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エルフの国からの祈りの歌

イルミナの風魔法の助力を得てバハムートに一太刀を浴びせた俺ではあったが、結果としては僅かなダメージと引き換えに、バハムートを激昂させてしまうことになった。


「来るぞ」


 より本気になったバハムートの攻撃が続く。メキメキとバハムートの身体が変化する。


 頭が至るところに増えてきた。七つの頭が身体の至るところから姿を表す。


「な、なんなのですか、あれは……」


「フレアの砲門を増やしたんだ」


「あの攻撃が沢山飛んでくるというのですか?」

 

 恐怖状態になっていたイルミナがさらに怯えていた気がする。


「そういう事になるな……」


「そんな、そんな事って……」


 嘆きたくなるのもわかる。だが、どうしても避けようのない現実だった。


「来るぞ」


 俺は聖剣エクスカリバーを構える。


「ああ……けどフィルド君。何か勝機があるのかい?」


 レナードに聞かれる。


「別にないです。というよりひとつだけあるんですが」


 聖剣エクスカリバーの切り札である『星落とし(ホーリーブレイカー)』それであるならばあのバハムートにでもまとまったダメージを与えられるに違いない。だが、あれは正真正銘の切り札だ。


 使用した後、俺のHPもMPも空同然になってしまう。その時、バハムートが生きていたら致命傷だ。


 なので出来るだけダメージを与えれてから最後のとどめとして使用したいと考えていた。


 だが、現実としてはダメージを与えた事でバハムートはより苛烈に攻撃をしてくる事になる。

 

 あれでは先に俺のHPとMPが減ってしまいかねない。そうなれば『星落とし(ホーリーブレイカー)』の威力が減ってしまい、結果としてバハムートを倒すのが困難になってしまう。


 この切り札は俺のHPとMPに依存した攻撃なのだ。


「ともかく、それはこの窮地を乗り切ってからです」


「そうだな。それはその通りだ」


「来るぞ! ルナシス! イルミナ!」


「「はい!」」


 七つの砲門から放たれる暗黒のフレアにより、王都はより地獄絵図の様子を呈していた。


 無差別に放たれるフレアによって、王都の建物が次々と消失していく。


 あれに当たったら大けがどころではない。まともな人間なら死ぬだろう。


 蘇生効果や回復効果を持っているレナードならともかく、ルナシスとイルミナは特に怪しかった。


 このレベルのプレイヤーでも一撃も耐えられないかもしれない。俺は一撃やそこら

なら耐えられるだろうが、耐えたところでそれが勝機に結び付くわけでもない。


 だがやり過ごす以外に道がなかった。


 放たれた七つの砲門からのフレアの破壊力は想像以上だった。一瞬にして街がなくなっていくような。恐ろしい光景。


 完全な天災だった。もはやバハムートはモンスターなどではない。神に近い、絶対に逆らってはいけないそういう恐ろしい存在なのだと思い知らされた。


 結果として、俺は防御スキルである『アヴァロン』を使用せざるを得なくなる。


 俺のMPは空になった。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 俺は肩で息をする。


「自分の無力さをこれほど痛感した事はありません」


 ルナシスは嘆いた。


「嘆く事はない。ルナシス。あんな化け物、手も足もでないのが普通だ」


「ですが、フィルド様のお役に立ちたいのに。これでは完全に足手まといではないですか」


「それもそうだな」


「ひ、否定してはくれないのですね」


 ルナシスは余計に嘆く。


「そこはまあ、実際そうだし。だが、安心していい。さっきもいっただろ。こんな化け物の相手ができないのは仕方ないって」


「ですが、私だって囮ぐらいにはなります」



 ルナシスは駆けだす。



「ま、待て! ルナシス! お前勝手に動くなっ!」


 バハムートの砲門がルナシスを捉えた。


 瞬間。


 ルナシスにフレアが放たれる。


「えっ!?」


「ちっ!」


 俺は駆けだした。ルナシスは強く瞳を閉じた。


 しばらくして、痛みも衝撃もなかった事に驚きつつ、ルナシスが瞳を開く。


「フィルド様!!」


「大丈夫か!? ルナシス」

 

 俺はバハムートのフレアを食らった。ルナシスを庇ってダメージを受けた。幸い俺のHPと防御力なら死にはしないようだ。


 だが大ダメージは負った。背中が焼き付いている。


「フィルド、様、どうして!? どうして私を庇ったのですか!?」


 涙さえ浮かべながらルナシスが訴えてくる。


「私なんて、フィルド様にとってはお邪魔じゃなかったんですか。フィルド様は一人でいたいのでしたら、私などお邪魔な存在でしかないはずです。なのに、どうして!?」


「わからない。何となくだ。強いて言うなら身体が動いただけだ」


「身体が動いたって?」


「自分でもわからないんだ。だから理由を求められても俺が困る」


「……け、けど」


「さて」


 俺は満身創痍になった身体を引きずり、バハムートへと向き合う。


「それでも、こいつを何とかしなきゃな」


 天空に聳える漆黒の竜はいずれ健在。その威圧感は低下していない。むしろ増しているくらいだ。


 状況は最悪だ。


 何も勝機が見えない。


 ここで俺は終わるのか……。そう思わざるを得なかった。


 その時だった。どこからともなく歌が聞こえてきた。それは実際の音による歌ではないかもしれない。


 もっと精神的な、霊的な波動がここまで伝わってきたような、そんな気持ちになった。


「これは……」


「エルフの方角から伝わってきています。祈りの歌です」


 エルフの国。俺がルナシスと行った国だ。短いながらも色々な事があった。騎士団とギガレックスを討伐しにいった、そして膨大な経験値を得た。


 さらにはそれをエルフの民に分配し。その結果森の魔力が回復し、エルフの国は救われる事になった。


 ここにいるイルミナもその結果救われた命のひとつだ。


 俺の危機を何らかの力で察して、それで祈りでも捧げてくれているのか。


 ……かもしれない。


 だけどそれが今の状況に何の意味が。その時だった。俺の頭の中にあるひらめきが訪れる。


「そうだ! 思いついた!」


「なっ、何を思いついたのですかっ!? フィルド様!!」


「俺のポイントギフターとしての能力をだよ。俺のポイントギフターとしての能力は経験値を分配する時はある程度近い場所にいなければならない。だけど、経験値を返してもらう時はその限りではない」


「経験値を返してもらう?」


「ああ。ギガレックスから得た膨大な経験値を俺はさらに2倍にしてエルフの民に分け与えた。その経験値を返してもらうんだ。そうすれば俺は膨大な経験値を得て、その結果今以上にLVUPする事ができる」


「だだでさえ高いフィルド様のLVがさらに高く」


「そうなれば、あの竜王バハムートが相手でも」


 二人は驚いていた。そして絶望に染まっていたその目に希望の光が宿り始める。


「ああ。勝てるかもしれない」


 それは勝機が見えた俺でも同じだ。依然としてバハムートの存在は健在。


 だが、俺の中に確かな希望の光が宿り始めた。さっき程バハムートから恐怖を感じなくなってきた。


「見ていろ、竜王バハムート」


 俺は宣言する。


「とびっきりの逆転劇を演じてやるからな」


 余裕を取り戻した俺の表情からは笑みすらこぼれそうになった。


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