ドワーフ最大の国家ダイガルへ
「ったく……えらい手間取った」
俺とルナシス、それからイルミナの三人はやっとの事でエルフの国を出国した。かれこれ一週間程度は引き留めにあったのだ。
それを何とか振り払い、次なる目的地であるドワーフ最大の国家ダイガルへ向かえるようになったのである。
「大変でしたね。フィルド様」
「お前達も乗っかるからだぞ。まったく」
「好意を持っている殿方と結ばれたい。そう願うのは乙女にとっては純粋な気持ちです」
「だからって結婚とか、そういう制度で俺を縛る事もないだろう」
正直に言えば嬉しい気持ちはある。こんな美少女二人から好意を寄せられて。普通の男だったらそのまま結婚だろうが何だろうが喜んで受けてしまう事だろう。
だが、俺は別だ。俺はもう誰にも縛られたくないんだ。ルナシスだろうがイルミナだろうが。他の誰でも。
あのままエルフ国で一生を閉じるには俺はまだ若すぎた。もっと知らない国や世界を見て回りたいんだ。
だからあのレナードの誘いだって断ったのである。それでエルフ国に縛り付けられては本末転倒ではないか。
「それよりフィルド様、もうすぐダイガルに着きます」
ルナシスがそう言ってくる。
「そうか。もうそろそろか」
「はい」
その時だった。巨大な山の前に二人の小さな男がいた。二人とも武装をしている。
「ドワーフ兵だな」
「みたいですね」
「お前達!! 何の用だ!?」
「ここから先はドワーフの国だ!? 人間の余所者が一体何しにきた!?」
随分と警戒しているようだ、ドワーフ兵は。槍を持って俺達を威嚇してきた。
「落ち着いてください。いかがされたのですか? 以前よりも警戒を増しているようですが」
「それは最近、どうやら商人達が盗賊に襲われているらしいんだ! だから俺達ドワーフ族も警戒をしているんだ!!」
「盗賊ですか……」
何となく俺は嫌な予感がしていたが、確証は得られなかった。クロードの奴、あのバハムートを解き放った後、忽然と姿を消していた。だが俺への逆恨みは忘れていないようで、いずれはまた何かやらかしてくるのではないか、そういう疑念があった。
「だから余所者の人間を通すわけにはいかないんだ!!」
「そうだ!! 悪いけど帰ってくれ!!」
元々人間というだけでドワーフ国といえど簡単には通してくれないであろう。さらには今は厳戒態勢だ。尚のこと難しくなっている。
「仕方ない。ルナシス、イルミナ。お前達を連れてきた役割を果たしてくれ」
「「はい。フィルド様」」
二人はイヤリングを外す。幻惑効果を持った魔道具だ。二人は元のとんがったエルフ耳を姿を取り戻す。
「そ、その耳はエルフ!?」
「はい。私達はエルフの王女です。ドワーフ王に用があって参りました」
(用なんてあったか?)
俺はルナシスに耳打ちをする。
(ただ観光に来ましたとか、好奇心で来ました、というよりは大義名分があった方がいいでしょう)
(して、その大義名分はどうするんだ?)
(適当です。エルフ国がドワーフ国より装飾品を輸入したくなった為、その交渉に、そんなところでしょうか?)
(まあいいけど。任せる)
(はい。任せてください)
実際問題輸入取引となるとエルフ国に少なくない金銭負担が発生しそうではあるが。王女にはそれくらいの裁量権が任されているというのか。
「ドワーフ王に」
「どうするだ?」
ドワーフ兵の門番二人は相談し合う。
「俺達三下じゃどうにもならねぇ。上のものに掛け合ってみるだ」
「そうだな。エルフの王女様方、しばらく待っててください」
「はい。お待ちしております」
ルナシスは笑みを浮かべる。流石は王女だ。外交もお手の物なのだろう。美女に微笑まれると多種族とはいえ絆されてしまう。
程なくしてドワーフ兵が戻ってくる。
「通って良いそうだ」
「やった」
「おらが案内するから、着いてきてくだせぇ」
少々なまっているのはドワーフ故だろうか。こうして俺達はドワーフ国に入国していく事となる。