商人ギルドで大商人ゴンザレスと再会する
「いらっしゃいませ! 商人ギルドへようこそ」
俺達は商人ギルドへと入る。前に入った冒険者ギルドとは少々様子が異なっていた。
「さあ! これは冒険者ギルドからの出品物!! ドラゴンの牙だ! 金貨1枚からのスタートだよ!」
「金貨1枚だ!!」
「俺は金貨2枚!!」
「3、3枚!! 3枚だ!!」
商人達の威勢の良い声が聞こえてくる。
「フィルド様、あれは何をしているのでしょうか?」
特に人間の世界を知らないイルミナは不思議そうに聞いてくる。
「あれは競りだ。競りをしているんだ」
「なんであんな事をしているんですか?」
「要するに金額を出す競争をしているんだ。一番高い値段をつけた人が商品を獲得できる」
「なぜそんな事を。普通に売る事ができないんですか?」
「珍しい品だと価格がわからない時があるんだ。不特定多数に競争させた末で売った方が、利益が最大になる事が多いし、確実に値段がついて売れる。それに、ああやってヒートアップしていって、明らかにその価値より高い値段で買うやつもいるだろ」
「ええい!! 金貨10枚!! 金貨10枚!! どうだっ!!」
「くっ、くうっ!!」
他の商人達は悔しそうな目で見る。
「た、確かにいますね」
「ああやって高い金額をわざとつけて、他人を打ち負かす事に快感を覚える部分もあるんだよ。まあ、実際買った後後悔する事も多いけどな。明らかに不利な競り(レース)の場合、冷静に撤退するのも重要な事だ」
「へ、へぇ! 面白いですっ! 人間の世界ではエルフの国にはない面白い文化が色々あるのですねっ!」
イルミナは目を輝かせ、その情景を見ていた。
「エルフの事はあまり出すな。人間は排他的な生き物だ。あまり他種族、特にエルフのように外見的特徴がある種族は物珍しくみられるか、迫害されるだけだ。バレると色々面倒なことになる」
「は、はい……申し訳ありません。フィルド様」
「いや。別に謝らなくても。ん? あれは――」
「ん? ……おやっ! 君はフィルド君ではないか」
その時であった。俺は見覚えのある商人と再会する。大商人ゴンザレス。あの時山岳地帯で一緒にドラゴン鍋を囲んだ商人である。
「ゴンザレスさん、どうしてここに」
「それはこちらの台詞だよ。わしは大商人だよ。仕事だよ、仕事。商品の仕入れにな」
確かにここは商人ギルドだ。大商人であるゴンザレスが出入りしていても何の不思議もない。
「それにしてもあの時は世話になったね。フィルド君」
「いえいえ。こちらこそ、色々よくして頂いてありがとうございます。ゴンザレスさん」
「おやおや。可愛い恋人を二人も連れて、モテモテで羨ましいよ」
ルナシスとイルミナを見やったゴンザレスはそう言ってくる。
「はは…………」
俺は苦笑を浮かべる。やはり傍目にはそうとしか見えないのであろう。面倒くさいので説明はせずに流すが。
「それでどうして君達がここに? わしとしてはその方が不思議だよ?」
「実はドワーフ国から商品の卸しを委託されているんです」
「商品の委託だと!! ドワーフ国から」
「はい。そうです」
「な、なぜフィルド君がドワーフ国から商品を委託されるのだ。ドワーフといえばエルフ程ではないが、進んで人間と関わろうという種族性ではないだろう? 限られた行商人以外はあまり接点を持ちたがらないはずだ」
「そ、その……色々あって」
俺は言葉を濁す。
「そうか、まあ言いたくない事があるならいい。色々な事情があるのだろう。それでこれから商人ギルドにドワーフ製品を卸しに行く、って事だろう?」
「ええ。そうなります」
「わしも同行しようじゃないか。わしはかなり商人としてのキャリアがある。当然ドワーフ製品も何度も取り扱った事があるし、目利きの出来る方だと自負しているよ。だから不当に値踏みをされないか、見てあげよう」
「本当にいいんですか?」
「ああ。あの時助けてもらった礼だよ」
「そんなつもりでしたんじゃ。でもありがとうございます。心強いです」
確かに俺達は商人としてのスキルや知識を何も持ち合わせていない。ドワーフ製品の値打ちを知らない俺達が商人ギルドに安く買いたたかれる可能性は十分あり得た。その際に大商人ゴンザレスが助け舟を出してくれれば非常に心強かった。
「そうだ。では一緒に奥にいこう。そこで商人ギルドは仕入れをしているんだよ。そこにギルド長もいるはずだ」
俺達はゴンザレスに促され、商人ギルド長のところへと向かう。