとしか思っていないようだった。
「ゴンザレスさん! 卸された承認の査定が出たそうです」
商人がゴンザレスを呼びに来た。
「おっと。結構時間が経ったようだな。行くとしようか」
ゴンザレスに連れられ、俺達は再び商人ギルド長アレクにいる部屋へと戻っていった。