レナードから熱烈な勧誘を受ける
「フィルド様!」
「やりましたねっ! フィルド様!」
「すごいですっ! あの『白銀の刃』のギルド長、あの聖騎士レナード・レオナールをいとも容易く」
「流石私達のフィルド様ですっ!」
ルナシスとイルミナが駆け寄ってくる。
「やべっ」
「どうかしましたか?」
「手加減している余裕がなかった。流石に死んだか?」
「し、死んでも仕方ありませんよっ! だってあのレナードの方から仕合をしかけてきたんですからっ!」
ルナシスが言ってくる。
「ま、まあ。そうだな。それはあるな」
しかし別に憎い相手ではなかった。殺して気分のいい相手ではない。だが、地に伏せたレナードが立ち上がる。
「う、嘘ですっ! なんで起き上がれるんですかっ!」
「フィルド様の攻撃を受けて、起き上がれるなんてっ! そんな人間いるはずがありませんっ!」
「フィルド様、手加減をされたのですか?」
「うーん。そういうわけでもない。全力だった」
「はあ、はあ……流石はフィルド君だね。僕がこうまでこっぴどくやられたのは生まれて初めてだよ」
見るとレナードは聖剣デュランダルから力を注がれていた。回復魔法のような力がその体に流れ込んでいく。
「それもまた、聖剣デュランダルの効果か?」
「そうだよ。この聖剣デュランダルは別名『不滅剣』と呼ばれていてね。使用者に不死に近い蘇生能力を授けてくれるんだ。僕は死にかけた、いや、死んだかもしれない。だけどこの聖剣デュランダルのスキル『自己蘇生』により、僕は蘇ったんだ」
「そうか」
「ちなみに自己回復スキルもあるから、僕のHPは段々と回復していくよ」
レナードの身体は緑色の光に包まれ、徐々に癒えていくのを感じていた。
「そうか……まだやるのか?」
自己蘇生が何回も使えるスキルとは思えない。そんな大がかりなスキル。大抵は使用制限のあるものだ。
完全なる不死などこの世に存在しないはずだ。不滅剣もいつかは打ち砕かれる時がくる。そのはずである。
「いや。これ以上はやらないよ。僕の負けだ」
「やった! フィルド様の勝ちですっ!」
「流石はフィルド様ですっ! あの『白銀の刃』のレナード・レオナールを倒してしまわれるのですから。私でも勝てるかわからない強敵をいとも容易く。流石すぎます」
ルナシスとイルミナは飛んで喜んでいた。
「これは僕に勝った褒章だ。受け取って欲しい」
「ありがとうございます」
俺は破邪のネックレスを受け取る。
「そして、フィルド君。わかった事があるんだ」
「何がですか?」
「君は我がギルド『白銀の刃』に絶対的に必要な人物だ。どうかうちに入ってはくれないか?」
「お、俺が『白銀の刃』に!?」
『白銀の刃』といえば『栄光の光』と入れ替わりにトップになった、まごうことなき現在王国アルテアトップのギルドである。しかもそのギルド長であるレナードが直接俺を勧誘してくるとは思ってもみなかった。
「ああ。君の力が必要なんだ。君の力があればきっとうちは世界一のギルドまで最短で駆け上がれる」
「けど」
レナードは俺の手を握ってくる。グローブをつけているので素肌が直接触れるわけではないが、何となく手に熱がこもっている事は伝わってきた。
「君に僕の右腕、いや半身になって欲しいんだ。副ギルド長の地位を用意しよう。その上、僕と同じだけの権限を与える。さらには望むだけの報酬を与えよう。僕は君を『栄光の光』の連中のように無下に扱ったりしないよ」
「けど……」
「勿論、ルナシスさんやイルミナさんも手練れの実力者だ。彼女達の力も欲しい。役員待遇で迎え入れたい。そうすれば彼女達とも一緒にいられる」
な、何かを勘違いしているだろう、レナードは。恐らくルナシスとイルミナが俺の恋人、いや、二人同時にいる事から手籠めか何かだと思い込んでいるに違いない。
「君たちの力があれば『白銀の刃』は世界一のギルドになれる。そして世界をよりよい形に変革していく事ができる。フィルド君、何より君の力が必要なんだ」
「レナードさん……」
「どうか、考えてくれないか? そして僕の手を取ってくれないか? 君が欲しいものは何でも渡そう。何が望みなんだ? 君は、金が必要か? それとも名誉か? 女に不自由しているとは思えないけど、それでももっと欲したりするものか?」
「俺は――」
悪い気持ちはしなかった。かの高名な『白銀の刃』ギルドオーナーであるレナードからこうも熱心に口説かれるのは。
悪い気分ではなかったが、それでも俺の本心は既に決まっていた。俺は答えをレナードに告げようとする。
そんな時だった。俺達の前に思いもしない人物が現れたのは。
突然のタイミングでその男は姿を現す。