【ドワーフ姫セリスSIDE】フィルドの後を追いかけるがなかなか追いつけない
「ふふん……あんな人間の事、信用できるもんかしら」
ドワーフの姫であるセリスはドワーフ兵数名を連れてフィルド達の追跡を始めた。目的のひとつはフィルドに対する信用のなさだ。
あんな人間、勢い余って行商人としての役割を引き受けたがきっと失敗するに違いないとセリスは思っていた。
例えば道中には盗賊が出没しているのだ。その盗賊相手に半べそかいて逃げ出し、ドワーフ国まで逃げ帰ってくる。
そしてその時に颯爽とドワーフ兵を引き連れてセリスが助太刀に馳せ参じる計画があるのだ。
颯爽と現れたドワーフ兵とセリスにあの生意気な人間は泣いて感謝するに違いない。
「ふっふっふ。完璧な計画ね」
セリスは一人悦に入っていた。きっと助けに入った時、あの生意気な人間は泣きながらセリスに飛びついてくるに違いない。
「ありがとうございます。セリス姫。あなた様は命の恩人です」
「ほっほっほっほ。当然の事をしたまでよ。これに懲りたらあたしが小さいからって、馬鹿にしない事ね。ほっほっほっほ。これからは一人前の大人の淑女として扱いなさい」
セリスは妄想の中で悦に入り、高笑いをしている。
「け、けど姫様。あいつ等のパーティーには剣聖ルナシス様がいらっしゃいますぜ」
「だからなによ」
「ルナシス様は滅法剣の腕が立つらしいですぜ。『剣聖』って呼ばれているくらいなんですから。ルナシス様がいれば大丈夫なんじゃ」
「そんなのわからないじゃない!! いい!? 多勢に無勢って言葉があるじゃない!! 盗賊はきっと大勢で現れるわよ!! そうなったらそのルナシス様だって大苦戦をするはず!! あの人間は泣きわめいて何もできなくなるわよ!!」
「そ、そうですか。確かにそれは考えられますね」
「セリス姫!!」
その時別のドワーフ兵が大慌てで声をかけてくる。
「な、なによ」
「あいつ等、もう結構行っちゃいましたぜ。このままじゃ置いてかれてしまいます」
「な!? なんですって!! 思ったより足の速い連中ねっ!! さっさと追いかけるわよ!!」
「「「はい!」」」
こうしてドワーフ兵を引き連れたセリスは、フィルド達の後を慌てて追っていくのであった。
◇
「ひい、ひい、ぜぇ、はぁ」
セリスはフィルド達のあまりの移動速度に息を切らしていた。
「な、なんて素早い連中かしら!」
「セリス姫、す、すこし休憩しませんかっ!」
「馬鹿言っているんじゃないわよ! 連中に置いてかれるじゃないっ!」
「そ、それもそうですね」
「……んっ!? 連中、止まったわね」
「そうですね」
物陰から数人の男達が現れてくる。どうやら盗賊のようだ。
「ひ、姫様!! 盗賊ですぜ!! どうしましょう!!」
「ま、待ちなさい。ここは様子見よ」
「「「よ、様子見」」」
「あの人間の男の実力、見させてもらおうかしら。高みの見物よ。それで盗賊に泣いて命乞いをする頃にあたしらが助けに入るのよ。そうすればあの人間、泣いて感謝するに違いないわ」
「は、はあ……そうですか」
「し、しかし。俺達が盗賊に勝てるのかどうか」
「そんな後ろ向きな心意気でどうするのよ!! 絶対勝つのよ!! とにかく今は様子見するのよ!! わかったわね!!」
「「「はい!」」」
こうしてセリスとドワーフ兵達は盗賊に襲われているフィルド達を物陰から覗き見る事にした。
「ふっふっふ。お手並み拝見かしら、人間」
セリスは物陰から微笑を浮かべていた。